PRESENTED BY 環境省

「福島の課題」は誰の課題か?環境再生の現在と未来について、若者たちが本気で語り合った

『福島、その先の環境へ。』次世代会議が環境省でおこなわれた。未来を担う若者たちは福島の今を知り、これからをどのように考えるのか?
|

「2045年」「土」「最終処分」――

 

このキーワードでピンとくるだろうか?

 

現在、福島県内では放射性物質を除染した際に出る除去土壌が大量に発生し、その量は25mプール2万5千杯分(1400万m3)にのぼる。この除去土壌を2045年までに、福島県外で最終処分する必要がある。

 

福島第一原発事故が起こってから10年余り。福島の環境再生をめぐる課題は、いまだ山積している。

 

そうしたなか、『福島、その先の環境へ。』次世代会議が環境省でおこなわれた。

 

未来を担う若者たちは福島の今を知り、これからをどのように考えるのか。イベントの様子を取材した。

Open Image Modal
KAORI NISHIDA

 若者が「福島ツアー」を考案。課題を自分ごと化してほしい。

6月10日、東京・霞ヶ関。梅雨入り直後の湿り気を含んだ曇天のもと、若者たちが合同庁舎に続々と入っていく。じくじくとした空気を感じさせない、期待と緊張混じりのフレッシュな表情が印象的だ。

 

彼ら/彼女らが向かう先は、環境省主催の『福島、その先の環境へ。』次世代会議。本会議では、全国の学生や若手社会人が集まり、現在の福島の復興状況や未だに残る課題を踏まえたうえで、オリジナルの「福島ツアー」を考えるという。

 

未来を担う若者・約20人が会議室に集合し、熱意と熱気が渦巻くなか次世代会議が始まった。

 

「学生の皆さま、それから社会人の皆さま、本日はお集まりくださいまして誠にありがとうございます」

 

開会の辞を述べるのは、環境省環境再生・資源循環局福島再生・未来志向プロジェクト推進室の水橋正典さんだ。

Open Image Modal
次世代会議の開会の挨拶をする水橋さん。環境省環境再生・資源循環局福島再生・未来志向プロジェクト推進室で福島の環境再生事業に携わっている
KAORI NISHIDA

「オリジナルツアーのプラン考案を通じて、福島をめぐる課題を自分ごと化してもらいたい。また、本日の議論をもとに実際にツアーを開発し、皆さまには9月にツアーを実地体験していただきます。本企画を通じて、福島を取り巻く課題のみならず、魅力も発信してもらいたい」

 

若者たち自らが考案した「福島ツアー」に参加する、という企画は興味深い。しかし、どのような「課題」を参加者に自分ごと化させたいのか? 水橋さんは福島の現状と課題を、これまでの復興の歩みを振り返りつつ、次のように語る。

 

 

放射性物質を取り除く「除染」を実施。

「かつて福島の浜通り地区は、エネルギー供給地でした。とくに、大熊町と双葉町にある東京電力福島第一原子力発電所、楢葉町と富岡町にある第二原子力発電所、そして広野町にある火力発電所。これらは非常に発電量が多く、関東地方のエネルギー供給を担う一大拠点になっていたのです」

 

そうしたなか起こったのが、東日本大震災と福島第一原発事故だ。この事故によって、福島県内外に放射性物質が飛散。福島第一原発付近の地域を中心に環境が汚染され、住民は避難を余儀なくされた。ピーク時には避難者が16.5万人にのぼったという。

 

飛散した放射性物質は民家の屋根や道路、地面などに付着して、福島の町や山のあちこちで放射線を出す。これを取り除くため、放射性物質が付着した土の表面を剥ぎとったり、屋根や道路を掃除したりする「除染」がおこなわれてきた。

Open Image Modal
福島県富岡町で法面土壌を削り取り、除染作業をおこなう様子(2015年4月)
環境省

「除染によって帰還困難区域だった地域も放射線量が低減し、元の生活に戻れるような環境になってきた。その結果、避難者数は減ってきています」

 

 

2045年3月までに、除去土壌等を福島県外で最終処分。

除染活動により環境再生が進む一方、除染で取り除いた放射性物質が付着した土壌や廃棄物など「除去土壌」が大量に発生していることが課題になっているという。

 

「当初は、福島各地に仮置き場をつくり除去土壌を管理していたが、その数は1300箇所を超えてしまった。すると、復興の妨げになる。そこで、大熊町と双葉町に、福島第一原発を取り囲むようなかたちで中間貯蔵施設をつくり、除去土壌を集約しました。

 

その結果、県内各地の仮置き場が解消され、復興が着実に進みました。しかし大熊町と双葉町は、広大な土地を中間貯蔵施設として使うことになった。つまり、自分たちの町の復興は後回しになるが、福島全体のために苦渋の選択として、中間貯蔵施設を受け入れていただいた経緯があるのです

Open Image Modal
福島の復興・再生の取り組みに関するプレゼンテーションを真剣な表情で聞く参加者たち
KAORI NISHIDA

そして現在、大熊町と双葉町の中間貯蔵施設には、25mプール2万5千杯分(1400万m3)に相当する膨大な除去土壌が管理・保管されているという。この途方もない量の除去土壌を、どのように処分するのか?

 

「前述した通り、福島県の浜通り地域は、もともと関東地方へのエネルギー供給基地でした。福島第一原発で発電した電気も福島県で使われていたわけではなく、首都圏で使われていた。それにも関わらず事故発生以来、長い避難生活を強いられるなど、福島県民が負担を課されてきたわけです。

 

そのうえ除去土壌も含め、すべての負担を福島に背負わせることはできない。したがって、除去土壌は中間貯蔵開始後30年以内に、福島県外で最終処分することが法律で定められています

 

法律で定められた国の責務である「県外最終処分」だが、その認知度は非常に低い。なんと福島県内で約5割、県外だと約2割ほどだという。今後、最終処分や再生利用を進めるためにも、除去土壌に関する課題についての認知を広め、議論を深めていく必要があると水橋さんは語った。

Open Image Modal
環境省資料「東京電力福島第一原発事故による環境汚染からの福島の復興・再生の取り組み」を元にハフポストで作成

「地酒の飲み倒れ」に「新技術の社会実装」。さまざまな意見が飛び交うグループワーク

福島の複雑な事情と課題について話を聞き、さまざまな考えを巡らせているのか、参加者たちの横顔は真剣そのものだ。しかし思い耽るのも束の間、「福島ツアー」を検討するグループワークが始まった。

 

参加者は学生と社会人に分かれて、全6グループに分けられた。各グループには、3つのツアーテーマ「地域・まちづくり」「福島の食」「新技術・新産業」のうち1つが割り当てられ、テーマに沿ったツアーを考える。

Open Image Modal
6つのグループに分かれ、グループワークをおこなう参加者たち。さまざまな意見が飛び交う会議室は、熱気で満ちていた
KAORI NISHIDA

また、参加者たちのアドバイザーとして、HAMADOORI13代表理事の吉田学さん、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構の万福裕造さん、福島県観光物産交流協会 観光部の高橋良司さん、八巻久美さんがツアープラン作成の助言をおこなう。

 

グループワーク開始当初は様子見で意見を出し合っていた参加者も、議論が進むにつれ、打ち解けて笑顔がみられるようになってきた。

 

「飲み倒れツアーなんて、どうだろう?」

Open Image Modal
社会人の「福島の食」グループのひとり、澤浦さん。大学卒業後、コンサルティング会社に入社し、2050年のカーボンニュートラルに向けた政府の戦略策定をサポートする業務を従事している。全国に先駆けて脱炭素化を進める福島の取り組みに興味を持ち、次世代会議に参加を決めたそう
KAORI NISHIDA

明るい声の先に目をやると、「福島の食」をテーマにツアーを考える社会人グループがいる。

 

「福島県外の人たちは、福島の食に対して思い込みや偏見でラベリングしてしまうことがある。だから、そうしたラベルが外れる『発見』があるツアーにしたい」

 

福島の地酒を楽しむツアーアイデアで盛り上がる「福島の食」グループの隣では、「新技術・新産業」の社会人グループが真剣な表情で資料を見つめている。

 

「福島の復興というコンテクストのなかで、どのように新技術を『社会実装』させるかが重要だと思う」

Open Image Modal
社会人の「新技術・新産業」グループのひとり、倉田さん。政治行政の政策づくりに関するスタートアップを起業し、取締役をしている。学生時代に世論とメディアの切り口から原発政策を考える本を読み、原発政策に興味を持つようになったという
KAORI NISHIDA

参加者の意見に対して、アドバイザーの万福さんが反応する。

 

「12年前に福島の環境再生事業が始まって、そこから住民の合意形成をとりながら、なんとかここまで復興が進んできました。復興という文脈のなかで『社会実装』を語るのはすごく面白いテーマ。

 

複雑な住民感情やステークホルダーとの利害関係など、これまで福島が向き合ってきた課題はさまざまある。だからこそ、新規産業を福島で起こしてきた当事者に話を聞くことは、ビジネス視点で参考になると思う」

Open Image Modal
「新技術・新産業」の社会人グループに助言をする万福さん。2011 年から農研機構で農地除染実証事業による技術開発を担当。翌年には福島県飯舘村の復興対策課へ派遣され、地域の営農再開や環境回復に従事してきた。参加者と意見を交わす表情には、優しげな笑みが浮かんでいる
KAORI NISHIDA

万福さんの言葉に参加者たちは深くうなずきながら、メモをとる。議論が深まってきたところで、グループワークの「残り時間10分」の知らせが響く。各グループはツアープラン発表に向けて、最後のまとめ作業に没頭する。

Open Image Modal
ツアープランの作成に使われている地図。「中間貯蔵施設」の位置がメモされている
KAORI NISHIDA

「福島の課題」は、誰の課題なのか?

すべてのグループが発表用の画用紙にツアータイトルを書き終えると、ついにツアープラン発表が始まった。緊張した面持ちで口火を切ったのは、社会人の「新技術・新産業」グループだ。

 

「我々のタイトルは『福島原発の過去・現在・未来』。サブタイトルとして『技術と社会実装の観点から』と名付けました。

 

地域住民やステークホルダーとのコミュニケーションなど、東日本大震災と原発事故を経験した福島だからこそ向き合ってきた課題があります。そこに焦点を当て、どういう調整を経て、新技術を実装しようとしているのか? そこを学べるツアーを考えました」

Open Image Modal
新技術・新産業をテーマにしたツアー「福島原発の過去・現在・未来」を発表する、社会人チーム。グループワークでは、ひときわ活発に意見を交わしていた
KAORI NISHIDA

ツアーの行き先はタイトル通り、福島の「過去」「現在」「未来」を体験できる場所をピックアップしているという。

 

まず東京電力の資料館を見学して福島の過去を学ぶ。そして、新時代の技術を開発する舞台としての福島を体験する、食品加工施設や日本発のお米のバイオマスプラスチック施設などを訪問するという。福島が復興の過程で経験してきた(している)課題を逆手に取ったツアープランが非常に興味深い。

 

続いて発表したのは、社会人の「福島の食」グループ。楽しそうに「飲み倒れツアー」について話し合っていたグループだが、どのような発表をするのだろうか。

 

「私たちが企画したツアータイトルは『Alcohol Fukushima(アルコール・フクシマ)』です!」

Open Image Modal
食をテーマにしたツアー「Alcohol Fukushima」を発表する、社会人チーム。福島の「地酒」に着眼するのは社会人ならではだと、アドバイザー陣からも好評を得ていた
KAORI NISHIDA

意外なタイトルに思わず目を見張る。

 

「最初は、福島のビフォーアフターのストーリーを巡るツアーを検討していたのですが、『楽しい』や『美味しい』など、ポジティブな感情を入り口にしてこそ、復興の話がより深く伝わると考え、福島の酒蔵を巡るツアーにしました。

 

それと、メンバーがみんなお酒好きなこともあって(笑)。直感的に『福島に行きたい』と思えるツアーとして地酒を選びました。

 

『福島』と聞くと、ネガティブなイメージを抱く人も一定数いると思います。だからこそ、福島のありのままの楽しさを伝えることで、『また遊びに来たい』と思ってもらえるんじゃないか、と考えました」

 

ツアーの行き先は、伝統に基づいた自由なスタイルによる日本酒酒造やワイナリー、そして新進気鋭のビール醸造所などを想定しているという。「Alcohol Fukushima」の名に相応しい、酒好きにはたまらない内容だ。

 

その後、残りのグループも発表を終え、個性豊かな互いの発表を讃え合う拍手のなか、次世代会議は閉幕した。

Open Image Modal
次世代会議の参加者とアドバイザーの集合写真。参加者たちの手には、個性豊かなツアータイトルが書かれた画用紙が握られている
KAORI NISHIDA

 

 

東日本大震災と福島第一原発事故からの復興・再生について語るとき、私たちは「福島の課題」として語っていないだろうか?

 

次世代会議の取材を通じて、除去土壌の最終処分をはじめとした「福島の課題」を、すべて福島に課すことに疑問を持つべきだと筆者は強く感じた。会議の参加者たちが「福島のため」よりも「福島から」何ができるか、課題を「自分ごと」として捉えツアーを考えていたように、私たちも視点を変えるべきタイミングを迎えているのではないだろうか。

 

福島を「その先の環境へ」推し進めていくために、未来を担う若者たちが福島を訪れ、環境再生や復興について自分たちの課題として今一度考えることは意義深い。その意味で、9月のツアーにも期待したい。

 

『福島、その先の環境へ。』ツアー2023の募集ページは、こちら

福島の環境再生に関する情報は、こちら

除去土壌の県外最終処分に向けた取り組みに関する情報は、こちら

 

写真:KAORI NISHIDA

取材・文:midori ohashi