日本語を入力するために本格的に親指シフトのキーボードを使い始めてから、もう30年以上になる。その間、時に腱鞘炎のような症状に悩まされたこともあったが、それほど深刻な状態にもならずに切り抜けてきた。異変が起こったのは、数年前に iPadを使うようになってからである。
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日本語を入力するために本格的に親指シフトのキーボードを使い始めてから、もう30年以上になる。その間、時に腱鞘炎のような症状に悩まされたこともあったが、それほど深刻な状態にもならずに切り抜けてきた。

異変が起こったのは、数年前に iPadを使うようになってからである。最初のうちは快適に使っていたのだが、そのうちにiPadの重さに肩が耐え切れなくなってしまった。昔経験した五十肩の痛みに似た痛みに、常時悩まされるようになったのだ。

Googleで検索してみると、この症状には「iPad肩」という名前までついていることが分かった。だから苦しんでいるのは私だけではないはずだが、それを知ったからといって痛みが楽になるわけではない。さらに、加齢のせいだと思うが、「キーボードフィンガー」や「マウスフィンガー」の痛みまで、それに加わってきた。デスクトップで 10分もマウスを操作するとたちまち指がむくんでこわばって、指の関節が痛み出す。

とりわけ人差し指の関節がひどい。頻繁に揉みほぐしてやらないと作業が続けられなくなってしまった。友人の勧めでマウスの代わりにトラックボールをしばらく使ってみたが、これもほとんど気休めにしかならない。やっぱり指がやられてしまう。トラックボールの場合は、人差し指の代わりに親指がやられてしまうのである。

そこで、いろいろと対策を講じてみた。まず、デバイスの方はiPad miniに変更し、文字の入力はできる限り音声に頼ることにした。Miniは、最初のうちは解像度の低さが耐えがたかったが、これはすぐに気にならなくなった。

音声入力は、技術進歩がまさに日進月歩でなされているだけでなく、慣れるにつれてますます快適に使えるようになる。初期の音声入力アプリがほとんど使い物にならなかったことを思うと、夢のようである。という次第で、今の私は、書物のほとんどは音声入力に頼る一方、読書中にも、キーボードを使って抜き書きをする代わりに、ボイスメモをさっと作り、読むのが一段落したところで、それを聞きながら音声入力で文字にすることにしている。

これは、当初は結構有力かなと思ったがボイスメモを入れたiphoneを音声入力用のマイクに押し付けてみても、変換の精度はあまり高くない。という事で、そのうちにこの方式はやめてしまった。

他方、タブレットをiPad miniに変更した効果は一時的で、やはりiPad肩に悩まされる。これでも結構重いのである。これに対する当面の対策は、書籍や論文を自炊したPDFはなるべくデスクトップで、Kindle storeで購入した電子書籍はなるべくiPhoneやキンドル(ペーパーホワイト)で、読むというものだ。

これである程度うまくいくと喜んでいたら、今度は液晶画面に頻繁にタッチし過ぎるために、指先が焼けるように痛み始めた。この症状は「タブレットフィンガー」とでも名付けることができそうだ。それやこれやで悩みは尽きない。

そこへ今度は、格段に軽くて薄くなった第三世代のiPadと、ついにレティナ・ディスプレイを採用した第二世代のiPad miniが発売された。いろいろ思い悩んだあげく、新しいiPad miniに取り替えることにした。ところがこれは失敗だった。前のiPadの時と違って、解像度が上がった効果はほとんど感じ取れない。それに僅かだがより重くなっている。この僅かな差が、iPad肩には結構ひびくのである。

ところが我慢して2か月ほど使い続けていると、いつの間にかiPad肩もキーボードフィンガーもほとんど消えてしまった。どうやらこれはデスクトップでの音声入力に頼る比重をますます大きくしたことが原因らしい。若い時とは違うので、まさか肩や指が酷使に耐えて強くなったからだとは思えない。

やはり使う頻度の問題だろう。ともかく痛みがなくなったのはいいことだと喜んで、せっせと書き物を続けていたら、今度は目の疲れと、机から立ち上がった時の下肢の神経痛に悩まされ始めた。一時間ごとに立ち上がって目を休め、ついでに運動でもすればいいのだがそれがなかなかできない。老化のせいで、思考や動作が鈍くなっていて、ふと気がつくとすぐ三、四時間経っているのである。いやはや悩みは尽きない。