過労死の根絶を!~労働組合の役割~ その1

11月は過労死等防止啓発月間です。
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11月は「過労死等防止啓発月間」だ。2014年に成立した過労死等防止対策推進法で設定されたものであり、「二度と働き過ぎでいのちを落とす人がないように」という遺族や支援者の痛切な思いが込められている。

法施行から3年が経過した今年は、対策強化に向けて「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の改定が行われ、勤務間インターバル制度導入割合を含む数値目標が示され、労働組合の役割についても踏み込んだ記述がなされた。

過労死ゼロへ、何ができるのか、何をすべきなのか。過労死等防止啓発月間に何を訴えるのか。労働組合の役割をあらためて考えよう。

-過労死ゼロの社会を-

過労死は「企業病理」の現れ

社会の意識を変え、勤務間インターバル制度をすべての職場に広げよう

なぜ、過労死はなくならないのか。過労死ゼロへ、求められる対策は何か。多くの過労死事件に取り組んできた川人博弁護士は、「過労死は企業病理の現れだ。防止対策として、勤務間インターバル規制導入、ハラスメント対策を急ぐべきだ」と説く。

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川人 博(かわひと・ひろし)

弁護士、過労死等防止対策推進協議会委員

1978年東京弁護士会に弁護士登録。過労死弁護団全国連絡会議幹事長。

著書に『過労死と企業の責任』(社会思想社)、『過労自殺 第二版』(岩波新書)、『過労死ゼロの社会を』(共著・連合出版)など。

認定件数は氷山の一角

 私は、1988年から「過労死110番」の活動に参加し、以来、過重労働やハラスメントの問題に取り組んできたが、実は戦前にも深刻な「過労死」が起きていた。大正末期から昭和の初めにかけて、長野県の諏訪湖では、製糸工場で働く女性労働者の投身自殺が後を絶たず、湖畔には「ちょっとお待ち」という立て看板が立てられ、慈善団体が巡回活動を行っていたという。

 戦後、1947年に労働基準法が制定され、1日8時間労働が原則となったが、高度経済成長の過程で、長時間の時間外労働を可能にする36協定が定着し、不払い残業(サービス残業)も横行。さらにバブル崩壊以降は、職場におけるストレスや雇用不安が高まり、精神疾患・過労自殺が急増した。

 現在、脳・心臓疾患、精神障害の労災認定件数は、合わせて年間約800件、うち死亡が約200件。これは、申請が認められた件数であり、氷山の一角だ。警察庁統計では、「勤務問題」を理由とする自殺者数は、年間約2000人で推移している。

 今年、国会では働き方改革関連法案が成立し、新しい「過労死等の防止のための対策に関する大綱」も閣議決定されたが、その間にも、職場では、次々と働く人のいのちと健康が奪われている現状がある。

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不正会計と違法な労務管理

 なぜ、過労死が起きるのか。2000年3月、最高裁は、大手広告会社電通の男性社員の過労自殺について会社の責任を認め、仕事で社員の心身の健康を損なわないようにする義務があるとの判決を出した。男性社員は、2カ月で14回もの徹夜勤務を行うなどの過重労働に加え、酒席で上司からハラスメントを受け、心身ともに疲労困憊し自殺に至った。初めて「会社の責任」を認めた電通第一事件判決は、その後の過労死防止対策に大きな影響を与え、厚生労働省の通達が改定され、労働契約法第5条に労働者への安全の配慮が規定された。

 ところが3年前、同じ電通で新入社員の女性が過労自殺する事件が起きた。インターネット広告を担当していた女性社員は、24時以降に退勤し、翌朝9時に出勤する日が続き、2泊3日の徹夜勤務もあった。SNSには「1週間に10時間しか寝れないのでは体がもたない」などの発信が残っているが、上司は、慰労するどころか「キャパがなさすぎる」などと精神的に追いつめた。極度の睡眠不足とストレスから精神疾患を発病し亡くなった。この事件についても、昨年、会社の刑事責任を認める判決が出されたが、これは電通だけの問題ではけっしてない。日本の多くの企業が同様の問題を抱えていると考えるべきだ。

 実は、過労死が発生した職場では、同時に業務の不正が起きている。電通第二事件でも、女性社員が担当していたネット広告に関して2億3000万円もの不正請求が発覚した。同社副社長は謝罪会見で「担当部署が恒常的人手不足に陥っていた」と弁明したが、業務量過多・人員不足の中で、一方では過労死が発生し、他方では不正が発生するという構図になっている。極限まで労働者を酷使し、それでも目標が達成されないと水増請求や不正会計が行われる。過労死は、何らかの「無理」をしている職場で起きているのだ。

「働き方改革」をめぐる課題

 政府の「働き方改革」では、長時間労働の是正が大きなテーマとなり、労働基準法に時間外労働の上限規制が規定されたが、建設業、運送業、医師は適用猶予となった。いずれも過労死のリスクが非常に高い職種だ。

 また、労働時間規制を適用除外とする高度プロフェッショナル制度も盛り込まれたが、すでに裁量労働や管理監督者において、過労死が多発している。28歳の男性は、裁量労働制が適用された直後から徹夜労働が続き、くも膜下出血で亡くなった。「管理職」は、法律で規定されているより低いレベルの役職者まで対象とする企業が多く、残業手当の支払いがされないだけでなく、労働時間管理がまったくされない中で過労死が起きている。最近は、部下を早く退社させるために、仕事を抱え込んでいる管理職も多く、非常に危険な状況だ。

 また、海外出張・海外赴任を要因とする過労死も急増している。中国などアジア諸国への出張・赴任が増え、労働環境が悪化しているからだ。例えば、2008年からの6年間で上海とその周辺で亡くなった日本人は247人。死因は、突然死、心疾患、がん、事件・事故、自殺などだが、私は、その多くは過労死の疑いがあると見ている。

 高齢労働者、障がいを持つ労働者の過労死防止対策も、今後の重要な課題だ。精神障がい者の雇用が義務づけられたが、職場の受け入れ態勢がなく不適応を起こして自死に至るケースも出ている。

職場労使の迅速な対応を

 過労死が発生し労災申請しても、認定されるまで半年、1年という時間がかかる。対応が遅れれば、その間に同様の問題が起きかねない。在職中死亡が発生した時は、職場の労使が、個人的問題だけでなく、背景に過重労働やハラスメントなど共通する問題がないか検証し、労働時間の把握をはじめ、速やかに対策をとることを徹底してほしい。

 今、最も重要な過労死対策は、勤務間インターバル制度をすべての職場に広げることだ。私が担当した事件でも、この制度があれば死なずに済んだのにと思うケースが本当に多い。新大綱に数値目標が入ったが、労働組合としてもぜひ取り組みを強化してほしい。

 ハラスメントをなくし、人間関係の良好な職場をつくることも重要だ。疲れると人間はやさしくなれない。ハラスメントが起きる職場では、過労やストレスが蔓延している。また日本の職場には、軍隊で見られる「抑圧の移譲」という風土が根強く残っている。それが社会に向かって発散されるとクレーマーになる。過酷なノルマなど上からの抑圧を含め、その風土、構造自体を変える努力をしないと、職場は変えられない。

 勤勉であることは大事だが、それと過重労働は別の問題だ。風邪をひいたら、早めに病院に行って休む。健康を第一に考える価値観を定着させる意識改革も不可欠だ。

 課題は多いが、そうした一つひとつの積み重ねが、健康な社会をつくり、過労死ゼロ社会の実現につながるはずだ。

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