アニメ・漫画の海賊版サイト対策、どうなってるの?経産省に聞いた。解決のヒントは「ユーリ!!! on ICE」

被害額は約9300億円との試算も…。
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HuffPost Japan

マンガやアニメの「海賊版サイト」による被害が深刻化している。

日本漫画家協会は2月、「全く創作の努力に加わっていない海賊版サイトなどが、利益をむさぼっている」と批判声明を発表した。

政府も海賊版サイトを問題視。菅義偉・官房長官は3月19日の会見で「コンテンツ産業の根幹を揺るがす事態となりかねない」とし、サイトの遮断も含めて対策を検討していると明かした。

海賊版サイトをめぐる現状や対策は、いまどうなっているのだろうか。経済産業省・商務情報政策局(コンテンツ産業課)で海賊版対策を担当する岸田篤範氏と大塚雄介氏に話を聞いた。

――「海賊版」をめぐる、いまの状況を教えてください。

岸田:私たちコンテンツ産業課では、国内・海外の動画共有サイトなどに違法アップロードされた映画、アニメ、漫画など、オンライン上の海賊版コンテンツ(無体物)に対応しています。

それ以外にも、日本のコンテンツから生まれたキャラクターグッズの模倣品なども見ています。

海賊版の対策がスタートしたのは10年ほど前ですが、当時とはちょっと状況が変わってきています。

当時、海賊版といえばほとんどが中国でしたが、いまでは他のアジア諸国やヨーロッパでも見られるようになりました。

その後、中国側の努力もあり改善されてきています。海賊版の撲滅に積極的に協力してもらっているので、大変感謝しているところです。日中をはじめ、政府間でも知的財産の保護を進めるため、国どうしの協力体制を作り始めています。

一方、海賊版はゼロにすることはなかなかできません。むしろ、インターネットが普及することで手法・内容が高度化してきています。

そこで、海賊版の需要をどうやって正規版へと移していくかというところも、大事になっています。今の事業では、「海賊版の撲滅」と「正規品流通促進」の両軸をポイントにしています。

2002年には、コンテンツの権利を持つ出版社や放送局など(コンテンツホルダー)の団体として「コンテンツ海外流通促進機構(CODA)」も設立されました。海賊版の対策を目的とする団体で、経産省や文化庁などが支援しています。

――海賊版の市場規模はどのくらいでしょうか。

岸田:CODAの発表によると、「海賊版」による売り上げ被害額が約9300億円に上ったと推計されています。

※補足:日本コンテンツの海外における被害状況

日本コンテンツの映画・アニメ・放送・音楽・マンガの5ジャンルについて、2014年の海外における収入金額が1234億円だった。これに対し、海賊版による被害額は、2888億円に上ると推計。なお、売上金額ベースでは正規版が3994億円に対し、被害額の推計は9348億円にのぼると推計される。

(CODA「2014年・海外における日本コンテンツの海賊版による被害額を推計」より)

――かなりの金額ですね。

大塚:ただ、海賊版は「実態をつかむのが難しい」というのが正直なところです。被害額の試算も難しい。

出版業界やアニメ業界も被害が甚大であるということはわかっています。これは全体の話なので、業界各社としては自分たちのコンテンツが具体的にどのくらい侵害されているのかわかりにくい状況です。費用対効果が考えづらいというのが、この分野の難しいところと考えています。

岸田:叩いても叩いても、ゼロにできないというのもあります。費用対効果の面で見ると、海賊版対策に投資した分を回収するのが非常に難しいので、各企業ではなかなかやりきれないのです。

そこで2013年には経産省の呼びかけで、出版社とアニメ関連企業で構成する「マンガ・アニメ海賊版対策協議会」が発足しました。

出版社やアニメ制作会社を中心に、海賊版環境をどうやって改善するかというところを、施策も含めて考えていくという業界の協議体です。

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【※補足:「MAG PROJECT」】出版社及びアニメ関連各社から構成され、主に「業界横断的な海賊版対策」「正規版流通、知的財産保護等に係る広報啓発」などの取り組みを実施している。
経済産業省

――加盟社でやって、足並みにばらつきはありますか?

岸田:もちろん各社それぞれで販売戦略などが違いますが、協議会を中心に業界横断的に連携して海賊版対策を進められていると思っています。

コンテンツ業界と一口に言っても、アニメ、映画、ゲーム、マンガと色々あります。特に目に見える「有体物」の商品を売っている会社、業界は海賊版対策に熱心です。

キャラクターグッズや玩具など、目に見える現物であるということが大きいのかもしれません。模倣品が市場に流れたら、早く手を打たないと売上が下がって直接的なダメージになりかねません。きちんと正規品として売れていた場合の金額も現実的に見えてきます。

――違法にアップロードされているものを削除するには、基本的には権利者が「消してください」と言わないと難しいですよね。効率的に海賊版を削除するために、どんな対策をされていますか?

大塚:オンラインでの侵害対策については、CODAにて2011年から「自動コンテンツ監視・削除センター」にて実施しています。

このシステムでは、海賊版と照合するために元動画からフィンガープリントを作成し、それを元にオンライン上をクローリング(≒巡回)し、違法と思われる動画を発見したらサイト運営者等に対して削除申請を行います。グレーなものについては、削除前に権利者の確認が必要になります。

一部ではありますが、有名な動画共有サイトに対しては約99%の削除率になりました。

――Youku(优酷)、Tudou(土豆网)、Pandora(パンドラ)など中国・韓国の動画共有サイトもありますね。

大塚:過去、違法に動画を配信していたサイトの中には、非常に協力的になっているところもあり、今では完全に正規版だけの配信をしてくれるようになったサイトもあります。

こうした変化は、CODAが根気強く違法コンテンツの削除申請を行い、サイト運営企業を訪問するなどして関係を構築してきたからだと思っています。

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オンライン侵害対策の仕組み。
CODA

大塚:他方で、違法動画サイトは数え切れないほど存在し、削除申請に対応してくれないところも多く、そうした違法サイトにどうアプローチしていくかが重要だと思っています。

そうしたサイトの中で、サーバーやドメイン、運営者の国籍が違うサイトは対応が難しいと言われています。さらに、運営者やサーバーの所在国では見られないようにすること(ジオブロック)を行っているサイトもあります。違法サイトはその運営手法が複雑・巧妙になってきているということです。

岸田:国内は比較的対応し易いかもしれませんが、海外に対してどういう対策をするのかというのが課題ではあります。

――比較的新しい動画共有サイトやリーチサイトを含めて、具体的に考えられる対応はありますか

大塚:先日、大規模な違法漫画配信サイトが摘発されたように、違法サイトの運営者の摘発も進んできていますが、経済産業省の取り組みとしては、CODAを通じて、先ほどご紹介したコンテンツ自動削除センターによる削除申請や、悪質サイトに対する法的措置、現地政府に対する働きかけなどが挙げられます。

――違法なサイトは、どうやって収益を得ているのでしょうか。

大塚:サイトによって形態は異なるとは思いますが、運営費用や収益は、サイト上に出てくる広告による収入等から得ていると言われています。そこで、違法サイトへの広告出稿がされないよう広告関連団体と協力して進めています。

※補足:海賊版サイトと広告

「海賊版サイトを調査したある団体による報告書によると、2014年では589のサイトにおける広告収入の総額は2億900万ドルにも及ぶとされています。これは日本円で約234億円に値し、決して軽く見ることのできない額といえます」

海賊版サイトと広告主の関係 -資金流入を防ぐには- (尾形阿友美) - 早稲田大学知的財産法制研究所[RCLIP]より)

大塚:違法サイトで出てくるウェブ広告は、必ずしも広告主が「このサイトに広告を掲載したい」と、枠を買って掲載しているわけではなく、広告主や広告事業者の意に反して、自動的に配信されていることがあります。

――「インタラクティブ広告」ですね。見ている人の好みに合わせて出てきたりということもありますね。

岸田:いまはウェブ広告の関連企業の業界団体があるので、「海賊版サイトに広告が出るのは、正当なビジネスを行う企業の事業活動へのリスクが懸念される」と関連団体に注意喚起を行うような活動を、CODAを中心にやっています。

海外では実績があって、イギリスでは海賊版サイトの広告収入を断つ措置を実行しています。そういうところも参考にしながら、今後の方策を検討していきます。

もちろん、サーバーを変えて点々とする海賊版サイトを追い続けて、追い続けて、最終的に兵糧攻めをして持久戦に持ち込む取り組みもやっています。

――海賊版サイトとしては「どうせイタチごっこだし、まだ儲かるから続ければいいや。そのうち追ってこなくなるだろ」という深層心理もありそうな気がします。

岸田:賛否両論はあるのですが、海賊版サイトに根気強く削除申請し続けていくことは、大切なんじゃないかなと思っています。

違法サイト側も「言われたらどこか違うところ移せばいいや」「放置しとけばいいや」程度で思っているのかもしれませんが、ずっと削除依頼をやり続ける毅然とした姿勢が必要です。

――10年かかって、ようやく今のところまで持ち込めたというところですね。

大塚:10年前は「海賊版とはいえ、勝手に削除しちゃいけない」「海賊版が悪いのはわかるが、それを勝手に消す、削除申請するのはよくない」といった意見もあったと耳にしました。

だから、当時試験的に運用していた海賊版の削除ベンダーは風当たりが強く、大変だったという話も聞きました。それから現在に至るまで、海賊版への考え方・取り組み方がこんなに変わるのだと驚きました。

――海賊版というと、どうしても中国というイメージがありましたが、ドメインだけ見てもフランス、ロシア、インド、ブラジルと様々です。日本だけでできることは少なくなってきている気もしますが、外国政府が協力してくれる動きはありますか?

大塚:日本、中国、韓国でいうと、政府間レベルで合意はしています。「日中韓文化コンテンツ産業フォーラム」という国際会議で、3カ国が協力して正規版コンテンツの購買促進や知的財産保護に関する広報・啓発をし、産業界の取り組みを支援するという合意ができました。

そのほか、個別の事案に対してその国の当局に要請を行うということはありますが、国によって対応はまちまちです。

――CODAの活動に中国政府が協力的というのは、少し意外でした。

岸田:いま中国も、国家戦略として知的財産大国に向かおうとしています。その戦略を実行していくとなると、ものづくりだけでは既に限界も来ていると言えます。

「ものづくり」から「知的財産」へというビジネスモデルは世界共通のようですね。そういう意味では、知的財産を保護していくのも、中国の戦略の一つなのでしょうね。

大塚:中国政府は今では海賊版対策に非常に協力的です。

実際に中国で海賊版対策を実施している中国国家版権局には、CODAが定期的に訪問して協力関係を構築しています。国家版権局は、例えば、違法サイトに対して閉鎖指示をするといった行政指導を「剣網行動」の一環で積極的にやってくれています。

他方、やはり数が多く、中国国内法には抵触しないように運営しているサイトなどもあり、今後も継続して実施していく必要があります。ただ、申し上げたとおりスタンスとしてかなり協力的になってきており、非常にありがたいと思っています。

岸田:経産省の担当者やCODAの担当者が、中国当局者と現場で取り締まりを一緒にやっていくという活動は、これからも地道にやっていかなければいけないと思います。

さらに広報活動、啓蒙活動もやっていかなきゃいけない。特に著作権や知財に対する啓発・教育は、国内外で必要になってきます。「海賊版はよくないので、きちんとしたものを観ましょう」と。

大塚:広報啓発は、しっかりやっていかないといけないと思っています。

海賊版に対する認識は日本でもまだ低いですし、アジアの国々でもまだ浸透しきっていないと思われます。

例えば、アジアのとある国でキャラクターグッズの模倣品を販売していた店舗の人に話を聞いたところ、「フィギュアの模倣は、著作権侵害じゃない」「映像じゃないから問題ない」という趣旨のことを言っていました。

一例に過ぎませんが、知的財産侵害について認知がされていないことを実感し、個別の海賊版の対策だけではなく、著作権を含む知的財産に関する意識を変えていくような広報啓発をする必要があると考えるようになりました。

大塚:海賊版に対する方針としては、まずは叩くことです。叩くというのは、違法配信に対する削除申請や権利行使、違法のグッズの販売店の摘発といった取り組みのことです。これは継続して実施するしかありません。

一方で、こんな話もあります。プラモデルを販売している玩具メーカーで、当時、その会社のプラモデルはアジアでかなりの量の模倣品が流通していたらしいのですが、「正規版を根気強く売り続けたら海賊版が減った」とのことでした。

そのメーカーは現地で毎年イベントに出展をし、正規品の流通を継続しておこなったようで、こういう取り組みを4〜5年やったことで「効果が出てきた」と伺いました。

しっかりと「流通させる」ことが海賊版対策の王道で、それをメーカーさんが証明したのだと思います。

少し話は変わりますが、アニメ制作会社さんの中には、アニメ作品のグッズで主な収益を出している会社もあります。

――円盤(DVD)とグッズですか。

大塚:ご存じのとおり、今は円盤の売上が下がってきているため、グッズや配信など、円盤以外でどう収益を稼いでいくかが重要になってきています。そうした状況の中で、特に自社で商品化権を持ちグッズ販売に力を入れている会社が印象的でした。

フィギュア等の日本のアニメ関連グッズは海外でも一定の人気があり、もっと売っていきたいと考えている会社もあるのですが、商習慣が違うので諸々の手続きが煩雑だったり、関税などのコストや国特有の税制があったりと、海外における正規品の流通についてはビジネスリスクが存在し、まだまだ課題が多い。

そのため、今後はそうしたグッズの正規品流通も何らかの形で支援できないかと考えています。

――国が違えば商習慣が違いますし、その国の法律に明るい弁護士を雇わないといけない。出版社やアニメ制作会社としては背負いづらいコストかもしれません。

岸田:体力がある程度ないと難しいですね。しかし、「海賊版・模倣品の撲滅」と「正規品の流通」が、必ずしもトレードオフの関係というわけではありません。

ただ、正規品の値段を誰もが買える程度の価格であれば「いいものなら買いたいな」という思いが消費者から出てくると思うので、ビジネス上は正規品が勝る可能性は高いですね。

そういうことをやっていけるように、企業、業界にもヒアリングをしていきたいと思っています。

大塚:いま岸田から話がありましたが、価格帯は一つの問題点ですね。模倣品のほうが圧倒的に安いケースが多く、正規品の5分の1とかで購入できることもあります。

しかもクオリティが高い。もちろん、パッケージの日本語がおかしいものとかはあるのですけど、私が見た商品に限って言えばクオリティは高かったです。

岸田:海賊版・模倣品の技術も相当上がってきている。例えばオンラインで配信されているような動画も、昔は解像度が低く、画質も悪くて、いかにも海賊版という感じだった。「まぁ、見れればいいや」という程度だった。

でも、今は画質もかなり向上し、ちゃんと見ようと思えば海賊版でも十分に視聴に耐えられるものになっている。品質自体にあまり差がなくなってくると、結局は価格が購入要素になってしまう。

大塚:他方、海外には熱心な日本アニメファンも一定数いまして、そうしたファンの間では「海賊版を買うのはかっこわるい」という認識もあって、正規版を持つということが一つのステータスになっているようです。こうしたファンの教養を高めることは大事だと思っています。

「海賊版は駄目」というメッセージだけでなく、「本物がかっこいい」「本物を買うとコンテンツに還元される」「君がコンテンツの将来を支えている」というメッセージを、ファンに伝えていければと思っています。

――ブランディングが大切だと。

岸田:そうですね。海賊版とのコスト勝負というよりは、そういった面が重要だと思います。

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――ただ、海賊版がゼロになるのは難しい。

大塚:残念ながら、そもそも海賊版しか見る手段がないという国もありまして、海賊版への需要があるのも事実かと思っています。こうした事情を考慮すると、正規版がちゃんと正規版として流通されていないことも課題です。

――「正規版がちゃんと正規版として流通されていない」とは、どういうことでしょうか。

大塚:申し上げたとおり、特に海外において、正規版がそもそも放送・配信されていない場合があり、日本の作品を見たい人が海賊版にアクセスするしかないということです。

もちろん、違法配信された海賊版は利用してほしくないですし、こうした海賊版については「叩く」ことは前提として、その上で同時に正規版の「流通」をさせないといけません。まずは、映像の流通、サイマル配信などを支援できないかとは考えています。

岸田:サイマル配信は非常に大事なことだと思いますし、海賊版が出回るのを技術で食い止めるには、現時点で今のところ必要だと思います。

大塚:ユーリ!!! on ICE」というアニメがありましたよね。あの作品は海外でも非常に人気が高いですが、実は当初からサイマル配信が計画され、実際に日本での放送とほぼ同時に海外でも配信されていました。2016年に、海外の日本コンテンツ消費者に対する委託調査を経済産業省でおこなった際、そうしたお話を伺いました。

――サイマル配信が、海外でのアニメの認知度に影響していたのでしょうか。

大塚:もちろん、そうした認知の形成は様々な要素が絡んだ結果だと思いますが、サイマル配信はその一要素であったと考えております。

世界には日本のコンテンツを中心としたファンイベントが88ほどあるのですが、その主催者に対して2016年の12月末〜1月に「日本の今の作品で人気なものは?」とアンケートをとったところ、成年女性向けのジャンルでは全ての地域で「ユーリ!!! on ice」が上位で挙げられていました。

日本の誰でも知っているような有名な作品も入っているのですけど、最新作(2016年の10月〜12月クール)の「ユーリ」が人気だったのです。

作品そのものの素晴らしさ、クオリティの高さや、SNS等での広がりもその人気の背景にあったと思いますが、サイマル配信によって海外のファンがすぐに作品を楽しめる環境にあったということも大きかったのではないかと思っています。

――海外でのサイマル配信のコストは、普通のテレビ放送でやったときと変わってくるのですか?

大塚:ケースによって異なりますが、例えば、英語版を作ろうとすると、吹き替えや字幕作成、脚本の事前調整が発生する場合があります。これらのコストもそうですが、内容面の事前調整が結構大変と聞いたことがあります。

――脚本に関しては、それこそ制作現場の人たちが大変そうですね。

岸田:そもそも厳しい制作環境ですから、それをさらに輪をかけてやるので、人もコストもかかるというところは課題だと思います。

――海賊版対策で、今後力を入れていきたいところは。

大塚:特に今後力を入れていきたいと思っているのは、先ほどお伝えした、日中韓合同の広報活動ですね。

4月26日がWIPOの世界知的所有権の日ということで、その日の前後に日中韓で正規版コンテンツ購買促進や知的財産の重要性を訴えるセミナーをやることを考えています。

日本国内だけでなく、中国・韓国も巻き込んで広報活動を実施できることは非常に意義のあることだと思っています。

――それは、日中韓それぞれでやるのですか?

大塚:まだ調整中ですが、それぞれの国で行う予定です。例えば、各国の有名なキャラクターを使った広報動画・ポスターを制作したりして、多くの人が親しみやすい形で「著作権などの知的財産は大事」ということを伝えていきたい。

――海賊版を見ることによって、それが積もり積もれば、最終的には見るものがなくなる可能性がある...というところまで、想像力が働くといいですね。

大塚:そのとおりです。アニメもマンガも「海賊版はクリエイターに還元されません」というところを知ってほしいですね。

――そこは大きいような気がしますね。 最近、やっと海賊版に関する議論が多く出てくるようなってきたという感じがします。

岸田: アニメもマンガも、一つの作品には色々な人が関わっている。原作者はもちろん、それを支えている人たちのことを考慮しなければならない。制作会社や、ポスプロ(ポストプロダクション)の人たちだっていっぱいいる。

このままいくと「好きな先生の作品が見られなくなる」「新しいアニメ作品が生み出せなくなるかもしれない」という、切羽詰まった問題だということを、ちゃんと理解できるようなやり方がいいと思いますね。

――アニメに関しては、円盤(DVD)を買ったからといって、制作会社にそのまま還元されるかというと、また別の問題になります

大塚:それは別の課題ですね。業界構造的というかビジネス的な話として。

そもそもそんな資金的体力が無いというご批判もあるとは思いますが、細かい話をすれば、委員会への出資とか、窓口権や原作権を持てるかどうかといった話になってくるかと思います。

こうした権利を持っている会社であれば、制作費だけでなく各種窓口権による収入が出ます。個人的には、下請けだけでなくこうしたライツを持っていて、ビジネスもできて、制作技術も持っているような会社を育てていくのは重要と考えています。

――最近ではNetflixなどがアニメに進出しています。

大塚:そうしたネット配信業者の中には制作費を潤沢に出してくれる会社もあります。その代わりに配信は独占でという形をとることもありますが、こうした資金調達は製作委員会を通さない、新しいアニメ制作のかたちといえると思います。

製作委員会でやるのか、配信業者と組んでやるのか、自社調達やクラウドファンディング等で調達をするか。資金調達をどれだけ多様化できるか、これは今後のアニメ産業にとってのターニングポイントだと思っています。

――アニメ業界の過重な労働体質も問題視されています。

大塚:これについてはデジタル化で効率的な働き方ができるかどうかというのが大事です。制作進行とアニメーターの働き方をもう少し改善できれば良いと思っています。

例えば、システム上で各話のカットごとに階層分けされ、原画そのものやカット袋に付随している演出やタイムシート情報などをオンライン上で容易に管理できるようになり、工程のフルデジタル化が業界全体に浸透すれば、制作進行の負担を軽減できるのではないかと思います。制作進行さんが車を運転する時間も少なくできるのではないでしょうか。

――アニメ「SHIROBAKO」を思い出しますね。

大塚:万策が尽きる前に、「SHIROBAKO」でも表現されたようなアニメ産業の労働環境が、デジタル環境の整備を通じて改善されていけばと思っています。

資金調達手法の多様化もアニメのデジタル環境整備も経産省で考えていまして、実際に調査や検討を進めています。この辺がある程度かたちになって、業界に還元できればいいなと思っています。

話は逸れましたが、経済産業省の海賊版対策としては、違法サイト・海賊版グッズを叩き、正規版を流通させ、著作権など知的財産について広報・啓発する。この3点について、今後もしっかり取り組んでいきたいと思います。

――最後に、これは伝えておきたいなということがありましたら。

岸田:海賊版対策というものは「誰かがやっている」のではなく、マンガやアニメのファンの方々がみなそれぞれ「これはいけないものなんだ」と認識して、それを自分で行動に移していこうという観点で広がっていってもらいたいなと思います。

これまで広報活動をあまり積極的にやってこなかったですし、たまに何年かに一度、新聞で採り上げたりすると、問い合わせがあって、記事になったりとかはします。

最近でこそ増えてきましたが、「海賊版」という言葉を目にする機会は、新聞やテレビではそこまで多くなかったので、具体的に何が問題なのかという問題意識をもってもらえなかったと思っています。

海賊版も「そのうち解決するだろう」「解決しなくてもやっていけるのではないか?」という一般論で終わってしまうと、対策する方達の取り組む姿勢も変わらないし、同じことをずっと毎年やっているようなことになってしまう。そういう認知形成というのが、これからも大切かなとは思います。

▼「知的財産を守ろう」日中韓協同キャンペーン動画