JR東日本は、2014年3月15日のダイヤ改正より、所有する新幹線、特急に医療支援道具7種の搭載を発表した。
■同業他社の普及に期待
近年、多くの駅や一部の特急形車両では、急病人が発生した場合に備え、AED(自動体外式除細動器)を搭載している。かつては医療従事者しか使えなかったが、2004年7月以降、それ以外の人たちにも使用できるようになってからは、公共の施設や企業などにも設置され、急速に普及した。
JR東日本では、2014年3月15日のダイヤ改正より、所有する新幹線、特急に医療支援道具7種(聴診器、血圧計、パルスオキシメーター、ペンライト、舌圧子、アルコールシート、簡易手袋)を搭載する。乗客の中に医療従事者がいて、上記を持ち合わせていない場合に備えたものだ。特に、私用などで新幹線や特急を利用した医療従事者にとっては心強い。
なお、JR東日本管内を走る下記の特急は、他社車両のため、医療支援道具7種の搭載はない。
・エル特急〈(ワイドビュー)しなの〉:JR東海の車両
・特急〈スーパー白鳥〉:JR北海道の車両
・特急〈はくたか〉:JR西日本、北越急行の車両
・寝台特急〈サンライズ瀬戸〉〈サンライズ出雲〉:JR西日本、JR東海の車両
・臨時寝台特急〈トワイライトエクスプレス〉:JR西日本の車両
・臨時特急〈リゾート踊り子号〉:伊豆急行の車両
■優等列車(新幹線、有料の特急など)以外で急病人が発生した場合
日頃、鉄道を利用していると、車内で急病人が発生し、ダイヤが数分遅れる。首都圏(特に都心)の場合、駅間距離(駅から駅までの距離)は短いところが多いので、停車中の駅で救護されることが多い。
では、駅間距離の長い区間などで急病人が発生した場合、どうすればいいのか。選択肢の1つとして、車内に備えつけられているSOSボタンを使う手がある。私が実際に体験したことを述べてみよう。
2010年4月4日16時25分過ぎ、JR東海、東海道本線の新快速浜松行きは大府へ向かう途中、先頭車で前方の乗客たちが車内に異変が発生していることに気づいた。急病人が発生し、数人の乗客は「SOSボタン」と叫び、どこにあるのかわからないものを押すように呼びかけていた。
私は「うしろ」などと言って、後方の乗客に押してもらうよう、伝言をお願いする。車内は満員で身動きが取れない状況なのだ。それに私は医療従事者ではない。
SOSボタンは車端部に設置されていることが多く、乗車している313系5000番代のクモハ313形5000番代も、そこにある。後方の乗客の手によりSOSボタンが押され、ブザーが鳴り響くと、電車は高架上で滑らかに止まった。
乗客によると、新快速浜松行きは大高を通過したという。私は運転士に最寄りの駅で止めるよう、前方の乗客に伝言をお願いする。「最寄りの駅」と言ったのは、「次の駅」と言うと、「大府」と解釈される恐れがあるからだ。
16時34分、女性運転士が客室に入り、切羽詰った表情で乗客をかき分けながら進む。急病人と、どこでSOSボタンが押されたのかをそれぞれ確認する。SOSボタンのブザーは、乗務員の手で解除しなければならないのだ。
女性運転士がSOSボタンを解除して乗務員室に戻り、16時35分に運転再開。南大高で緊急停車をして、救急車を手配することになった。
16時37分、女性運転士は警笛を鳴らし、南大高に到着。急病人を降ろし、16時42分に発車した。大府以降は定刻より15分遅れとなり、終点浜松には13分遅れで到着した。
今回の出来事は、「SOSボタン」を知っていても、どこにあるのかわからないという乗客が多かった。それは当然だと思う。関東地方の場合、ホームのSOSボタンを黄色にしてわかりやすくしているのに対し、車内の場合、ステッカーが頼りで、その部分を目立つに色にする車両が少ないと思う。
急病人は先頭車で発生したので、"運転士はSOSボタンが押される前に、客室の異変に気づいていたのかどうか?"と疑問を持つ人は多いと思う。運転士は運転中に乗客から話しかけられても対応ができず、勝手な行動もできないので、乗客がSOSボタンを押したのは間違った判断ではない。
★備考
・JR東日本プレスリリース「新幹線・特急列車へ医師支援用具を搭載します」
(2014年2月20日のYahoo!ニュース個人「JR東日本、新幹線と特急列車に医療支援道具7種を搭載」から転載)