加熱式タバコは「分煙の喫煙席」なら食事OKに。都が受動喫煙防止条例案で方針転換【UPDATE】

都が5日に条例案を提示する。加熱式タバコの危険性は?
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加熱式タバコを吸う男性
Peter Nicholls / Reuters

2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、喫煙者ではない人にタバコの煙を吸わせる「受動喫煙」を防ぐための独自の条例案を検討している東京都が、加熱式タバコの扱いで揺れている。

都は6月5日、「受動喫煙防止条例(仮称)」の条例案を発表する。案は、6月12日開会の都議会に提出する予定だ。

4月20日発表の条例の骨子案によると、原則として 従業員を雇っている飲食店であれば、店舗面積に関係なく原則として店内禁煙とする。

また、加熱式タバコについては、販売されてから間もなく、健康をどの程度害するのかが分かっていないとして、罰則はない努力義務となっている。

関係者によると、この4月の時点では、紙巻きタバコと同じく、飲食のできない「喫煙室」でのみ吸うことを認める方針だった。

一方で、受動喫煙対策について盛り込まれた国の健康増進法改正案では、都の条例案より緩く、換気設備を整えるなどの基準を満たした分煙用の喫煙席を設けた場合は、加熱式タバコのみ飲食中でも吸うことが認められていた。

この扱いについて、6月1日までに、都は国と同じく分煙をすれば飲食中に加熱式タバコを吸ってもよいという方針に転換。

都の条例をもとに条例などの検討を進める区の職員や、医療関係者からは「努力義務ではあったが、いままで一律で飲食できない喫煙室での喫煙を、となっていたのに、内容が変わっていて戸惑った。同じタバコなのに、加熱式なら食べながら吸ってOK、紙巻きはNG、となると検討の中身も変わってくる」「加熱式タバコは危険ではない、などといった誤解を助長してしまうのでは」といった声が上がっていた。

受動喫煙防止条例、賛成派と反対派で一進一退

都の受動喫煙防止条例案については、国の健康増進法改正案よりも厳しく、都内の8割以上の飲食店が禁煙対象となるため、飲食業界などから強い反発があった。

4月24日には、日本たばこ協会や飲食店、マージャン店などの業界7団体が、都へ18万1982筆の反対署名を提出。「規制により深刻な被害を受ける。性急な条例制定は避けるべき」と主張している。

一方、東京都医師会などの医療団体も5月18日、条例の制定を求める署名19万6458筆を都に提出している。

加熱式タバコも受動喫煙の害がある

加熱タバコの安全性については、専門家から疑問の声があがっている。

東京都医師会タバコ対策委員会の委員長で、呼吸器内科医の村松弘康さんは「加熱式タバコの蒸気でもニコチンやアセトアルデヒド、ホルムアルデヒドなどの有害成分が多く含まれ、呼気中の毒物による受動喫煙の害は十分にありうる」と警鐘を鳴らす。

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加熱式タバコの危険性について話す、都医師会タバコ対策委員会の委員長・村松弘康さん
HUFFPOST JAPAN

加熱式タバコの有害成分については、いくつかの論文が出ており、不完全燃焼によって出る一酸化炭素は検出されなかったが、ニコチンが紙巻きタバコの84%、毒性の強いアクロレインでも82%、ホルムアルデヒドも74%という値が出ているという研究報告もある。

一方で、2014年のテスト発売から「煙のないタバコ」として爆発的な人気を集め、2018年3月末で使用者が500万人を突破した加熱式タバコ「 IQOS (アイコス)」を販売するフィリップ・モリスは、アイコスがタバコに含まれる9種類の有害成分について、紙巻きタバコに比べ9割が低減するとしている。

だが、フィリップ・モリスが自社で調査したアイコスの臨床試験の根拠については、疑問視する報道が出ており、アメリカ食品医薬品局(FDA)のたばこ製品科学的諮問委員会では、紙巻きタバコより「アイコスのほうが健康被害のリスクが少ない」という同社の主張についても、反対票が上回る採決がなされており、アメリカ国内では販売ができていない。

加熱式タバコについて、都の条例案には罰則規定がないことや、「分煙」であれば飲食も可能になることについて村松さんは「同席する非喫煙者や、飲食店で働く従業員の安全が守られない」と危惧する。

「加熱式タバコはまだ出てきて間がなく、がんや呼吸器疾患などの関連性がエビデンスとして出てくるには時間が必要。危険性を考えると本来は分煙だとしても許されないものだが、法で規制するのが難しいのであれば、市民が紙タバコと変わらないものだと危機感を持ち、民間レベルで環境を整えるしかない」と話す。

加熱式タバコの喫煙者の口から出る、細かい粒子でできた有害物質を含む蒸気について、村松さんは「すぐに見えなくなり、『煙が少ない』ように見えるが、紙巻きタバコより素早く周囲に、有害な蒸気が広がっている」という。

村松さんが加熱式タバコの喫煙者の口からでる蒸気をレーザーで可視化した実験では、2m以上離れた受動喫煙者に瞬時に粒子が届いていることが見て取れる。

村松さんは「蒸気だから煙と違って安全とか、加熱式タバコなら問題ないなどといった風説がたくさんあふれているが、全くの誤解。加熱式タバコはより純度の高いニコチンであり、『やめられないタバコ』ができたようなもの」と懸念を示している。

都の見解は

都健康推進課は、ハフポストの取材に対し、「4月20日以降、正式な発表として出しているものではなく、6月5日の条例案提示より前には、条例案についての取材にはお答えできない」と回答した。

【UPDATE: 6月5日午後6時05分】

都保健政策部の中山佳子事業調整担当課長は、今回の変更について「4月20日の骨子案発表後、いろいろな関係団体からのご意見をいだたき、変更した」と話した。

関係団体については「さまざまなところからなので、どこの団体とは言えない」と説明した。