滝口:サイボウズっておもしろい会社ですよね。いろいろ研究してみたいんですよ。
藤村:じゃあ、社会人インターンとしてサイボウズに潜入して、サイボウズを分析、調査してみてはどうです?
滝口:え、いいんですか。では、ぜひ!
世間で「いい会社」と言われることもあるサイボウズ。しかし、それは本当なのでしょうか? そもそも「いい会社」ってどんな会社?
普段さまざまな企業の分析をしている組織コンサルタントの滝口健史が、サイボウズに社会人インターンシップとして参加。2017年5月から10月までの間で、9つの会議に参加、20人の社員にインタビューをして、「本当にいい会社なのか」を調査してみました。その結果について、サイボウズ式編集長の藤村とディスカッションします。
「サイボウズに潜入して、本当にいい会社なのかを見極めてみませんか」
藤村:数カ月にわたる社会人インターン、お疲れ様でした!
滝口:藤村さんから「サイボウズで社会人インターンをしてみませんか?」と言われたときは驚きましたが、やってみてよかったです。
藤村:滝口さんは、サイボウズ式とダイヤモンド社の企画「ハーバード・ビジネス・レビュー読者と考える『働きたくなる会社』とは」に参加したんですよね。
滝口:はい。まさかその縁で、サイボウズに潜入調査をすることになるとは......。
藤村:実際に潜入して、数カ月間サイボウズを見ていただいた結果、「いい会社」でしたか?
滝口:結論から言うと「理想的な普通の会社」でした。
藤村:「理想的な普通の会社」......?
サイボウズは合理的な運営だが、創造性は発揮できていない? そもそも「いい会社」とは
滝口:では、その結論を出した調査について説明します。わたしが普段企業を分析する際に使っているのが、「組織の進化モデル」というフレームです。
滝口:このフレームは、会社がどういうレベルにあるかを、目指している姿や組織の構造、コミュニケーションの特徴などから明らかにするもので、インタビューやアンケート結果を参考に診断しています。
潜入前のわたしの見立てでは、サイボウズは「合理的組織」以上のレベルにはあるだろうとは思っていました。仕事においては本質的に必要なことを効率よく進め、会社としては社員を大事にしている印象があったためです。
藤村:ふむふむ。
滝口:一方で、新しいものを生み出す「創造性」をどれほど発揮できているのかが、気になっていました。調査して得た情報を整理した図がこれです。
滝口:サイボウズはここ10年くらいで、「チームワークあふれる社会」のビジョンを達成するために、戦略を実行し、制度を整えてきました。大事にすべき風土作りも徹底されています。
この実態から、合理的組織として好循環になっていると感じました。
藤村:まずは「合理的」という点は予想通りですね。
滝口:はい。そして「創造性」については、サイボウズのメンバーの全員が大きな事業提案や戦略づくりに長けているという感じではないのかもしれないと思いました。
そういうことをリードできる人がいつつ、そのほかのいい意味で「普通の人」がまじめに形にしていっている感じかなと。
藤村:ああ、そうかもしれません。
滝口:大きくなっていく企業としては、とても参考になる事例だと思います。ただ、各所のリーダーによる牽引型ではなく、対話型で創造することはまだできる余地がまだまだ残されているのではないかとも思います。
自分の担当する仕事をきっちりやりつつ、それぞれの仕事の中で創造性を発揮している人が多いのかなと思いました。
イメージと違う? サイボウズの組織構造はフラットではなく、ヒエラルキー
滝口:ここからは、潜入してみて意外だったことをお話しようと思います。
それは、サイボウズの組織構造がヒエラルキー(階層型)組織だったことです。なんとなく、階層のないフラットな組織で、おのおのが自由にやっているイメージがありました。
藤村:働きやすい会社というイメージが、その印象を持たせているのかもしれません。
滝口:たしかに。そしてサイボウズでは、ヒエラルキー構造は若干アレンジされていました。
通常のヒエラルキー構造では、縦割り組織として仕事が進み、指示は上から下へと降りることが多いです。
ですが、サイボウズでは、グループウェアの開発やマーケティングは、開発やマーケティングを超えた部署、すなわちチームで取り組むことが多いと感じました。
藤村:「人材育成や評価」は部署といった縦のライン、「グループウェアの開発やマーケティング」は部署を超えた横のラインで実行されています。
滝口:その縦横のラインを示したのがこちらです。
滝口:階層型の組織の中で、日々の仕事上の問題を解決する場合は、開発PM(開発の責任者)と販売PM(営業・マーケティングの責任者)がすり合わせながら結論を出しているとお聞きしました。この独特な組織構造が「サイボウズらしさ」を作っていますね。
もし、ほかの企業のヒエラルキー構造と同じように事業部制や製品別の縦のラインだけで問題を解決しようとする場合は、上位から統制する面が強くなるはずです。
藤村:サイボウズは、横のラインの調整機能を働かせることで、運営が独裁にならないようにしているんです。
サイボウズの上司は、直属の部下を超えて現場に口出しをしない
滝口:その点では、サイボウズの上司って、直属の部下を超えて現場に口出しをしないことが多いと感じました。これがちゃんとできている企業って、意外と少ないんですよ。
藤村:そうですね。社長の青野も、指揮系統を飛び越えて現場に指示を出すことはないです。
滝口:サイボウズでは、より上役の位置にいる方ほど「自分の役割は、組織の方向性を示すことやメンバーのキャスティングである」と明確に認識しているように感じました。
藤村:ほかの企業では違うんですか?
滝口:上役が直属の部下を飛び越えて、直接指示を出すことで、現場の混乱につながっている例も結構ありますね。
藤村:そういうことが起こり続けると、飛び越えられた中間管理職は、自分の持っている権限や責任がどこまでなのかあいまいになってしまいますよね......。
滝口:サイボウズの場合は縦のラインがしっかりありつつ、一方向的な指示ではなく、双方向的なやりとりの機会を作っているので、部下から上司に相談しやすくていいなと感じました。
インターンにこんなことまで見せていいの? 驚きの情報共有度
滝口:潜入して驚いたのが、サイボウズの情報共有度の高さです。
藤村:自社のグループウェア「kintone」や「Garoon」ではあらゆる情報が共有されていて、全社情報のほとんどにアクセスできますね。
滝口:「各チームのプロジェクトや経営に関する情報など、こんな情報も見させてもらえるのか」と思うくらい、インターンのわたしもかなりアクセス可能な状態でした。
この情報共有度の高さは、サイボウズが大事にしている「公明正大」という考え方に基づくものですよね。
藤村:はい。その例として、社長の青野はよく「アホはいいけど、ウソはダメ」と言っています。
滝口:なんですか、それは。
藤村:例えば、二度寝して遅刻するときには、それをごまかさずに共有しようという考え方ですね。嘘をつかないで公明正大を貫くと、チームメンバーから、二度寝しない方法をアドバイスされたりするんですよ。
滝口:正直に報告すれば、失敗を責められるのではなく、改善するためのヒントを得られるということですね。
藤村:はい。
滝口:サイボウズでは公明正大さを担保することで自浄作用がはたらくので、他社のような隠蔽や不祥事は起こりにくいでしょうね。
もう1つおもしろいと思ったのが「質問責任」です。「説明責任」という言葉は耳にしますが、「質問責任」はサイボウズで初めて聞きました。
藤村:情報を受け取るだけではなく、誰にでも質問する責任があるという考え方です。何か問題や疑問があれば、自分から質問をして、説明をしてもらって、その問題にかかわらなければいけません。
滝口:おかしいと感じたことがあれば問い直して、よい状態にしていく参画者としての義務があるということですね。
潜入調査したコンサルタントはどう感じた? サイボウズの現状
藤村:ここまでの分析をまとめると、サイボウズってどんな会社でしょうか?
滝口:こんな感じです。
統制と自由のバランス
統一的な目的・ビジョンに邁進しています。意外と統制的な要素もありますが、自由でいいところは自由にしてあり、個人や部署ごとのやり方に任されています。結果的にはバランスが良く、社員の人たちも「仕事の中で自分の色を出せる」と肯定的に受け止めているようです。
「自己革新力」がある
公明正大が重視され、グループウェアを使って事実を表に出す習慣があります。議論の中では目的(ビジョンや理想の姿)が問われます。問題があっても自浄作用が働くので、自ら解決する「自己革新力」がある組織です。
滝口:サイボウズは、目指している姿に対して、組織の運営、必要な人材の整合性が取れていると感じました。
藤村:冒頭で滝口さんがおっしゃった「サイボウズは理想的な普通の会社」という点はどうですか?
滝口:それはですね......。
(つづきます)
執筆:滝口健史 撮影:橋本美花 編集:田島里奈/ノオト 企画:藤村能光