岩隈久志、故障者入リスト入りにも意義があった?

岩隈久志が帰ってきました。4月を丸ごと棒に振った形ですが、昨季の勤続疲労や今後を考えるとあながち無駄だったとは言えないかもしれません。
|

岩隈久志が帰ってきました。4月を丸ごと棒に振った形ですが、昨季の勤続疲労や今後を考えるとあながち無駄だったとは言えないかもしれません。

岩隈は現地5月3日(土)ヒューストンでのアストロズ戦に先発。6.2回81球を投げ、4失点ながら初勝利を挙げました。彼はスプリングトレーニング前のカリフォルニアでの自主トレーニング中に右手中指の腱を痛め、キャンプ全日程を欠場。4月27日の3Aでの調整登板を経ての、これが今季初登板でした。

冒頭、この欠場が「無駄ではなかった」と申し上げたのは、彼のここまでのキャリアを振り返ってのことです。岩隈はサイ・ヤング賞投票で3位に入る大活躍を見せた昨季、リーグ3位の219.2回を投げました。彼にとって、NPBでの11年間とMLBでの2年間を通じ3度目の200回到達でしたが、過去2年連続で200回以上を投げたことはありません。肩、ヒジ、背中と投手としての選手生命に影響を与えかねない重要な部位に故障の履歴があるからです。

昨季、マリナーズは岩隈の投球数管理に非常に慎重でした。あれだけ素晴らしい投球を披露しながら、33度の先発で100球以上投げさせたのは9度のみで、最多投球数も108でした。これは岩隈の故障歴を気遣ってのことでしょうが、私などはエリック・ウェッジ監督(当時)の早すぎる降板判断にもどかしさすら覚えたものです。実際、もう1人のエースのフェリックス・ヘルナンデス(2010年サイ・ヤング受賞)は昨季31先発で204.1回を投げましたが、100球以上は21度、うち110球以上も3度あります。

今季自身の開幕は1ケ月遅れてしまいましたが、これにより疲労の蓄積を避けることができたと肯定的に捉える事も出来ます。4月1ケ月分の投球回数40イニングを節約できたからです。これにより、5月以降きっちりローテーションを守ったとしても、今季の投球回数は170回程度、昨季との合計で約390回となります。これなら、連続した2年合計での過去最高の投球回数である08-09年の370.2回と、それほどの差はありません。そう考えれば、今回の故障もそれなりに意義があったのではないでしょうか。

もちろん、投手は投げてナンボですのでいたずらに投球回数を制限すればよいというものではありません。しかし、昨季のナ・リーグのサイ・ヤング賞投手のクレイトン・カーショウ(ドジャース)は、3月22日にシドニーでの開幕戦で投げた後、肩の円筋の痛みを訴え現在も故障者リストに入っています(5月6日あたり復帰と見られています)。これは過去4年連続200回以上で、3年連続227.2回以上、しかも昨季はポストシーズンも含めると259回も投げていることと無関係ではないかもしれません。実際、私もカーショウの今季唯一の登板をシドニーで観戦しましたが、6.2回1失点という結果はともかく、速球がめったに90マイルに届かない球威の無さに驚いたものです。

岩隈は12年のオフに2年1400万ドルの契約を結んでいます。13年と14年がそれぞれ650万ドルで、15年は700万ドルの球団オプションです。マリナーズがこれを行使せず岩隈をFAとする場合は、バイアウトとして100万ドルを支払う必要がありますが、昨季見せたパフォーマンスがコンスタントなものならまずこれを行使するでしょう。ということは、岩隈がその実力に見合った年俸(年平均2000万ドル?)を手できるのは2016年以降です。それまで自らの商品価値を維持するためにも、今回の故障者リスト入りは良い休息だったのではないでしょうか。

豊浦 彰太郎

1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小 学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:shotaro.toyora@facebook.com

【関連記事】