10万人の犠牲者、3万人の子ども兵士を生んだウガンダの反政府組織「神の抵抗軍」(英名:Lord's Resistance Army/LRA)。
その司令官であるジョセフ・コニーの探索・討伐作戦が終了することになった。
今月上旬に、CNNなど海外メディア多数が報じている。
アメリカ軍の支援を受けたウガンダ政府軍などによるコニー探索・討伐作戦は10年近く続き、アメリカはこれまで7億8000万ドルもの費用を注ぎ込んで来たが、既に一部では撤退が始まっており、今年9月には完全撤退する見込みだ。
ジョセフ・コニーには国際刑事裁判所(ICC)から「人道に対する」罪などの罪状で逮捕状が出ている。
コニーは現在でも、部下数十人や妻複数人などと共に、アフリカ中部に潜伏していると見られている。
ウガンダ北部最大の街グル市の様子(photo by Kanta Hara)
子どもを消耗品として使った「神の抵抗軍」
1990年代以降、ウガンダ北部では政府軍と「神の抵抗軍」との間で戦闘が続いた結果として10万人もの人々が犠牲になり、また一時は200万人以上が避難民としての生活を強いられた。
司令官ジョセフ・コニーは「神の抵抗軍」を指揮し、その首には500万ドルもの懸賞金が懸けられていた。
「神の抵抗軍」は暴力を用いることで人々を服従させようとした。
恐怖を植え付けるために、一般住民の耳や唇、鼻を切り落とすといった事例も多く報告されている。
特筆すべきは、「神の抵抗軍」による子どもへの犯罪だろう。
彼らは戦力を補給するために子どもを誘拐して強制的に兵士へと仕立てたり、少女の場合は兵士と強制結婚をさせたりなど、その非道な行為は国際社会からの強い非難を受けている。
子どもは従順で洗脳されやすく、そして強制的に徴兵・徴用することが可能なため、すぐに戦力を補充することができる。
つまり、「神の抵抗軍」は子どもたちを「消耗品」として扱ってきたのだ。
結果として、ウガンダでは20年以上続いた紛争によって3万人以上の子どもが誘拐され、望まない兵士としての生活を強いられてきた。
中には、ある日突然誘拐されて兵士にさせられた後、最初の「任務」として故郷を襲撃することを強要され、家族の殺害や四肢の切断をさせられるといった残虐な事例も報告されている。
これは、住民に恐怖を与えるほか、子どもたちの脱走を防ぐための手段としても行われた。
つまり、「神の抵抗軍」は子どもたちから「帰る場所」を奪い取ったのだ。
(関連記事:『カラシニコフと子ども兵(少年兵)-自衛隊派遣(駆けつけ警護)の南スーダンには1万6千人』/『"初めての任務として母親の腕を切り落とす"少年兵・少女兵問題は、大学生の私にとって目の前の解決したい問題になった。』)
ウガンダ北部で撮影した夕焼け(photo by Kanta Hara)
イギリスによる分断統治が「神の抵抗軍」を創り出した?
「神の抵抗軍」による極悪非道な話を聞けば、多くの人は「アフリカには争いが絶えない」「アフリカは恐ろしい」と感じるかもしれない。
しかし、この「神の抵抗軍」が誕生した背景には、イギリスによる植民地支配の爪痕が存在するのだ。
イギリスは宗主国時代、ウガンダ南部の人々には教育の機会など数多くの特権を提供する一方、北部のアチョリ人をしばしば迫害してきた。
そのため、北部の人々が抱える不満は宗主国のイギリスのみならず、南部の人々にも向けられることになる。
ヨーロッパの国々はアフリカを植民地支配にするにあたって、このような「分断統治」をしばしば導入してきた。
ウガンダ周辺国のルワンダやブルンジでは、宗主国ベルギーによってフツ人とツチ人の対立が生まれ、独立後の紛争やジェノサイド(集団抹殺/大量殺戮)へと繋がっている。
詳細は以下の関連記事を読んでほしい。
1962年にイギリスからの独立を果たした後のウガンダでは、軍事クーデターによってしばしば政権が変わる。1985年には北部最大民族であるアチョリ出身の軍人オケロが政権を奪うが、その数か月後には南部出身で、現ウガンダ大統領のヨウェリ・ムセベニが率いる「国民抵抗軍」(NRA)によって政権が奪われる。
アチョリ出身の人々は北部へと逃げるが、それ以降ウガンダ政府は北部の人々を度々虐げてきた。
植民地時代の分断統治の結果として、南部に比べて長い間貧しい生活を強いられてきた北部の人々は、ますます不満を募らせていったのだ。
このような状況の中、霊的啓示を受けたと名乗り出たアチョリ出身の女性預言者アリスによって、ムセベニ政権打倒を掲げたカルト宗教的要素を持つ反政府組織が結成される。その後、その組織に参加したジョセフ・コニーによって誕生したのが、「神の抵抗軍」なのだ。
ジョセフ・コニーが「魔力」を得たと言い伝えられるウガンダ北部の大岩(photo by Kanta Hara)
神の抵抗軍が再び息を吹き返す懸念も
ウガンダ政府軍による「神の抵抗軍」への掃討作戦もあり、20年前、10年前と比べると規模を大きく縮小させた「神の抵抗軍」。ウガンダ北部では現在「神の抵抗軍」の活動は確認されていない。
規模は縮小している一方で、未だに「神の抵抗軍」は中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国東部、南スーダンの一部などで活動していることが指摘されている。
例えば、昨年6月には国連が「LRAは2016年始めの3か月で中央アフリカ共和国での襲撃と誘拐の勢いを強めている」旨を発表している。
国連安全保障理事会に提出されたレポートでは、「神の抵抗軍」による42件の襲撃が報告されており、2016年第一四半期だけでも民間人6人の殺害と子ども252人の誘拐が起きている。
報道によれば、今回の探索・討伐作戦終了の大きな理由として、アメリカ・ウガンダ当局は共に「『神の抵抗軍』はもはや脅威ではなくなった」ことを挙げているが、一方で「神の抵抗軍」が再び力を取り戻す懸念も指摘されている。
同地域では紛争が続いている所も多く、あらゆる武装組織が跋扈しているなど治安も安定していないことを考えると、「神の抵抗軍」と他武装組織が手を結び、襲撃や子どもの誘拐などが再び繰り返される可能性は十分に考えられるだろう。
(2017年5月6日 原貫太公式ブログ『世界まるごと解体新書』より転載)
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<ウガンダの紛争や「神の抵抗軍」の更なる詳細を知りたい方へ>
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誰だって、一度は思ったことがあるだろう。今この瞬間にも、世界には紛争や貧困で苦しんでいる人がいるのはなぜなのだろうと。その人たちのために、自分にできることはなんだろうと。
僕は、世界を無視しない大人になりたい。 --本文より抜粋
ある日突然誘拐されて兵士になり、戦場に立たされてきたウガンダの元子ども兵たち。終わりの見えない紛争によって故郷を追われ、命からがら逃れてきた南スーダンの難民たち。
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記事執筆者:原貫太
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