特定秘密保護法は「日米同盟の強化」のために作られる?【争点:安全保障】

日米同盟の強化のために「特定秘密保護法」を作る--。安倍首相は「特定秘密保護法案」について審議を行う“特別委員会”を設置するよう指示した。早急に法案を成立したい考えだとみられるが、どのような背景があるのか。
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時事通信社

日米同盟の強化のために「特定秘密保護法」を作る--。

安倍首相は10月3日、自民党の石破茂幹事長と会談し、「特定秘密保護法案」を審議する“特別委員会”を、衆議院に設置するよう指示した。特定秘密保護法案とは、国の機密情報を漏らした公務員への罰則を強化するなどの内容を定めたもの。安倍首相は今月15日から開かれる臨時国会で、同法案を早期に成立させたいとしており、議論を加速する考えだ。NHKニュースは安倍首相と石破幹事長の会談内容を、次のように報じている。

安倍総理大臣は、3日、総理大臣官邸で自民党の石破幹事長と会談し、「日本版NSCの創設や安全保障に関する情報の保護は重要な課題であり、法案を早期に成立させたい」と述べ、国家安全保障会議を創設するための法案や「特定秘密保護法案」を審議する特別委員会を衆議院に設けるよう指示し、石破氏は調整を急ぐ考えを示しました。

(NHKニュース「首相 法案早期成立へ特別委設置指示」より。2013/10/03 15:50)

「特別委員会」が設置されると、週2日程度しか会議ができない常任委員会と異なり、連日の審議が可能となる。安倍首相が同法を早期に成立させたいとする背景には、日本で度々発生している「機密情報の漏えい」事件についてのアメリカ側の懸念がある。

日本・アメリカ両政府は3日、外務・防衛担当閣僚協議会(2プラス2)を開き、中長期的な日米の安全保障協力体制や在日米軍の再編等について協議を行った。両政府は会議後の記者会見において「より力強い同盟とより大きな責任の共有に向けて」と題した共同文書を発表。日本とアメリカは中国の軍事力強化を牽制するため、共同訓練を行ったり、技術開発協力を進めるとしている。

日米防衛協力の取組において、情報が漏れてはかなわない。そのため、同文書のなかで情報保全に関する取り組みについて、「情報保全の法的枠組みの構築における日本の真剣な取組を歓迎」とわざわさ「日本」という国名を明記。それほどアメリカ側の日本に対する情報法保全体制への不安は大きい。

閣僚は,情報保全が同盟関係における協力において死活的に重要な役割を果たすことを確認し,情報保全に関する日米協議を通じて達成された秘密情報の保護に関する政策,慣行及び手続の強化に関する相当な進展を想起した。

SCC(日米安全保障協議委員会)の構成員たる閣僚は,特に,情報保全を一層確実なものとするための法的枠組みの構築における日本の真剣な取組を歓迎し,より緊密な連携の重要性を強調した。

(外務省「日米安全保障協議委員会(「2+2」閣僚会合)等の開催・共同文書」より。 )

アメリカ側が日本に対して不安を抱くきっかけとなった1つは、2007年3月に起こったイージス艦の情報漏えい事件だ。本来ならば取扱資格のない者にまで情報が広がっていたことなどもあり、アメリと日本は同年5月に行われた2プラス2において、軍事情報包括保護協定(GSOMIA:ジーソミア)と呼ばれる協定に合意。GISOMIAは、防衛に関する秘密情報を交換する際の規則などを定めたもので、同年8月に締結した。第1次安倍内閣でのことである。

GSOMIAでは第7条において、機密情報を扱える人を、セキュリティ・クリアランスともいわれる適性検査「秘密軍事情報を取り扱うにふさわしい人物であるという資格」を保有する人だけに限定すると決められている。また、第16条においては、政府と契約を行った民間企業の人についてもこの協定が適用され、第7条と同様に、秘密情報を取り扱うには「取扱資格を有する」必要があるとしている。

しかし、現在の日本においては、その「秘密軍事情報取扱資格」をどのように定めるか、またどのように審査するかがはっきりと決められていない状態であるため、細やかに定めているアメリカからは注文が出ている。

民主党政権に移った2009年11月には、鳩山首相とオバマ大統領による日米首脳会談において、情報保全を含め日米間で安保分野での協力を強化し、同盟深化のための協議プロセスを開始することで一致。2010年3月には、情報保全についての日米協議の枠組み(BISC:Bilateral Information Security Consultation)設置に合意し、このBISCの中で、セキュリティ・クリアランスや、機密情報が外部に漏出するのを阻止するカウンター・インテリジェンスに関して、日米両国は議論を進めてきた。

2013年9月、第2次安倍政権において政府が作成した特定秘密保護法案では、このセキュリティ・クリアランスに関しても盛り込まれている。しかし、セキュリティ・クリアランスでは、クレジットカードやローンなどの返済状況、精神疾患などでの通院歴なども審査されることになるかもしれないため、プライバシーの侵害になるのではないかとの指摘もある。

また、秘密情報の保存方法についても課題がある。というのも、現在日本では、自衛隊法上の「防衛機密」については、防衛省の課長級以上の担当者の判断で、廃棄することが認めれられているためだ。NHKニュースは、廃棄された機密文書の数を次のように報じている。

自衛隊法上のこの「防衛秘密」について、防衛省に取材したところ、平成19年から23年までの5年間で指定された文書は合わせておよそ5万5000件でした。

一方で、この間に保存期間を過ぎたなどとして廃棄された秘密文書は合わせておよそ3万4000件に上ることが分かりました。

廃棄された件数を、年ごとに見ますと、平成19年は2300件、平成20年は3000件、平成21年は9800件、平成22年は1万600件、平成23年は8600件となっています。

(NHKニュース「「防衛秘密」の多くが廃棄」より。 2013/10/03 19:16)

この点に関しては、政府が作成した特定秘密保護法案でも、文書保存の規定がなかったため、与党自民党の中でも「省庁側が恣意的に廃棄できる」との指摘があったという。2日に開催された自民党内の特定秘密保護法案に関するプロジェクトチームの会議では、次のような声が上がったとMSN産経ニュースが伝えている。

。公文書管理法を適用すれば価値の高い文書は国立公文書館に移管するほか、文書廃棄には首相の同意が必要となる。ただ、会合では出席者から「保存ルールを条文に明記すべきだ」との意見が出た。原案が報道の自由に「十分に配慮する」としたのに対しては「これでは不十分ではないか」との声もあった。

(MSN産経ニュース「特定秘密「保存」と説明 政府、公文書管理法を適用」より。 2013/10/02 19:15)

この他にも、保護するべき「特定秘密」の範囲があいまいであるなどの課題も多く、政府が9月募集したこの法案に関するパブリックコメントヘ寄せられたコメントも、反対意見のほうが多かったという。

政府が17日までの15日間に行った意見公募(パブリックコメント)に寄せられた約9万件のうち、同法案への反対は約8割で、賛成は1割程度だったと報告された。自民党は10月15日召集予定の臨時国会前に党内の了承手続きを終える予定。政府は公明党の賛同も得て臨時国会冒頭に法案を提出する方針。

(MSN産経ニュース「特定秘密保護法原案 「報道の自由配慮」明記 政府が自民に提示」より。 2013/09/26 18:42 )

特定秘密保護法原案については、公明党からは慎重に議論すべきという意見も出ているため、臨時国会での調整は難航しそうだ。

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