韓国の尹炳世(ユン・ビョンセ)外相は、核実験、ミサイル発射に至った北朝鮮の相次ぐ挑発に対して、北朝鮮が再び「核実験を挑発しないように、国連安全保障理事会(安保理)で「最終決議」(terminating resolution)をしなければならないと主張して、国際社会を説得しようと動いている。メディアは、韓国政府がこのために開城工業団地を「けりをつける」極端な措置をとったと伝えている。洪容杓(ホン・ヨンピョ)統一相は、「これ以上、開城工業団地の資金が北朝鮮の核・ミサイルの開発に利用されることを防ぎ、韓国の企業が犠牲にならないようにするため」と、開城工業団地を全面的に中断させる理由を明らかにしたが、何度同じ話を繰り返せば気が済むのか。
この措置がどれほど非常識で非民主的で熟慮に欠けるか、すでに多く指摘されており、あえてここでは繰り返さない。ただ、国際社会のどの国も、開城工業団地の北朝鮮労働者たちに支払われる賃金が、北朝鮮の核・ミサイル開発に転用されるとは主張していない。にも関わらず韓国政府が自ら、国連安保理の制裁決議2094号に違反した「罪人」だと告白してしまった「自虐的喜劇」、開城工業団地に入居する企業が、涙を流して中断に反対している前で、韓国政府が「韓国企業の犠牲を防ぐため(統一相)」と言ってのける厚顔無恥は、長く記憶にとどめておかなければなるまい。
朴槿恵政権は、今回、国連の「最終決議」を導き出すとして、朝鮮半島の平和と共存のための資産に「けりをつけ」、これをすべて賭けに出した。韓国政府の試みが失敗した場合、朝鮮半島は冷戦時代の対立と紛争の状況に逆戻りし、朴槿恵政権は統一・外交分野でレームダック状態になる可能性が高い。そうなれば、このレームダックを克服するため、政権はどんな形であれ「北風」の誘惑になびくだろう。
朴槿恵政権の「けりをつける決意」は成功するだろうか? 難しいだろう。北朝鮮の核問題は、南北の問題を超え、アメリカや中国などの利害が絡み合った複雑な問題だ。したがって「けりをつける」には、韓国が全財産を賭けてはならない。他国も賭けに参加しなければならない。特に中国を賭けに加えなければならない。しかし中国は、制裁それ自体が目的ではないとして「根本に戻って(朝鮮)半島の核問題を交渉の軌道に戻さなければならない」とし、「けりをつける」ために全力を尽くすつもりがないことを既に明らかにした。
また朴槿恵政権が中国に圧力をかける大義名分をつかむには、少なくともアメリカが求める高高度ミサイル防衛システム(THAAD)の配備について、こんなに早く言及してはならなかった。戦略的に見て、THAAD配備に賛成だとしても、まずは安保理の制裁決議に集中しなければならなかった。しかし朴槿恵政権は、北朝鮮の核実験後、中国と対北制裁について真剣な協議をする暇もなく、中国が最も懸念しているTHAAD配備に言及し、すぐにアメリカとの協議に乗り出した。それでいて中国に「最終制裁」をしようと言っても、誰が真面目に受け取るだろうか? 中国を狙った攻勢と対決の構図を強固にする日米韓の連帯を公然と主張し、「最終制裁」に参加せよなどと言っても、中国指導部はあきれるだけだろう。
朴槿恵政権は「最終決議」をすると言って、開城工業団地の閉鎖にまで踏み切る悲壮感を見せたが、THAAD配備で自ら足をとられ、見通しが決定的に狂った。中国はTHAAD配備の問題を、米韓の対中安保戦略のリトマス試験紙と考えるだろう。THAADが配備されれば、中国は中韓関係を調整して、安全保障的な措置を取る可能性が高い。最終的には中朝の軍事協力の強化につながる可能性も排除できない。
北朝鮮の体制を動揺させるかもしれない「最終制裁」に、中国がなかなか同意しないのは、両国の伝統的な政治的・軍事的な関係だけが理由ではない。それに劣らない新しい利害関係が両国間に形成されている。何よりも経済的に遅れた中国東北部の地方政府が、北朝鮮との協力を経済発展の重要な軸として認識し、構想を具体化させている。この構想は、中国の習近平国家主席が提唱した「一帯一路」戦略と結びついている。中国は陸上で14カ国と2万㎞の国境を接しているが、最近、中国国務院は、東海岸や中央に比べ相対的に立ち遅れたこの辺境地域で、隣接国との共同経済開発を通じて共同発展を図る戦略を打ち出した。ここには、歴史的に紛争が絶えず、常に不安定だった中国の国境を安定させるという、軍事戦略的な布石も敷かれている。
1月初めに中国国務院は、国境地域の経済を発展させるとして「重点地区」を指定した。北朝鮮と隣接する地域では、7つの都市と3つの辺境経済合作区が指定されており、延辺朝鮮族自治州と丹東市は国際観光合作区として発展させる方針を打ち出した。これは、北朝鮮との協力が、中国東北部の発展、「一帯一路」戦略を実行する重要なポイントになるという意味だ。このような複雑な事情のため、中国が「最終決議」に参加して、この国家戦略を放棄するだろうとは期待できない。国連の新たな対北朝鮮制裁決議が可決されれば、中朝の経済協力はある程度遅れるかもしれないが、中国がこの戦略を変更する可能性はほとんどないと見なければならない。
要するに朴槿恵政権は「最終決議」を引き出すという口実の下、とても重要な韓国の資産を、何の実益もなく「けりをつけて」なげうった。開城工業団地の全面中断によって、南北の共存共栄のための現実的な実験場に「けりをつけて」しまい、ただ3方向の海だけによって発展した韓国経済が、新たな飛躍の窓とした南北経済共同体と「北方経済」の夢に「けりをつけ」、開城工業団地のおかげで、過去10年間、一切の交戦が停止した軍事境界線西部の軍事的安定に「けりをつけ」た。難しくとも、南北の和解と民族共栄の道を歩まなければならないという、多くの人々の夢も「けりをつける」ことに追い込まれた。さらに、朴槿恵政権は米韓同盟の一辺倒から脱し、中国の成長に対応してバランスの取れた外交を追求すると公言しておきながら、拙劣にTHAAD配備に言及し、バランス外交の努力に「けりをつけ」た。
何よりも、最近の一連の事態を見ると、朴槿恵政権の統一・外交・安保政策の決定システムが事実上崩壊したと見られる。北朝鮮を排除した「5カ国協議」、THAAD配備など、大統領が統一・外交・安保分野の重大懸案に、公式の場で無節操な発言をし、これを収拾しようとして、非現実的で非合理的な政策を各省庁が相次いで打ち出し、追従する形がもたらされている。外交・安保関連省庁の幹部が、大統領の5カ国協議、THAAD配備への言及がどれほど不適切か知らないはずはなく、開城工業団地の全面中断が油を抱えて火中に飛び込むような無謀な行動だと、統一省の官僚が直視できないわけはないと思う。しかし彼らは、大統領の判断を正そうと決起するのではなく、大統領の管理にひたすら没頭しているようだ。
この悲劇を止める力は存在するのか? 答えは簡単だ。制裁もしなければならない。しかし、根本的に朝鮮半島の敵対的不信の構造を解消するには、対話局面に転換しなければならない。朴槿恵大統領は、6カ国協議の有用性を公然と疑ったが、北朝鮮の4回の核実験は、6カ国協議が中断された状態で発生した。対話が続く状況で、北朝鮮の核による挑発やロケット発射はなかった。にもかかわらず、朴槿恵政権がこうした認識とアプローチに同意するわけがない。
一つだけ方法があるにはある。北朝鮮の最初の核実験から1カ月後の2006年11月、アメリカのブッシュ大統領が中間選挙で惨敗し、ネオコンの象徴だったラムズフェルド国防長官を更迭し、6カ国協議で合意に至った先例が示す「選挙の力」だ。しかし韓国では、野党の分裂でそれさえも期待しにくい。呆れるばかりだ。
この記事はハフポスト韓国版に掲載されたものを翻訳しました。
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