愛知県刈谷市は、市内の小中学校の生徒・児童に対し、夜21時以降、スマートフォンや携帯電話の利用を禁止することを決めました。市内の小中学校やPTAでは、4月、新学期最初のPTA総会などで、この議題が話しあわれます。
こうした子ども向けの規制は、お上から舞い降りてくるような印象が少なからずありますが、この取り組みに強制力はありません。刈谷市生涯学習課によると、現場(学校)からの声を吸い上げる形で、こうした取り組みを始めるとのこと。
今回、刈谷市内の校長先生になぜこうした取り組みを実施するのか、話が聞けました。もしかするとこの取り組み、生徒や児童にとって良い結果になるのかもしれません。
■「禁止です」を言いやすく
愛知県刈谷市内の小中学生は、21時以降、スマートフォンや携帯電話の利用が禁止になります。表向きは、生活習慣の乱れを回避するための措置としています。なお、これは主に中学生に向けたメッセージとなり、小学校は中学生が禁止ならば小学生も、といったところのようです。
各小中学校は、市内のPTA連絡協議会などから要請を受ける形で、4月のPTA総会で保護者向けに話があるものとみられます。一部報道では、市児童生徒愛護会の発案となっており、これは刈谷市児童生徒愛護会という組織のことです。
この組織では、各学校の生活指導の先生や、警察署生活安全課の署員、幼稚園の理事らで構成されています。刈谷市生涯学習課によると、そもそもスマートフォンや携帯電話への問題提起は、現場である学校の先生たちから声が上がり、それを学校長らが教育委員会などに吸い上げたとのこと。
同生涯学習課では、学校独自でスマートフォンや携帯電話を禁止するという判断は、なかなかできるものではないと話しており、この愛護会が提案する体裁で、PTA協議会らとの連名で市内の学校やPTAらにお願いするという形を取っています。
なお、今回の刈谷市の一連の施策は、基本的には「禁止です」と言いやすくするためのもので、小中学生のスマホを利用を技術的に不可能にするというものではありません。今回、愛護会で主導的な立場を取る大橋校長に話を聞く機会を得ました。
■ 校長が語る現場の今
大橋校長は、LINEで生徒らがそれぞれグループを作り、悪口を言い合っている場合があるとし、外にその悪口が漏れることで、他のグループともめ事が起こっているとします。また、LINE上で個人の写真や名前を勝手にアップすることでトラブルになることも多いとのこと。
このほか希なケースであるものの、女子生徒のトラブルとして、なんらかの事情で家出をして面識のないLINE友達の家に外泊することでトラブルになるケースもあるそうです。
■ 契約者の責任
大橋校長によると、こうしたトラブルに対して、生徒が大きな犯罪に巻き込まれないよう、学校側ではこれまでも注意をしてきたと言います。しかし、「保護者は自分で子どものために契約しておきながら、トラブルがあれば問題を学校に持ち込みます。子どもに持たせるために契約したのは保護者でありながら学校にです。これでは責任の所在が本末転倒です」と話しています。
要するに、刈谷市の今回の取り組みは、なんでもかんでも学校に責任を押しつけずに、保護者も責任を持って子どものスマートフォン、携帯電話利用の取り組みをやりましょうよ、というためのものです。
強制力のないお願いベースとしているのはこのためで、大橋校長は「僕自身、スマートフォンの機能にはついていけていませんし、親御さんたちだってわかりません。少し前なら夜中にたくさん使っていれば通話料や通信料が跳ね上がるので、『なんで使ったの!』という話になりますが、今は一晩中使ってもそれがわかりません。外部からのお願いという形をとることで、親子や学校で少しでも取り組みやすくしようと考えました」と話しています。
■ 子どもにとっては改悪か。LINE既読スルー、無視の後ろ盾に
では、子どもである生徒や児童は、21時以降、スマートフォンや携帯電話を奪われ、制約による不自由な状態をになるだけなのでしょうか? これに大橋校長は、異なる見解を示しています。
説明によると、現在生徒らのコミュニケーションにおいて、LINEやメールのメッセージにすぐに返答をしなければ、翌日学校で「無視した」「スルーした」などと、攻められるそうです。大橋校長は「ごく普通の子どもの中には、無視やスルーが嫌で常にスマートフォンを身近なところに置いている子がいます。そこまでやりたくないのにって子どももいるんです。そうした子どもたちに、21時以降は親にスマホを取り上げられるから、と言い訳ができる状況を作りたいんです」と述べています。
同じように、22時や23時になって、メールやLINEで呼び出しを受ける子どもたちがいるそうです。刈谷市の取り組みは、こうした夜遊びの第1歩になるような場合でも、「親にケータイを渡しているから知らなかった」と言える、言い訳の後ろ盾になるものを用意したことになります。
■ みんなが守れるルールじゃない
強制力を伴わないため、親が子どもを管理できない、もしくは管理しなければ、21時以降でも子どもはこれまで通りスマートフォンを使えます。大橋校長も生徒みんなが厳格に守れるルールだとは思っていないと話しています。
スマートフォンや携帯電話の適切な使い方は、世代や職業、収入、家庭の事情などあらゆる状況によって異なると言えます。Twitterなどを中心に、「スマホ禁止」の言葉だけが批判的なコメントをたずさえて一人歩きしつつありますが、今回の刈谷市の取り組みは、頭ごなしに子どものスマホ利用に制限をかけるためだけのものではないようです。
(2014年3月17日Engadget日本版「子ども21時でスマホ禁止、刈谷市が大胆な試み。LINE既読スルー問題、保護者責任を校長が明かす」より転載)