子どもへの体罰「#レイソルはたたかない」 ―柏レイソルがセーブ・ザ・チルドレンとたたかない、怒鳴らない子育てを推進する理由―

「どうすればよくなるか」をいつも考えるのはスポーツ選手ならではかもしれません。
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柏レイソルMF栗澤僚一選手(中央)、株式会社日立柏レイソル 事業本部担当部長 河原正明氏(右)
Save the Children

日本国内では、子どもへの体罰の是非をめぐる意見は大きく二分している。虐待に至るケースは論外だが、しつけにある程度の体罰は必要とする意見と、体罰はどのような形であっても許されないとする意見だ。

このように世論が二分される課題に、Jリーグのサッカークラブである柏レイソルが、正面から向き合っている。柏レイソルは、柏レイソルは、子どもの体やこころを傷つける罰のない社会を目指してセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが推進している「子ども虐待の予防」の活動を2015年から支援している。2016年からはレイソルファンや一般市民向けに「たたかない、怒鳴らない子育て」の講座*を実施し、9月30日の対ヴァンフォーレ甲府戦では、「#レイソルはたたかない」をキーワードに、たたかない、怒鳴らない子育てを推進するためのチャリティマッチを開催する。

チャリティマッチの開催を前に、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンで子ども虐待の予防事業を担当するスタッフが、現在2人の子どもを子育て中の柏レイソル栗澤僚一選手と、事業本部で社会貢献活動を推進する河原正明氏に、話を聞いた。

子どもたちがいないとサッカーは成り立たない

― 早速ですが、柏レイソルが「子ども虐待の予防」の活動支援を始めたのはどんな経緯からでしょうか?

河原正明氏(以下、河原):

柏レイソルは2012年からセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの活動を支援しています。当初はベトナム事業支援を、2016年から日本国内の子ども支援をしています。以前から日本でも子どもに対する問題はいろいろあると認識しており、私たちも子どもたちに向けてアカデミーという育成組織をつくって活動していますが、子どもたちがいないと柏レイソルのサッカーも成り立たちません。そうした子どもの問題に対して進めていきたいというのが、大きな理由のひとつにあります。レイソルアカデミーだけでなく、地域の子どもたちも含めて、柏レイソルにとっては子どもが大事だと思っています。

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河原正明氏
Save the Children

― 子どもの虐待問題については、世の中にはしつけとしての体罰も仕方がないとの考え方がある中で、こうした活動を支援することにクラブ内で議論が分かれませんでしたか?

河原:結論から言うと、議論が分かれることは特になかったです。サッカークラブとして自分たちができることを考えたときに、子どもを大切にしているセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンのような国際NGOの活動を支援する形で、自分たちの社会貢献活動の意志を示すというのが大きな理由ではありますね。

栗澤僚一選手(以下、栗澤):レイソルとセーブ・ザ・チルドレンの取り組みを選手はあまり肌で感じることはないですけども、僕が選手としても子どもと接する機会があるとしたら、こんなに嬉しいことはないですよね。僕も35歳になって、子どもに伝えるっていうことがいかに大変かということを学んでいます。大人同士だったらわかるかもしれないことを、子どもに対してどう伝えたら一番わかりやすいかという指導の方法もあると思うんです。今後、選手たちの人生において、子どもと接する機会はみんなあると思うので、こういう取組みがあるだけでもありがたく思いますね。

"子ども目線で考えることが一番大事"

― セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンでは、子どもをたたいたり、怒鳴ったり、あるいは食事を与えないというような罰を与えていいという考え自体が子どもの権利の侵害であると考えており、子どもに対して罰を与えることをなくすことを目指しています。でも、じゃあ子どもをたたいたり、怒鳴ったりしなくても子育てはできると言われても、どうやればいいの?という疑問もあると思うので、体罰等を使わないで子どもを育てる考え方をみんなで学んでみようという活動もやっています。ところで、栗澤選手のお子さんは、現在おいくつですか?

栗澤:2歳7ヶ月と2ヶ月です。

― 例えば子どもが2歳ぐらいのときによくあるのが、「イヤイヤ」。例えば、出かけなければいけないのに、子どもはイヤだと駄々をこね続ける。

栗澤: 2歳になってから、子どもが急にわがままになったねと、うちの奥さんと話していました。忙しい時に怒鳴ってしまったり、それがエスカレートすると、たたきたくなる気持ちも分からなくはないっていうか......。いや、もちろんダメなんですよ、たたくことは。でも、そういう気持ちになりそうな自分たちっているよねって話してたんです。それで、子育ての本を参考に、ちゃんと説明してあげたり、話しかけたりするのを多くしました。時間がなくても、子どもが理解できなくても、とりあえず説明するようにしたんです。そうすると、こっちの気持ちも落ち着くし、説明すればいいのかと思うと、手をあげるとかではなく、親も一旦冷静になれる。なるほどなって思って、2人で心がけていますね。

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栗澤僚一選手
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― 日本では、子どもに対して手をあげることを最終的には容認する大人が、全体の半数以上にのぼるという調査結果もあります。でも、言ってもわからない子どもに対して、最後は手をあげるなどの体罰を使うことも仕方がないとしてしまうと、体罰がエスカレートすることを結局止められないということも、研究でわかっています。

栗澤:僕は子どもをたたかない方がいいと気づくことができたけれど、いいと思ってやっている人もいますよね。僕は、そこはなんか違うんじゃないか、やっぱり子どものためを思うと、もっと他にやり方があるんじゃないかと思って、色々調べたのが始まりでした。暴力を振るってしまうと友達にもしてしまう傾向があるということも知ったので、これはやっぱりダメだなと思って。「たたくのもあり」とするのが自分のやり方だと言ったらそれまでだけど、一番は子どもがどう思うかが大事。親のことよりも、子ども目線で考えてあげるというのが一番大事なんじゃないかなと思うんですけどね。

― 体罰を使ってでも止めさせればいいとなってしまうと、子どもにも、そういう暴力を使った解決をしていいのだと教えることにもなってしまいます。子どもにたたいたり、怒鳴ったりせずに接するということは、同時に子どもたちが大人になった時に、体罰がなくても子どもは育てられるのだということを、自然に教えることにもなりますよね。

栗澤:昔は、うちもそうでしたけど、手をあげることが父親の威厳みたいなのってあるじゃないですか。でも、それは絶対違うというか、時代が時代であって、今は今のやり方がある。昔はそれが正解なのか正解じゃないのかもわからなかった。「たたかない、怒鳴らない子育て」といった言葉を耳にすると、たたいたりするのは正解じゃないってことが理解できるからこそ、よりポジティブな子育てができると思うんです。

"怒鳴るんじゃなくて、問いかけに変わった"

― 今の日本では、民法で「懲戒権」という規定がまだあり、子どもを監護・教育する立場にある大人は子どもに懲戒をすることができると定められています。学校では子どもに体罰を使用することが禁止されていますが、家庭内をふくむあらゆる場面での禁止はされていないのが現状です。体罰を必要と考える人も多い中で、柏レイソルのようなサッカークラブがこういう形で支援してくれているのはとても大きいことだと思っています。

河原:柏レイソルでは、昨年に続いて今年も夏休みに3回、「たたかない、怒鳴らない子育て」の講座を開きました。今年は去年の約1.5倍、60人くらいの参加がありました。参加者の3分の1以上が男性でした。関心を持つファンも多いですし、社員も参加しています。

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「たたかない、怒鳴らない子育て」の講座風景
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― クラブのみなさんの中で何か反応があったとか、変わってきたなとか思われることはありますか?

河原:当然、自分たちのクラブがやっている活動なので、関心がある人も増えていますし、しっかり考えて共感してくれるスタッフがいてありがたいです。また、レイソルアカデミーのコーチ向けにも講座を実施しています。たたかない、怒鳴らない指導ができるというのは、アカデミーの、年齢でいえばまだ子どもの選手たちにとって、本当にポジティブな、いいことだなと思っています。このような考え方を知っていて指導するのと、知らないで接するのでは、大きく違ってきますし、立ち返るところ、拠り所になってくれていると思っています。

― レイソルの選手同士では、子育ての話をしたりしますか?

栗澤:しますよ。どうそっちは?とか、こんなことするの?とか。最近子どもがすごく活発になったとか。(子どもの年齢が)みんな近いんですよね。

― 選手のパパ会ですか?

そうですね。朝とか子育て話で盛り上がりますよ。遊ぶところの情報交換をしたりもします。子育てに関しては、何が良くて何が悪いのか、知るべきではあると思いますね。みんな正しい情報は知りたいと思ってるんじゃないですかね。

― 子育ての方法はそれぞれ違っていいと思いますが、でもこれだけはしない方がいいよねということがあって、それがたたいたり、怒鳴ったりすることなんだと考えています。子どもの立場で考えれば、これだけはしない方がいいし、しなくてもちゃんと子育てはできるよということを、お伝えしていきたいと思っています。

栗澤:子どもに自立した人間になってほしいと思ったときに、大人が力で押し付けたら自分の意見も言えない、恐怖でできない、いつも親の顔色を窺って行動する、そういうふうになっちゃうんじゃないかなって考えて、じゃあいらないものは省いていこうと思いました。怒鳴るんじゃなくて、それが問いかけに変わった。「なんでこうなったの?」と聞くことで、子どもが自分の意見を言いやすくなったり、自分で考えたりする力が付くと思うんです。

子どもは大事だよっていう気づきを心の中に

河原:選手同士でもきっと、勉強になりますよね。チームスポーツという特徴はあると思うんですけど、味方にこうしてほしいんだったらそれを伝えないと動いてくれないとか、そういう仲間意識が日頃からあるというのは、スポーツ選手のいいところですかね。

栗澤:「どうすればよくなるか」をいつも考えるのはスポーツ選手ならではかもしれません。前向きにならないと、どんどんプレーの質も落ちていってしまうしね。だから必ずみんなで試合の反省はするわけで。「じゃあこうしていったらいいね」ということを、自分の中でそれぞれ考えていると思うんですよね。それが今は子育てにも生かせればいいかなっていうような考え方が、自然と身についていると思います。

河原:目標は一つで、チーム一丸でそれに進んでいくことを支えることが、僕らスタッフにとっては大事なことですが、子育ても一緒かもしれないですね。人を支えるプレーが、もしかしたら母親に置き換わったり、自分の時もあったりする。子どもを育てていくことは、立場は違っても一緒だと思います。セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの活動を支えることは、決して私達がやってることが偉いんだぞとひけらかすことではないんです。子どものための活動を知ってもらい、子どもは大事だよということに気づいて、皆さんの心の中に何かひとつ残してもらえればと思っています。

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*「たたかない・怒鳴らない子育て」の講座

正式名称は「ポジティブ・ディシプリン」(前向きなしつけ)。2007年にセーブ・ザ・チルドレンと児童臨床心理学者が、世界各国の父母や祖父母、地域の人々とともに開発したプログラム。日本では、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが2009年から普及を開始。