2016年のアメリカ大統領選にロシアが介入した疑惑をめぐり、連邦捜査局(FBI)元長官のジェームズ・コミー氏が6月8日午前(日本時間8日夜)、上院・情報特別委員会の公聴会に出席した。
コミー氏は、ロシアとの関係をめぐって辞任したマイケル・フリン前大統領補佐官について、ドナルド・トランプ大統領から「この件は放っておいてほしい」などと言われたとし、これを「大統領からの(捜査中止の)指示だと受け止めた」と証言した。
またコミー氏は、トランプ氏との会話内容をメモに残していたことを認め、報道機関にリークするため友人と共有していたと明かした。
2016年の大統領選をめぐっては、ロシアがアメリカ側にサイバー攻撃を仕掛け、トランプ氏の対立候補だった民主党のヒラリー・クリントン氏に関する電子メールを流出させるなどして、トランプ氏の当選を後押しした疑いが持たれている。
トランプ氏陣営とロシアとの関係についてFBIが捜査していた5月上旬、コミー氏はトランプ大統領から突如、FBI長官の職を解かれた。
今回の公聴会では、トランプ氏がFBIの捜査に対して司法妨害(捜査妨害)をしたかどうかをめぐって、コミー氏が新たな証言をするかに注目が集まった。証言に先立ち、コミー氏はFBI長官在任中にトランプ大統領と交わした会話内容などを記した「コミー・メモ」に関する書類を同委員会に提出した。
証言1:解任理由は「明らかに虚偽だ」
トランプ政権はコミー氏の解任理由について、クリントン氏のメール問題に対する対応の不備を挙げている。これについてコミー氏は、「トランプ政権は、FBIが混乱しているなどとして、私とFBIを中傷した。これらは明らかに虚偽だ」と証言。解任理由を強く否定した。
証言2:「(捜査中止は)大統領からの指示だと受け止めた」
コミー氏は2月14日、ホワイトハウスの大統領執務室でトランプ氏と面会した際、ロシアとの関係をめぐって辞任したフリン前大統領補佐官について、トランプ氏から「彼はいい奴だ。この件は放っておいてほしい(let this go)」などと言われたという。
この発言についてコミー氏は公聴会で、「“いい奴だ”という点には応じた」が「独立した捜査機関としてのFBIの役割を考えると、強い懸念を感じた」という。その上で、トランプ氏の発言を「大統領からの(捜査中止の)指示だと受け止めた」と証言した。
このトランプ氏の発言が「司法妨害」にあたるかどうか、公聴会でコミー氏が見解を求められる場面があった。
──司法妨害とは何か?
米司法省の定義によると、司法妨害は、個人が進行中の捜査に「影響を与えるか、妨害するか、邪魔をする目的で不正に働きかける」行為。「不正に」の部分はとくに欠かせない要件だ。
(司法妨害って何? FBI前長官の議会証言の見どころ ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイトより 2017/06/08)
コミー氏は「非常に心を掻き乱されるものだった」とする一方、「司法妨害の試みだったかどうか、私が判断することではない」と述べるにとどめ、ロシア疑惑を捜査する特別検察官のロバート・ミュラー元FBI長官に判断をゆだねる考えを示した。
加えてコミー氏は、1月にトランプ氏から会食の席で「FBIの長官にとどまりたいか」と問われたことについて、「私がFBI長官にとどまることを認める代わりに、何かを得ようとしていた」と証言した。
トランプ氏からは「私が必要とし、期待しているのは、忠誠心だ」と言われたとした上で、「フリン氏とロシアとの関係に関する捜査から手を引くよう、大統領が要求しているのだと理解した」と述べた。
証言3:「トランプ氏との会話を記録したメモを、友人のコロンビア大学教授と共有した」
コミー氏は、トランプ氏との会話内容をメモ(通称:「コミー・メモ」)に残していた。公聴会での証言は、このメモに基づいている。コミー氏はFBI長官の職を解任されると、報道機関にリークするため、メモを「良き友人のコロンビア大学ロースクールの教授と共有した」と明かした。コミー氏は「(メモの内容を)外部に伝えることが非常に重要だと考えた」と述べた。
ワシントン・ポストなどによると、メモを共有した相手は元連邦検事でコロンビア大学教授のダニエル・リッチマン氏。その後メモは、ニューヨーク・タイムズのマイケル・シュミット記者にリークされたとみられる。シュミット記者は5月16日、「コミー・メモ」の存在とその内容について報じている。
メモを残した理由について、コミー氏は「トランプ氏が嘘をつくかもしれないと心配した。文書として残しておくことが大切だと考えた」とと語り、トランプ氏との会話を報道機関を通じて明らかにすることで、トランプ政権とロシアをめぐる疑惑の解明につなげたかったと主張した。
公聴会の模様は各メディアで生中継された
トランプ政権とロシアとの疑惑は、共和党のニクソン大統領をめぐる政治スキャンダル「ウォーターゲート事件」(1972〜74)になぞらえて「ロシア・ゲート」と呼ばれる。ウォーターゲート事件では、“ディープ・スロート”と呼ばれた情報提供者(フェルト元FBI副長官)が、ワシントン・ポスト紙のカール・バーンスタイン記者とボブ・ウッドワード記者に情報をリーク。1974年、ニクソン大統領は辞職に追い込まれた。
退任演説をするニクソン大統領(1974年)
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