サウジアラビアで2日、シーア派の聖職者ニムル師を含めて47人が処刑され、これにシーア派が国民の大多数を占めるイランが反発して、イランの首都テヘランでは暴徒化した人々がサウジアラビア大使館を襲撃し、イランのハメネイ最高指導書もサウジアラビアのニムル師処刑を強く批判した。これを受けてサウジアラビアは3日、イランとの国交を断交することを明らかにした。
2011年からアラブ世界を席巻した民主化要求運動「アラブの春」は、サウジアラビアの王政に強い危惧を与えたことは間違いないだろう。ニムル師は、東部に住むシーア派住民たちの権利拡大などを訴え、2012年に逮捕され、14年に死刑判決を受けていた。
サウジアラビアでは王室内部の確執もあり、昨年秋にはサルマン国王に対する宮廷革命を呼びかける文書も王族の間で出回り、その中にはムハンマド皇太子がサウジアラビアを政治的にも、経済的にも、軍事的にも破局に導いていると書かれてあった。昨年3月から続くイエメンでの空爆にも、地域の最も豊かな国がアラブで最も貧しい国をなぜ攻撃するのかと戦争の意義を疑問視する声は国内からも強く、ムハンマド皇太子が何の戦略もなく、出口への見通しもなく戦争に着手したという彼の向こう見ずなイエメン政策が批判されるようになっている。実際、サウジアラビアが「殲滅」を目指したイエメンのシーア派武装勢力のフーシ派は、1年近いサウジアラビアなどの空爆にもかかわらず首都のサナアから撤退することがない。
2014年から15年にかけての原油価格の低下によって、財政赤字は深刻となり、サウジアラビアは昨年10月までのわずか6か月間で700億円の不動産を処分しなければならなかった。原油収入はサウジアラビアの国家収入の77%から88%を占めるが、サウジアラビアは2030年までに人口増加によって石油の輸入国にもなろうとしている。電力への政府補助金(国民に提供する予算)はサウジのGDPの20%を占めるが、財政が苦しくなるにしたがって食品、住宅、水など他の消費財への補助金も減額せざるをえず、国民の王政に対する不満が募ることは必至だ。サウジアラビアの人口構成は、30歳以下が全人口の3分の2を占め、失業率は30%という見積もりもあり、国民の25%は貧困ライン以下の生活を送る。
昨年9月に発生したメッカ巡礼での将棋倒し事故では800人近くが犠牲になり、聖地の守護者としての資質も疑われるようになった。この事故で500人近くのイラン人が犠牲になり、サウジアラビア政府の救出への対応が迅速でなかったことも、少なからぬイラン人たちのサウジへの不信となっている。
サウジアラビアでの大量の処刑、イランとの確執は、サウジ王政の抱える矛盾を国民に覆い隠し、サルマン国王、ムハンマド皇太子など王室の中枢にいる為政者たちの失政から他の王族たちの目をそらす意図をもっていると言われても仕方がない。
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