いわき共立病院の建て替え

いわき市の医療の迷走を象徴するのが、いわき市立総合磐城共立病院だ。病床数761、地域最大の病院である。この病院が抱える問題は医師不足だ。

「なぜ、いわきには研修医が来てくれないのでしょう」

いわき市関係者から相談を受けることが多い。私は「リーダーの問題です」と答えることにしている。

いわき市の医療の迷走を象徴するのが、いわき市立総合磐城共立病院(以下、共立病院)だ。病床数761、地域最大の病院である。

この病院が抱える問題は医師不足だ。ホームページには「医師の退職等によりこれまでの医療水準を維持することが極めて困難な診療科においては、診療体制を変更して診療しています。」と書かれ、整形外科以下、11の診療科の名が挙がっている。多くの医師が去っているようだ。

若手医師からの評価も低い。2015年度の研修医のマッチングでは、14人の応募に対し、2人しかマッチしなかった。

これは合計8人の募集枠がフルマッチした公立相馬病院、南相馬市立総合病院とは対照的だ。前出のいわき市関係者は「(医師が集まらない理由として)原発事故は言い訳にならない」という。なぜなら、放射性物質による汚染は、いわきより南相馬の方がはるかに深刻だからだ。

いわき市の人口1000人あたりの医師数は1.5人。全国平均(2.4人)は勿論、中国(1.7人)、コロンビア(1.8人)、チリ(1.9人)にも及ばない。

ところが、共立病院の一日の平均入院患者数は573人。病床稼動率は75%ということになる。潜在的な患者はいるのに、治療できていない。勿論、医師がいないからだ。なぜ、共立病院に医師がこないのだろう。

私は、市長をはじめとした病院経営者の問題だと思う。あえて医師を減らそうとしているとしか思えない悪手を打ち続けている。

最近、共立病院の存続を脅かす問題が持ち上がった。それは、病院の建て替えだ。いわき市は、14年2月に新病院基本設計を作成し、同年9月に公募によって事業者を選定した。18年12月の開院を目指し、既に工事が進んでいる。

問題は工費だ。いわき市は建設コストを402億円と見込んでいる。一床あたり5743万円。公立病院の平均3300万円、民間病院の平均1600万円を大きく上回る。実際は、医療機器のリース料やエネルギーサービスプロバイダーの初期コストとして、これに約40億円が上乗せされるという。

自治体病院なので、国や県からの補助金が出る。公認会計士でいわき市議である吉田みきと氏は「自治体病院の借入金の一定割合が、国から自治体に税金投入される」という。具体的には、病院債の毎年の元利償還金額の半額が、自治体の基準財政需要額に算入され、普通地方交付税の算定根拠となる。

ただ、多少補助金が出ようが、高額な病院を建てれば、維持費は高くなるし、減価償却も膨れる。病院は経営改善のために、コストカットせざるを得ない。人件費を切り詰め、将来投資を減らすことになる。

この状況は、年収500万円の若夫婦が億ションに住むようなものだ。頭金は親が出してくれても、共益費・維持費・修繕積立金は自らが支払わねばならない。生活は極貧となる。そんなところには、誰も行きたがらない。

医師が病院を選ぶ際に重視するのは、建物の壮麗さや目新しい医療機器があることではない。多くの症例を経験し、実力がつくことと、給与を含めた待遇だ。おそらく、このまま共立病院の建て替えが進めば、益々、医師は来なくなるだろう。

過剰投資は企業が倒産する最大の理由だ。医療も例外ではない。今からでも遅くはない。どうすれば、共立病院が「倒産」せずに済むか、情報公開を進め、市民目線で議論すべきである。

*本稿は「医療タイムス」での筆者の連載に加筆したものです。