投信購入者の半数が損失!!~銀行での投信販売について:基礎研レター

投信購入者の約半数が損失を出している?

1――投信購入者の約半数が損失を出している?

金融庁から、かなり衝撃的なデータが公表されました。銀行(主要行など9行、地域銀行20行)が対象の調査結果で、投資信託を購入した顧客の半数弱が2018年3月末時点で損失を抱えていることが明らかになったデータです【図表1】。このデータは日本経済新聞の5日の朝刊で「投信で損失、個人の半数」という見出しで大々的に取り上げられました。

金融庁から公表された【図表1】以外の資料には、平均保有期間と運用損失率が0%以上の顧客割合の分布もありました。その分布から平均保有期間が約3年を下回っている銀行ほど、損失を出している顧客の割合が大きいことが読み取れます。そのことから、損失を出している顧客の多くが、投資期間が3年以下であると推察されます。

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2――米国REITの低迷が影響したのでは

日本経済新聞では、損失を抱えている顧客が多かった要因として、過度な分配金や短期売買など、商品性の問題点や銀行での販売姿勢を挙げていました。しかし、筆者はそれ以上に「投資期間が3年以下」がポイントになったと考えています。

過去3年(2015年4月から2018年3月)までの資金流入が大きかった投信をみると、米国REIT投信が人気であったことが分かります【図表2:赤太字】。人気であった米国REIT投信3本への資金流入は、3年間合計で1.2兆円に迫っています。この数値は銀行での販売に限った金額ではありませんが、銀行窓販でも米国REIT投信は売れ筋商品であったと推察されます。

米国REIT投信の過去3年の収益率は、▲10%前後でした。この期間、米国では金利上昇局面で米国REITには厳しい投資環境であったためです。この米REITの低迷が、銀行の投信顧客にとってマイナスになったと考えられます。

また、米国REIT以外にもヘッジ付外国債券投信や価格変動が小さいバランス型投信が人気でした。上位のうち5本がそれにあたります【図表2:青太字】。

2016年に日銀がマイナス金利政策を実施してから、普通預金はおろか定期預金や個人向け国債、国内債券投資でも厳しい運用環境が続いています。そのため、株式などと比べて元本割れするリスクが小さい投信のニーズが、預金代替や国内債券代替として高まっていました。

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5本の投信の過去3年(設定が2015年4月以降の場合は、設定来)の収益率は▲1%から6%となっています。【図表1】の運用損益率は販売手数料を引いた後の数値です。

5本のうち「SMBC・アムンディ プロテクト&スイッチファンド」以外は販売手数料(上限が1.62%から3.24%)が必要な投信です。投資タイミングによっては、収益率はプラスでも投資期間が短かったため、販売手数料を回収できず損益がマイナスになっていた可能性があります。

また、販売手数料がかからない「SMBC・アムンディ プロテクト&スイッチファンド」でも設定来の収益率自体がマイナスでした。

3――短期の損失に一喜一憂しない

金融庁の資料は、運用成績の開示強化を求める一環として公表されたものであり、運用成績の開示強化自体はいいことです。ただその一方で、投資家はあまり短期の運用成績を気にするべきではないと考えています。短期の運用成績だとその時々の運用環境の影響を受けてしまうため、正確に投信の実力は測ることができないためです。

たとえば、米国REIT投信は2015年4月から2018年3月まではマイナスでしたが、設定来の収益率を見ると100%を超えている、つまり倍以上になった投信もあり、投資家の資産形成に貢献してきたといえます。

また、2018年4月から6月にかけて米国REITが急反発しており、この3カ月は10%を超える収益を上げました。2018年3月末には米国REITで含み損を抱えていた顧客の中には、足元の急反発を受けて、6月末時点では含み損が解消していることも考えられます。

【図表1】で、運用損失が「▲10%以上、0%未満」の顧客35%の多くが、損切りしていなければ6月末時点では「0%以上、+10%未満」になっている可能性があります。

(ご注意)当資料のデータは信頼ある情報源から入手、加工したものですが、その正確性と完全性を保証するものではありません。当資料の内容について、将来見解を変更することもあります。当資料は情報提供が目的であり、投資信託の勧誘するものではありません。

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(2018年7月9日「基礎研レター」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

金融研究部 准主任研究員