日韓比較(5):非正規雇用-その1 非正規雇用労働者の現状―労働契約法や労働者派遣法の改正は企業の雇用戦略にどのような 影響を与えるだろうか?:研究員の眼

日韓両国ともに、非正規雇用労働者の増加が長期のトレンドとして観察できる。
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日韓両国ともに、非正規雇用労働者の増加が長期のトレンドとして観察できる。

日本では97 年に派遣労働の自由化を盛りこんだ規制緩和推進計画が閣議決定され、99 年には派遣が原則自由化された。その結果、 非正規雇用労働者の増加に拍車がかかり、雇用形態の多様化がさらに進んでいる。

一方、韓国では97 年の IMF経済危機以降、非正規雇用労働者が増加することになった。本稿では日本と韓国における非正規雇用労働者の現状を紹介したい。

日本における非正規雇用労働者の割合は1984年の15.3%から2014年には37.4%まで大きく上昇しており、いまや労働者の3人に1人以上が非正規雇用労働者として働いている。

図 1 は、男女別非正規雇用労働者割合の推移を1984 年から 2014 年にかけてみたものである。

男性の非正規雇用労働者の割合は1984年の7.7%から2014年に21.8%に、女性のそれは同期間に29.0%から56.7%に上昇しており、 女性労働者の過半数が非正規雇用労働者として働いていることから、労働力の非正規化は女性において顕著であることが読み取れる。

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しかしながら、最近20年間における非正規雇用労働者の年平均増減率は、男性が3.7%で女性の2.3%より高く、最近の労働力の非正規化は女性よりも、男性を中心に進んでいることが分かる。

つまり、長引く景気低迷や経済のグローバル化により、長い間堅く守られてきた男性の「正規職」という壁が崩壊し始めたのである。

では、韓国はどうだろうか。図2は、韓国の非正規雇用労働者数と推移を2001年から2013年にかけてみたものである。

実際、韓国では政府側と労働組合側における非正規雇用労働者の定義(*1)が異なり、二つの数値が存在しているが、本稿では日本との比較のために政府側の数値を使うことにする。

韓国における非正規雇用労働者の割合は、2004年に37.0%でピークに達してから低下し続け、2014年現在32.4%まで低下している。

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図1と図2をみると、韓国では男性の非正規雇用労働者の割合が高く、男性と女性の間の差が日本より小さいことが読み取れる。

韓国では、1980 年代後半以降、 財閥企業をはじめとする大企業の男性正規労働者を中心に内部労働市場体制が形成されていたが、1997 年におきたIMF 経済危機によって、安定的な長期雇用と良好な労働条件を享受した男性正規労働者も整理解雇の対象となり、 臨時職・日雇い労働者などの非正規雇用労働者に置き換えられることになり、男女間の差が小さくなったのである。

最近、韓国における非正規雇用労働者の割合が低下している要因としては、韓国政府が2007年7月から施行している「非正規職保護法」の成果が挙げられる(*2)。

非正規雇用労働者の増加が急速にすすむなかで、韓国政府は、『期間制および短時間労働者保護等に関する法律(非正規雇用労働者関連法)』、『改正派遣勤労働者の保護等に関する法律(派遣法)』、『改正労働委員会法』などのいわゆる非正規職保護法を施行することで非正規職の正規職化をすすめ、非正規雇用労働者の増加による労働市場の二極化や雇用の不安定性を緩和しようとこころみた。

法律の目的は「雇用形態の多様化を認めて、期間制や短時間労働者の雇用期間を制限し、非正規職の乱用を抑制するとともに非正規職に対する不合理的な差別を是正する」ためであり、非正規雇用労働者が同一事業所で2年を超過して勤務すると、無期契約労働者として見なされることになる。

しかし、この法律の効果については疑問の声もある。つまり、企業は正規職の増加に対する負担を回避するために2年にならないうちに雇用契約を打ち切るケースが増加している。また、正規職の二極化も進んでいる。

つまり、非正規職保護法の適用を受けて非正規職から正規職に雇用形態が切り替わった労働者の中には、賃金などの処遇水準が非正規職として働いていた時と大きく変わらず、既存の正規職の賃金や処遇水準とは大きな差がある名ばかり正規職が発生するケースも現れた。

これに対して野党や労働組合は、非正規職保護法が労働者全体の地位向上にはあまり効果が出ていないとして非正規職保護法の中止や撤廃を要求している。

日本でも改正労働契約法が2013年4月1日から施行されることにより、有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申し込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるようになった。

一方、今後労働者派遣法改正案が施行されると、企業は3年ごとに人さえ入れ替えれば永続的に派遣社員を使い続けられる。このような労働関連法の改正は雇用の安定化、すなわち前者の場合は非正規職の正規化が、また後者の場合は派遣という勤労形態を望む人々に対しては働く場所が変わる不便を我慢すれば継続的に働く可能性があるというメリットがあるかも知れない。

しかし、韓国の例を見ると、これら施策の3年あるいは5年で雇止めが生ずる弊害や低所得の労働者層が固定化する恐れに繋がらないとは言えない。これら改正が今後日本企業の雇用戦略にどのような影響を与えるだろうか。韓国の事例からその結果が予測できるかも知れない。

(*1) 政府統計は、「経済活動人口調査」の付加調査から、①契約期間(無期か有期か)、②1日の勤務時間(フルタイムかパートか)、③契約関係(直接雇用か間接雇用かあるいは、個人事業主か)といった3つの基準に基づいて区分しており、短時間勤務をしており、3者 以上の雇用契約を結んでいる場合と、呼び出し労働、特殊労働、派遣労働、役務労働、家内労働に従事している場合は非正規雇用労働者として定義している(重複は除く)。

  これに対して労働組合の統計では、政府統計で非正規と区分される労働者に加えて、「経済活動人口調査」の本調査において、正規臨時職や正規日雇職として区分されている労働者も非正規雇用労働者に含んでいる。

  すなわち、政府統計が非正規雇用労働者を除いたすべての正規労働者を正規職として計算していることに比べて、労働組合は④賃金、労働条件、企業の福利厚生、公的社会保険制度が適用されているかどうか、⑤勤労場所に持続性があるかどうかによって、社会保険の適用がされず、勤務場所が頻繁に変わっている正規労働者も含めて非正規雇用労働者として定義している。

(*2) 非正規職保護法は2006年11月30日に国会の本会議で成立し、労働組合や野党の反対にもかかわらず、従業員数300人以上の事業所や公共機関を対象に2007年7月から施行された。その後は適用範囲が段階的に拡大され、2008年7月1日からは100人以上300人未満の企業が、2009年7月1日からは従業員数5人以上の企業が適用対象に入ることになった。

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(2015年8月5日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

生活研究部 准主任研究員