李明博大統領(2008-2013)の就任2年で8回開催された日韓首脳会談が、朴槿恵大統領の就任2年になるというのに一度も開催されていない。「首脳会談なき日韓関係の正常化」という言葉まで出てくるのも無理はない。「国交正常化」50年の話題が「関係正常化」に集中するなどと誰が想像しただろうか。このままでは今年も日韓関係の劇的な改善は難しいとの見通しが大勢だが、2つだけ明らかになったことがある。一つは、朴槿恵政権で「1965年体制」の日韓関係が確実に幕を下ろすということ。もう一つは、従来の発想では現状を打開できないということだ。
■日本の姿勢はどう変わったか
国交正常化以後、日本は過去への反省と経済力を背景に、日韓関係でそれなりに柔軟さと余裕を見せた。しかし最近は、こうした側面を見出すことが難しくなった。特に日韓の外交問題に対する日本政府の姿勢が、かつてとは異なり、積極的に主張し、対決もいとわない傾向を見せている。独島(日本名・竹島)や東海(日本名:日本海)についてそうした姿勢が目立った。2014年6月の河野談話検証結果の発表では、秘密解除もされていない外交協議の内容まで一方的に公開して、慰安婦問題で攻勢に出た。
また、最近は韓国政府への信頼感が大幅に低下したようだ。何より日本政府は、韓国が中国との連携を強めることに大きな不満を持っている。そして、日韓秘密情報保護協定を署名直前に延期したこと(2012年6月)や、南スーダンの韓国軍部隊に対する自衛隊の弾薬供与問題(2013年12月)などで、韓国政府の姿勢に物足りなさを感じたようだ。
一方、日本の社会で韓国への感情がここ数年で大幅に悪化し、特に慰安婦問題であからさまな反感が噴出している。 右派勢力は、根拠のない主張が流布され、国際社会で日本の名誉が傷つけられ、「アジア女性基金」のような日本の誠実な努力も不当に蔑視されたと主張する。さらに朝日新聞の誤報問題を機に、こうした主張は日本社会で一定の共感を得ている。慰安婦問題が最初に外交問題として浮上した1990年代には、日本には慰安婦問題に好意的な世論が幅広く存在したが、今はそういう意見は少数派に転落してしまった。注目すべきは韓国の立場を支持してくれた日本の中道・革新勢力も、最近では韓国の態度が過度に硬直し、一方的で、日本の誠意を無視していると捉えている事実だ。
日本の協力で韓国が経済成長を遂げれば、韓国は日本に対し寛大になると期待したが、逆に韓国の対日姿勢はさらに硬化し、今では日本を軽視し無視しているというのが日本社会の全体の雰囲気だ。
■韓国の変化とニューノーマルな日韓関係
韓国では、かつての「1965年体制」で抑え込まざるをえなかった歴史問題と独島(竹島)問題への不満が、1990年代から本格的に噴出し始めた。これは、冷戦終結と中国の台頭という国際情勢の変化や、日韓の経済格差の縮小に伴う必然的な帰結だった。そして民主化が実現し、インターネットとSNSが発達するに伴い、国民世論は外交政策に直接的で強力な影響力を及ぼすようになった。世論は透明でわかりやすい外交を要求し、政治指導者たちはこれを強く意識するようになり、外交政策で柔軟に対応することがますます難しくなった。特に国民感情が敏感に反応する日韓関係では、こうした傾向が顕著にあらわれている。
冷静かつ合理的な考察より、感性的な認識が外交を左右する現象は、韓国だけでなく日本でも顕著だ。北朝鮮による日本人拉致問題や、北方領土、尖閣諸島など領土問題、靖国参拝や慰安婦などの歴史問題が代表的だ。このような現象について、日本では「日本の韓国化」という言葉まで出てくるほどだ。
韓国と日本のこうした変化は、一時的な現象ではない。日韓関係における日本の態度の変化は、簡単には元に戻せないもので、韓国社会で独島(竹島)や歴史問題の議論を以前のように抑え込むことも難しいだろう。国民世論の外交への影響力も簡単には弱まらない。「1965年体制」に代わる新たな枠組みが登場するまで、日韓関係の「ニューノーマル」状態が続く可能性がある。
であれば、対日政策でも、過去とは違う発想が必要だ。韓国の国民世論が納得できる国内向けの説得力と、変化した日本社会も納得させられる対外説得力の両方を備えなければならない。大局的な見地で今の不満を少しだけ我慢しようという発想では、韓国内の世論を納得させることはできない。日本の罪を指摘し攻勢をかけるだけでは、もはや日本社会の共感を得られない。従来の方式では通じない。是々非々で問いただすべきは問いただし、認める部分は認めることで、初めて韓国内にも、そして日本に対しても説得力を持つことができる。
■「二つの説得力」請求権協定が試金石に
「二つの説得力」の最初の試金石は日韓請求権協定だ。現在、日韓関係の難関は慰安婦問題だ。しかしその核心は請求権協定にあり、徴用者の問題とコインの裏表の関係になっている。従って請求権協定で脈を探って総合的に対応しないと、解決することができない。
慰安婦問題についての憲法裁判所の判決(2011年8月)と、徴用者問題についての最高裁判所の判決(2012年5月)は、被害者個人に賠償請求権が残っていることを認めた。これに対し日本政府は、日韓間のすべての請求権は請求権協定で既に解決されていると真正面から反論している。日本では、この判決を機に韓国の司法が、国家間の約束より国民感情を重視しているという批判も出ている。
一方、請求権協定についての韓国の立場は、2005年8月に「日韓会談文書公開官民共同委員会」が明らかにした。 請求権協定で徴用者の問題は解決されたが、慰安婦、サハリン残留韓国人、原爆被害者の問題は解決されなかったとしている(1)。これに伴えば、憲法裁判所と最高裁判所の判決を受けた韓国政府の方向性も自然に導き出される。
まず、徴用者の問題は、最高裁判所の判決に基づいて日本企業への強制執行が行われ、日韓間で重大な外交問題に飛び火する事態を防がなければならない。そのためには韓国政府が、最高裁判所の判決を尊重しながら、国家間の請求権協定で既に解決されたとする立場を再確認し、必要に応じて被害者への追加支援も検討すると表明しなければならない。2014年6月に発足した「日帝強制動員被害者支援財団」を活用する方法などが考えられる。国家間で条約を締結した以上、韓国政府はその責任を果たすのが当然であり、政府が明らかにした請求権協定の解釈とも一致していることを国民に説明し、理解を求めなければならない。被害者と韓国内の世論は反発するだろうが、2005年に明らかにした政府の立場に従い、論理的一貫性を持って説得するしかない。そうすれば、日本が韓国政府への信頼を回復させるきっかけにもなるだろう。
■慰安婦問題は仲裁委員会に付託を
一方、慰安婦問題については、請求権協定で解決されていないというのが韓国政府の立場であり、憲法裁判所の判決に基づき、協定の解釈について日本に対し徹底的に交渉しなければならない(2)。すでに請求権協定第3条第1項に基づいて、日本に外交協議を2回も要請したが、日本が応じなかったため、次のステップとして第3条第2項に基づく仲裁委員会への付託を要請する手続きが残っている。しかし現在、韓国政府は別の方法を模索している。
韓国政府は外交当局者間の局長級協議で、慰安婦問題での「誠意ある措置」を日本に求めている。そして朴槿恵大統領は1月の新年記者会見で「国民の目線に合った」合意案が出なければならないと述べた。しかし、譲歩と妥協を伴う外交交渉で果たして「国民の目線に合った」解決策を示せるかは非常に疑わしい。日本政府は請求権協定で慰安婦問題が解決されたとする立場を決して譲らない。したがって法的責任を否定して、あくまで道義的責任を踏まえた人道的措置として解決しようとするだろう。しかし、この妥協案は韓国の被害者と世論が納得しないだろう。 かつて「アジア女性基金」にも同じ理由で反対したからだ。
その場合、慰安婦問題を原点からもう一度考える必要がある。慰安婦問題は過去20年、妥協策(韓国の金銭補償要求と被害者支援の国内措置、日本のアジア女性基金)が壁にぶち当たり、最終的に憲法裁判所の判決で請求権協定の解釈の問題として戻ってきた。したがって、再び外交的妥協で解決を模索するよりも、仲裁委員会への付託に方向転換して、問題の核心に正面から向き合うことが望ましい。
これは、憲法裁判所の判決を積極的に履行するもので、請求権協定における韓国政府の立場とも一致しているので、被害者と国内世論に大きな説得力を持つ。請求権協定の解釈が互いに食い違う問題を、協定の規定に基づいて考えようとするもので、日本側にも、今のような「誠意ある措置」を要求するより論理的にはるかに説得力がある。
■首脳会談と慰安婦問題は分離すべきだ
現在、韓国政府は、慰安婦問題の解決を首脳会談の前提条件としている。しかし、日本社会の雰囲気や日本政府の立場からして、韓国の「国民の目線に合った」合意案が出にくい以上、慰安婦問題を前提条件とすることは決して韓国の交渉力を高めない。むしろ韓国の選択肢を狭める結果になる。そして、慰安婦問題という単一の問題で対日外交全体を縛ることは望ましくない。首脳会談と慰安婦問題を「分離対応」する方法を探らなければならない。
仲裁委員会に付託することで、これらの分離対応が可能になるだろう。韓国世論には、慰安婦問題を首脳会談と分離することが決して日本への譲歩ではなく、首脳会談とは別の場で請求権協定の解釈を日本に問うためのものだと説明すれば説得力を持つ。
分離対応は対日外交の基本方針としても必要だ。歴史問題や独島(竹島)問題では断固とした立場を堅持するが、安全保障や経済分野では協力する必要がある。しかし、これは歴史問題で誠意を見せなくても、安全保障と経済の面で実利を得られる、日本にとって都合のいい論理だとの批判も起きるだろう。したがって、分離対応に韓国内での支持を確保するためにも、慰安婦問題のように問いただすべきは問いただし、一方で協力すべきは協力する姿勢が必要だ。問題に応じて分離対応を駆使して「二つの説得力」を同時に追求すること、これが日韓関係を解きほぐす新しい発想だ。
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(1)官民共同委員会は、「日韓請求権協定は、日本の植民地支配への賠償を請求するための交渉ではなく、サンフランシスコ条約第4条に基づき、日韓両国間の財政、民事債権・債務関係を解決するためのものであり、日本軍慰安婦問題など、日本政府と軍隊など日本の国家権力が関与した反人道的不法行為については、請求権協定で解決されたものとみなすことはできず、日本政府の法的責任は残っている」と発表した。一方、徴用者の問題は、請求権協定で解決されたとみなし、韓国政府が1975年の国内補償措置に続き、2008年から第2次国内補償措置を開始した。
(2)憲法裁判所の判決は、慰安婦問題が請求権協定で解決されたかどうか、日韓両国政府の解釈が異なるにも関わらず、請求権協定第3条の規定による努力(外交協議と仲裁委員会付託)をしていない不作為を違憲とした。つまり、請求権協定の第3条の規定により「解釈の違いを解決」すべしとの趣旨で、単に「慰安婦問題の解決のため努力すべし」ということではない。
この記事はハフポスト韓国版に掲載されたものを翻訳しました。