安藤健二
大地を鉈で割ったかのような峡谷を延々と降りていくと、岸壁の海岸に真っ黄色の熱湯が噴き出していた。ここは東京都の式根島にある、その名も「地鉈（じなた）温泉」。湯船もなければ脱衣所もシャワーもない野趣あふれる秘湯だ。
源泉は摂氏80度もあるので、そのままでは入れない。利用者は水着をつけて、海水と温泉が混じってちょうど良い温度になった岩場を探すという寸法だ。
太平洋の潮騒の音を聞きながら、温泉につかるのは最高の気分。日々の仕事の疲れも吹っ飛んでしまった。温泉に入っているというより、温泉が混じった海水に浸かっているという方が適切だ。入っている波が押し寄せると、小さな魚が足下を泳いでいった。
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