サッカーの元日本代表DF・岩政大樹さん(36)が、自らレギュラー出演しているサッカー情報番組「スカサカ!ライブ」の人気コーナー「今まさに聞く」の書籍化に取り組んでいる。「日本にサッカーをもっと深く、様々な視点で語り合うことのできる土壌を作りたい」という思いを抱く岩政さんが、コーナーでインタビューしてきた名選手や名監督の思考をひもとく一冊だ。5月末の出版に向けてクラウドファンディングで支援を募っている。
岩政さんは東京学芸大卒業後、鹿島アントラーズなどで活躍。Jリーグベストイレブンに3度選ばれ、日本代表の経験もある名DFだ。タイのプレミアリーグ、J2ファジアーノ岡山を経て2017年から関東リーグ1部の東京ユナイテッドFCへ。現在は選手兼コーチとしてプレーを続ける一方、サッカー評論の場でも活動している。
「岡山を退団することになって、来年どうやって飯を食っていこうか、と思いました。歳が歳ですから引退することも視野に入りましたが、僕が引退して解説者やコーチになったとしても、『それで食っていきます』と言えるほどの経験はない。だったら選手をやっているうちに始めちゃえばいいじゃないか、と思ったんです。そもそも社会人リーグの人たちはサッカーをしながら仕事をしています。自分だけがやっちゃいけない理由はないはずで、総合的に考えると、僕の中ではこれが一番合理的に見えました」
「今まさに聞く」は岩政さんが毎週出演している「スカサカ!ライブ」で2017年5月に始まった。岩政さんが視聴者の興味や関心も考えながら、「今一番会いたい人に話を聞く」というコンセプトのコーナーだ。
過去の出演者には、森重真人(FC東京)、曺貴裁監督(湘南)、阿部勇樹(浦和)、イバン・パランコ・サンチアゴコーチ(東京V)、中村憲剛(川崎F)、中山雅史(沼津)、反町康治監督(松本)、興梠慎三(浦和)、内田篤人(当時:ウニオン・ベルリン)、名波浩監督(磐田)、高木琢也監督(V長崎)、昌子源(鹿島)ら、日本のサッカー界を牽引する錚々たる面々が並んでいる。
岩政さんは書籍化にあたり、これまでの収録をもう一度見直した。対談をただ文字に起こすのではなく、岩政さんの視点で気になったことや相手の思考、言葉のニュアンスなどを解釈し、文章にまとめたという。
「サッカーは得点が入る確率が低いですから、『いいこと』と『勝つこと』とはイコールでつながらないことが多い。すごく哲学的なスポーツだと思いますね。いいことをやって、それで『負けました』となったとき、じゃあ全部覆して違うことをするのか。大量失点して負けました、じゃあ守備を構築しましょう...って、それで解決するわけではないんですよ」
「みなさんどうしても正解を求めたがりますが、サッカーに正解や成功の秘訣なんてないんですよ。選手や監督は、現時点でよりよい判断が何かを考えているだけなんですよね。その『現時点』は刻一刻と変わる。場面場面で、『最適なバランスはこうじゃないか』ということを探りながらやっているんです。言葉にすると難しいですけど、成功している人はみんな同じで、バランス感覚みたいなものがそろっているんですよ。日本においてサッカーの歴史はまだ浅い。ピッチの現場でどういうことが起こっているか、少し正確に伝わっていない部分もあると思います。それを知った上で議論が始まらないと、サッカーそのものや選手の生き方、考え方がなかなか理解されないと思いますね」
正解がないものをどうすればいいか考える――こうした視点は、サッカー以外でも役に立ちそうだ。
「今の社会、仕事現場で上司に正解を言われて、そればっかりやっている人は、もう重宝されないと言われますよね。サッカーも同じで、『どうやったら監督が正解と言ってくれるか』ばかりを考えて、人に正解を求めたがる人は伸びていかない傾向がある。トップのプレーヤーや指導者たちは自分なりの正解を探って、それがうまくいかなかったら、そのとき自分を変える勇気も持ち合わせているし、自分のバランスを常に動かしていきます。今回取材した人たちは一流の選手、監督さんたち。もちろんサッカーが好きな人が選手や監督の思考、判断の仕方を知りたいと思って読んでも面白いでしょうし、もっと大局的に人生と重ね合わせて考えられる人であれば、参考になることも多いと思います」
書籍化のためのクラウドファンディングは5月7日まで。
巻末に名前を掲載したり、岩政さんのサッカー講座が受講できたりするなどのリターンが用意されている。詳細のアドレスは、https://a-port.asahi.com/projects/sukasaka_live/。(伊勢剛)