【ネット選挙解禁後初の衆議院選挙】
2013年4月19日の改正公職選挙法によって、インターネット選挙運動が解禁されてから1年半余り。その間に参議院議員選挙や地方選挙でのネット選挙の実績を経て、その特徴や効果が分析されるようになりました。
今回ネット選挙解禁後初めてとなる衆議院選挙を前に、衆議院選挙におけるネット選挙の重要性を考えてみたいと思います。
衆議院選挙の特徴
現在の衆議院選挙は「小選挙区比例代表並立制」が採用されています。有権者は同時に行われる「小選挙区選挙」と「比例代表選挙」に1票ずつ投票できます。また立候補者は、政党に所属している場合、この2つの選挙に「重複立候補」することができます。
小選挙区では最多得票の候補者1名のみが当選します。比例代表では政党の得票数に応じた議席数(当選人数)に対して、政党名簿の順位に従って当選が割り当てられます。順位が決まっていない場合は、「小選挙区選挙」での「惜敗率※」で順位が決められます。
(※惜敗率――当選者の得票数に対する落選者の得票数の割合。どこまで競り合って負けたかの割合。)
つまり小選挙区での惜敗率の高い候補者は、たとえ小選挙区で落選しても比例代表で「復活当選」することができます。先行する陣営は票差を広げて相手陣営の復活当選を抑え、追い上げ陣営は1票でも票差を詰めて惜敗率を上げて復活当選を目指します。
このように衆議院選挙では、比例復活があることによって1票の価値が相対的に大きくなり、どの陣営も最後の最後まで得票数を伸ばすための激しい選挙運動を展開するという特徴があります。
従来の選挙運動
選挙運動についてのルールを定める「公職選挙法」は、「べからず法」とも言われるほど厳しい制限のある法律です。これまでの衆議院選挙では、候補者は主に次の選挙運動しかできませんでした。
「文書図画による選挙運動」
・頒布:葉書3万5千枚、ビラ7万枚
・掲示:選挙ポスター、個人演説会告知用ポスター
・掲載:新聞広告5回、選挙公報1回
「言論による選挙運動」
・街頭演説
・個人演説会
・選挙運動用自動車(選挙カー)
候補者からすると、選挙カーで移動して個人演説会とスポット演説を繰り返し、周囲の人々にビラを配るくらいのことしかできません。有権者にしても、候補者に直接会って話を聞く以外に詳細な情報を知る術がありませんでした。そうした中でネット選挙運動が解禁されました。
これより候補者や政党は選挙期間中でもウェブサイト、ブログ、フェイスブックやツィッターなどを活用して、選挙運動の詳細(いつ、どこで、誰が、どんなことをする(した)のか)をリアルタイムで発信できるようになり、有権者との双方向のコミュニケーションも可能となりました。選挙が接戦になればなるほど、1票の価値が大きくなり、ネット選挙はその1票に影響する重要な手段だといえるでしょう。
ネット選挙の重要性
そこで有権者がネットの情報をどれくらい見ているのか、NHKの世論調査から考えてみましょう。初めてネット選挙が行われた2013年の参議院選挙後の調査によると、「今度の参議院選挙で候補者や政党に関する情報を得るために、あなたは、次のメディアをどの程度利用しましたか」の問いに対し「インターネット」と答えた人の割合は「よく利用した 5.4%」、「ある程度利用した 15.0%」となっています。
つまり約20%近い人たちがネットで情報を参考にしたということになります。これは例えば、1小選挙区の有権者数を35万人、投票率60%と仮定した場合、約4万人がネットの情報を参考にしたということであり、仮にそのうちの半数がネットの情報を元に投票行動を決めたと考えると、約2万票がネットで動いたということになります。これは無視できない数です。
もちろん依然として多くの人がテレビや新聞メディアから情報をキャッチしている現状においては、ネット上での選挙運動だけで、選挙全体の流れを大きく変える力にはならないでしょう。しかし衆議院選挙における比例復活当選を掛けた接戦になれば、ネット選挙は貴重な1票の行方に影響を与える重要な選挙運動として、当落を左右することも十分にあり得ると言えます。
■資料■
有権者が参議院選挙時に参考にしたメディアは?
NHK 第23回参院選に関するインターネット調査 集計結果