第5回【スタンフォード流、インテリジェントエイヤ!で日本企業とビジネスマンを強くする!】
前回第4回目のブログでは、世の中でいわれている「スピーディな意思決定」に疑問を呈し、戦略的マネジメントでは「スピードよりも質が重要」と言うメッセージをお届けしました。
今回のブログでは、ではなぜ戦略的マネジメントにおいて「意思決定力」が大事なのかについて、言い換えれば、そもそも「何故意思決定力が重要か、逆にそれが弱いから日本企業が勝てなくなってきているか」なのですが、順を追って説明したいと思います。
日本企業が弱くなった背景
よく言われるように、「作れば売れる」という高度成長期時代には、企業の競争力・顧客への訴求力は、ブルーカラーを中心とするオペレーションの磨き込みが鍵であり、そこではPDCAサイクルを高速・高効率で回す考え方とスキルが威力を発揮したわけです。
しかし高度成長期をはるかに過ぎた今日、オペレーショナルマネジメントの磨き込みだけでは全く不十分であり、ホワイトカラーを中心とする戦略的マネジメントが勝負を分けることになります。
ここまでは常識的に大半の日本企業にもビジネスマンにも理解されはじめているのですが、次の段階として、戦略的マネジメントの中核が意思決定にある、ということの認識が極めて弱く、それが日本企業が弱くなった背景なのです。
戦略的マネジメントの中核は意思決定:スローガンとチアリーディングの限界と弊害
ここ20年ほど、日本企業でも戦略的マネジメントの重要性が認識され、ビジネスマンの間でのロジカルシンキングや戦略思考の各種フレームワークの知識レベルは上がってきています。
しかし、これらを学べば自動的に戦略的マネジメントのレベルが上がってくる、と考えるのは大いなる勘違いです。
なぜなら、これらのアプローチやツールは所詮、情報を集め分析して洞察を抽出するところまでの道具に過ぎず、 そこから「で、どうするのか?」まで、しかも具体的経営資源配分とアクションまで落とし込むための意思決定に踏み込まないと、ただの「戦略もどき知的ゲーム」になってしまうのです。
経営者の真の仕事は意思決定に腕まくりで取り組むこと
アメリカ企業では、経営者は当然のこととして、意思決定に腕まくりで取り組むところまでリーダーシップを発揮するのですが、多くの日本企業のトップは、戦略もどき知的ゲームから出てくる戦略方向性としての「スローガン/キーワード」を提示し、あとは組織構造を変えたり業績評価システムをいじくって社員を鼓舞する「チアリーディング」にとどまっています。
結局、個別具体的な意思決定にトップが踏み込まないので、ミドルがスローガンの意図を汲み取った数値計画(というより、願望数値作りの鉛筆舐め作業)を、耳当たりの良い文言や流行りのキーワード(グローバリゼーション/ハードからソリューションへ/ブルーオーシャン/リスク無き所にイノベーションなし/スマイルカーブの上流・下流を目指す/ガバナンスとダイバーシティ、etc...)をちりばめて作成し、あとは既存の経営資源配分とやり方 を、多少手直ししておしまい。
肝心要の個別具体的な意思決定に踏み込まなければ、スローガンも願望数値も達成されるわけがありません。
スローガンとチアリーディングは、いわば、ゴルフのスイングで、テークバックとフォロースルーの形ばかりに気をとられ、肝心の、クラブヘッドでボールを如何に的確にとらえるか、をおろそかにしているようなものです。
もちろんトップマネジメントの発言・メッセージには、わかりやすさや聞く人たちに元気を与える、といった要素も必要なので、スローガンやチアリーディングの有効性を全て否定するわけではありません。
しかしそこで終わってしまって、肝心要の具体的意思決定に腕まくりで踏み込まないのでは、経営の名には値しません。
要は、個別の具体的意思決定に踏み込まない限り、スローガンとチアリーディングは、戦略的マネジメントの空洞化を招くのです。
以上、スローガン経営の弊害、逆にいえば、個別具体的意思決定への取り組み、そこでの意思決定の質を高める能力とそのための努力、即ち「意思決定力」を高めることの重要性についてお話ししました。
次回、最終回では、意思決定力について追加の解説を行い、その上で、意思決定力を高めるコツをご紹介したいと思います。
なお、これまでの記事と次回以降のテーマは以下の通りです。
第1回:その判断、単なる「エイヤ!」で決めていいんですか?(7/25公開)
第2回:ロジカル人生相談で悩みに取り組もう!(7/29公開)
第5回:「スローガン経営とチアリーディング」の限界と弊害(←本稿)
第6回:「英断」を期待するのではなく、「意思決定の質」を上げよう! 誰にでもできる6つのコツ
スタンフォード・マッキンゼーで学んできた熟断思考(Amazon.co.jpヘリンク)