2月25日、平昌オリンピック冬季大会が閉幕した。最大のハイライトは、何といってもフィギュアスケート男子シングルで、羽生結弦選手が66年ぶりとなるオリンピック2連覇を達成したことだろう。
東日本大震災から間もなく7年が経過するが、当時、被災地・仙台で練習していた羽生選手の活躍は、日本社会にどれほど大きな勇気と感動を与えたか計り知れない。テレビでは金メダルに輝いた圧巻の滑りが繰り返し放送され、その演技は何度みても『素晴らしい』の一語に尽きる。
フィギュアスケートの大きな魅力は、次々と繰り出される華麗なジャンプだろう。4回転ジャンプが成功すると会場からひときわ大きな拍手が湧く。
先日、フィギュア団体戦をテレビ観戦していた時、何かいつもと違う感じがした。理由は、ある外国人選手のジャンプの回転方向が右回転だったからだ。
羽生選手など日本の有力選手も含めて、多くのフィギュアスケート選手は左回転で跳ぶ。フィギュアでは右足で着氷する左回転(反時計回り)が正回転で、右回転(時計回り)は逆回転と呼ばれるそうだ。
バレエの場合は右回転が一般的だ。スケート選手の中にはバレエをやっていた人もいるだろうが、違和感はないのだろうか。今大会フィギュア女子シングルで4位になった宮原知子選手は左利きだが、アメリカでスケートを始めたころは右回転で、日本に帰国後に左回転に変更したという。
1980年代にビールマン・スピンで一世風靡したスイスのビールマン選手や今大会3位のカナダのオズモンド選手、5位のイタリアのコストナー選手も右回転だが、日本では右回転の選手はほとんど見当たらない。
フィギュアスケートのジャンプの回転方向は、個々の選手の身体特性に合わせて左回りも右回りもあるのだが、左回転の選手が多いのは、右利きで右軸足の人が多いからだろうか。
。陸上やスケートのトラック競技は左回りだ。その理由は、人間の心臓が左側にあるので左回転がやりやすいからだとか、地球の北半球の自転方向が左回転だから左回りが有利だとかと聞いたことがある。
トラック競技では左回りが既定事実であるため、私はスケートのジャンプは左回転と思い込んでいたのかもしれない。
北半球の日時計の影の動きから、アナログ時計の針が右回りになったことはよく知られているが、南半球では時計の針が左回りでもおかしくない。いつも左回転のジャンプばかり見ていると、天動説のように自分中心の経験が世界全体に通用していると錯覚しかねない。
コペルニクスが唱えた地動説は、16世紀の人々には大きなパラダイムシフトだったが、ジャンプの回転方向が「左回り」か「右回り」かは、私には先入観に囚われない「コペルニクス的転回」の小さなヒントでもあるように思えた。
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(2018年2月27日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員