新型コロナウイルスの感染拡大を受け、2018年に大ヒットした映画『カメラを止めるな!』の短編スピンオフが「完全リモート」で制作され、YouTubeで公開された。映像作品としての完成度の高さはもとより、苦境に立たされている映画への思いが込められた作品で、観た人から賞賛の声が相次いでいる。
『カメ止め』の世界と現実がリンク
5月1日にYouTubeで公開された約26分の短編映画、『カメラを止めるな!リモート大作戦!』。上田慎一郎監督が緊急制作を4月13日に発表し、わずか18日間で一気に制作されたという。
『カメ止め』スタッフやキャストが再集結した同作は、ビデオ通話やスマホのカメラ機能を使って撮影を行い、全員が“誰にも会わず”完全リモートで制作された。
あらすじは、映像ディレクターである主人公・日暮隆之の元に、リモートでの再現ドラマの制作依頼がくるという内容だ。新型ウイルスの感染拡大によって外出自粛を余儀なくされた現実と『カメ止め』の世界観がリンクしており、思わず引き込まれてしまうようなストーリーとなっている。
「ネタバレ厳禁」だった本編と同じように、まずは前情報を入れずに、ぜひ作品を観てほしい。
▼『カメラを止めるな!リモート大作戦!』
20万以上の再生回数、絶賛のコメント相次ぐ
同作は、4月3日に上田監督が完全リモートでの映画制作を着想し、翌4日にはあらすじが、9日にはシナリオが完成したという。25日に全てのリモート撮影を終了し、5日間で編集作業を終えた。
公開から数日で再生回数は20万回を超え、YouTubeのコメント欄やTwitter上には、作品を観た人から「感激した」「面白い」などの感想が相次いでいる。
『カメ止め』ファンにはお馴染みの登場人物が再集結したことへの喜びはもちろんだが、「完全リモート撮影」という難しい状況ながら、演出や編集の工夫によって一つのエンターテインメント作品を完成させたことへの驚きも寄せられている。
映画が撮影できない、映画館に行けないという状況になっても、創作や表現の歩みを止めない。そんな上田監督らスタッフ・キャストの前向きな思いが込められていた。
さらに、「参加型」の作品だったことにも注目したい。同作には、SNSで一般募集したエンドロールのダンス映像や、「こちょこちょされて大笑いする映像」が採用されている。
多くの人が外出自粛を強いられる中、作品への参加を通して少しでも自宅で過ごす時間を楽しんでほしい、との監督の願いも感じさせられた。
ミニシアターから広がっていった『カメ止め』の恩返し
新型コロナウイルスの感染拡大によって、国内のミニシアター(小規模映画館)などは大きな打撃を受けている。
ネット上ではミニシアター救済の動きが広がっており、深田晃司監督と濱口竜介監督は、有志でクラウドファンディングのプロジェクト『ミニシアター・エイド基金』を立ち上げた。1億円の目標金額を大きく超え、同基金には2億3000万円もの支援が集まっている(5月5日時点)。
『カメラを止めるな!リモート大作戦!』も、ミニシアターへの「恩返し」の思いが込められた作品だ。
製作費300万円で作られた『カメラを止めるな!』はミニシアターから発掘された作品で、池袋のシネマ・ロサと新宿K’s cinemaの上映から人気が拡大していった。
主人公の娘・日暮真央の部屋には、ミニシアター救済のための支援を求める署名活動「SAVE the CINEMA」のロゴが印刷された用紙が貼ってある。
また、「ミニシアター・エイド基金」を支援した場合のリターン(特典)として、同作の未公開映像や監督・キャストからのメッセージ動画が提供されるという。
上田監督は同作の公開にあたり、以下のコメントを発表している。
「今、自分にできることはなんだろう?」と考え、本作の緊急制作を決めました。とにかく気分が明るくなる愉快痛快な楽しい映画を!と作ったつもりなんですが...自分自身、編集をしながら涙が止まらなくなってしまった場面が2箇所ありました。いつの間にか本作は自分の想像を遥かに超えたものになっていました。半分は誰かの娯楽のために。半分は自分を救うために。この作品を創ったんだと思います。「今」しか創れないものが出来ました。ぜひ「今」観て下さい。この作品が誰かの気分を少しでも明るくすることが出来ますように。
苦しい状況でも、希望を捨てまいとする監督やキャスト、スタッフの願いが込められた同作には、映画の底力を感じさせられた。ぜひ見てみてほしい。