私たちが着ているTシャツを作るために、海外の工場では膨大な水が消費され、私たちの出したプラスチックごみが生態系を脅かしています。しかし日本人の多くは、こうした地球規模の問題をなかなか身近な出来事としてイメージできないのではないでしょうか。
JICA海外協力隊の学習チャンネル「3分で学ぶ世界」で案内人を務めるタレントのホラン千秋さんに、世界の出来事をどのように「自分ごと」として捉えているのか聞いてみました。
声なき悲鳴に耳を傾ける。生き物との共存を目指すことが人間の使命
──ホランさんは、自分の生活と世界とのつながりを意識することはありますか。
ホラン:海外のニュースなどで、ウミガメの鼻にストローが刺さっていたり、鳥のお腹がプラスチックで埋まっていたりする映像に、ショックを受けることがよくあります。
人間の暮らしや発展のためだけに、他の生き物たちが無条件に犠牲になっているという現状がある。彼らが声を上げられないからと、その悲鳴に耳を傾けないのはあまりにも無責任だと思うんです。技術や知恵があるからこそ、失われつつあるものを守ることもできるはず。
この地球環境を守ること、生き物たちと共存する自然環境のバランスを保つために努力することは、私たち「人間」に与えられた使命だと、改めて意識させられます。
──日本は残念ながら、ウミガメや鳥の生命を脅かすプラスチックごみの「輸出国」(*)でもあります。現状を改善するため、ホランさんが取り組んでいることはありますか。
ホラン:できる限りエコバックやマイボトルを使うようにしています。お弁当を買うとどうしてもプラスチックごみが出るので、時間があれば自分で作ります。環境問題への関心が高い両親から、ゴミを最小限に抑え、可能なものは再利用するといった教えを受けて育ったことも、こうした行動につながっていると思います。
ただ、もちろん私も完璧ではなくて、“洗剤量が減るから”とお弁当のおかずの下ににラップを敷くのと、ラップなしで普通に洗い物をするのでは、どちらが環境への負荷が軽いのかなど悩むことも多く、日々試行錯誤です…
若者が上の世代を変える。Z世代のまっとうな意見に耳を傾けて
──ホランさんは今回、JICA海外協力隊から話を聞いて新たな気づきはありましたか。
ホラン:印象的だったのは、隊員さんの1人が「若者の意識が、上の世代に影響を与えている」と話してくれたことです。
一般的に若者は、親や先生など「大人」の教えを受けて人格を築いていますよね。でも、今は環境運動についてなど、逆に若い世代が大人に「新しいスタンダード」を伝えるという現象が起きていて、それが大きなうねりになっていることを実感しています。
──確かに10代後半~20代前半のいわゆる「Z世代」は、社会貢献に対する意識の高い人が多いと感じます。
ホラン:若い世代は良くも悪くも、先人の残したものを背負って生きていかなければなりません。そのまま進むのか、それとも大人の敷いたレールを離れて新しい道を模索するのか。私は、若者が今までとは違った視点から世界の課題に取り組むのは、とてもいいことだと思うんです。環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんは、その象徴的存在ですよね。
トゥーンベリさんの「地球を守るため、科学者たちの話に耳を傾けて」という訴えは、至極真っ当に思えます。世界のリーダーを含めた「大人」たちが、彼女を含めた若者たちの振る舞いを「未熟でものを知らない」と決めつけ批判するのは、それこそ「大人げない」と思います。若者のエネルギーを抑えつけるより、その思いをより良い未来に導くことこそ大人の役目ではないでしょうか。
完璧じゃなくていい ファッションも入り口に
──でも、彼女ほどの行動力や説得力を持つのは難しいですよね…。
ホラン:そうですね。多くの人は地球規模の課題に直面すると、その大きさに“スケール負け”して、「自分がやっても何も変わらないだろう…」と諦めてしまうかもしれません。
まずはエコバッグやマイボトルを持つといった、身近なところからマイルドに行動し始めるのでもいいと思うんです。最初から完璧を目指せと言われても難しい。それで気後れしてしまってやらないよりは、気付いた時に小さなことでもいいから始めて欲しい。
私もマイボトルを持ち歩かない日や、スーパーで袋を買ってしまう時があります。でも、ダイエットやフルマラソンと一緒で、いきなり高い目標に向かおうとせず、まずはできるところから、長い目で取り組めばいいと思います。そういった、日々の小さな積み重ねが、大きな変革につながると信じています。
──社会課題に対する関心の薄い層には、どうアプローチすればよいでしょう。
ホラン:一つの手として、気軽にファッションやカッコいい商品を入り口にして問題を知ってもらい、結果として行動につながるのも「あり」だと思います。
例えば誰かに上から目線で「地球環境を守るべきだ」と言われると「自分には関係ない」と反発したくなるけど、友人や先輩がステキなデザインのエコバックやマイボトルを持っているのを見たら「カッコいい」と感じるかもしれません。自分も「カッコよく」見られたいからとマイボトルを持てば、それはもう、環境を良くするための第一歩を踏み出したことになります。結果として同じゴールに向かうのであれば、入り口はなんでもいいと思うんです。
私も自分が行動することで、周囲に小さな気づきや、取り組みを始めるきっかけを提供できればと思っています。実際、会社のスタッフや周りにいる若い子たちが、環境のためにゴミを分別したりマイ弁当を持参したりして、私の心掛けていることが“伝染”しているのをみると嬉しいですね。
内向きな若者へ「外に出てこそ分かる、日本の良さもある」
──一部の意識の高い層を除くと、日本の若者は「内向き」で、留学などへの関心も諸外国に比べ低いと言われます。
ホラン:私も日本は生活しやすく、社会保障制度の整った「いい国」だと思いますし、国外に出たがらない若者の気持ちも理解できます。
でも外に出て初めて見える、この国の良さや課題もきっとあるはずです。私は学生時代、1年間だけではありますが、アメリカに留学しました。そこでさまざまな宗教や人種の人々と出会い、より多様な社会に触れることができました。
だからこそ、どんなバックグラウンドを持っている人に出会っても、フラットな気持ちで接することができるようになったと思います。他人にどう思われるとか世間体とかを気にせず、自分に誇りを持って生きている人たちのパワーに触れると、知らず知らずのうちに自分を卑下してしまっていることや、本当にやりたいことができていない自分に気づくこともありました。そういう経験を経て日本に戻ってくるのと、そうでないのとでは、その後の行動力にも差がつくと思います。
見ず知らずの国に飛び込むのは恐いですし、日本で積み上げたものがゼロに戻るような経験もするかもしれない。でも、自分の限界を知って、本当に大切にしたい価値観が明確になることもあると思います。
「お金がかかるし…」「留学なんてしなくても生きていける」と思うかもしれません。でも、もし留学してみたい気持ちが少しでもあって、時間とチャンスがあるのなら、外に出ないのはもったいないと思うんです。
社会に出てから初めて、こんなにも時間がないんだ、ということに気づかされる。だからこそ、できるときにやる。私が今ここにいられるのは、間違いなくあの留学があったからだと思いますし、留学以外にも、旅行など、どんな形でも海外に出ることは、人生の得難い経験になるのではないでしょうか。
ただ、今はコロナ禍で国外に出づらくなってしまいましたよね。行動したくてもなかなかできない状況だからこそ、海外経験者の話を聞いたり、JICA海外協力隊のインタビュー動画を見たりして、行った人ならではの体験を共有するのもいいかもしれません。
例えば、私にはJICA海外協力隊に参加してモンゴルで現地の教育に関わった友人がいますが、彼女は当時「モンゴルではキャンプに行く時、生きた羊を一頭連れて行ってそれを料理するんだ」と驚きの体験を語ってくれました。現地に行ったからこそ分かるリアルな話を聞くと、自然と海外に対する興味も湧いてくる気がします。
──海外とのつながりを深めるため、ホランさんが今後、取り組みたいことはありますか。
ホラン:キャスターを務めているニュース番組で、環境問題についてもっと積極的に発信したいと思っています。現場に出て、自分の見たものを自分の言葉で伝え、視聴者の皆さんの1日のうち1分でもいいので、世界について考える時間を持ってもらえたら嬉しいです。
もちろん将来キャスターの仕事を離れても、その時その時できる形で、自分が得た経験や知識を世界へ還元したいですね。
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日本で便利なサービスに囲まれて生活していると、私たちの暮らしはこの国の中だけで完結していると思いがちです。
でも、環境や経済などを通じて世界はつながっていて、わたしたちの何気ない行動は、世界のどこかの人々や環境に影響を与えています。
ホラン千秋さんが案内人を務める学習チャンネル「3分で学ぶ世界」が8月24日公開されました。
日本から世界中に派遣されるJICA海外協力隊の隊員たちが、現地で見たこと、取り組んだことを等身大のリアルな視点で語ります。
世界にはどんな人たちが暮らし、どんな課題に直面している?
まずは、知ることから初めてみませんか。
(文:有馬知子、編集:清藤千秋)
★JICAの取り組みは、未来を感じる動画メディア「bouncy」でも公開されています。あわせてご覧ください。