医療保険制度には全ての国民が加入しなければならないのか?:基礎研レター 

加入義務があるのは何故か。
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Nikada via Getty Images

1―医療保険制度(*1)とは

1|医療保険制度とは 

医療保険制度とは、皆さんが病気やケガ等で病院や診療所等の医療機関で治療を受けた場合に、その費用の全額又は一部を保険者(*2)が負担してくれる制度です。この制度があるために、我々が万が一の時に、病院や診療所等で通常は安い自己負担で必要な治療を受けることができることになっています。

ただし、こうした給付を受けるためには、相互扶助の精神の下に、制度の加入者は必要な保険料を負担しなければなりません。

2|医療保険制度は大きくは2本立てで構成されている 

日本の医療保険制度は、大きくは「被用者保険」と「地域保険」という2本立てて構成されています。ただし、2本立てとはいっても、歴史的な経緯もあり、10の保険制度、3000を超える保険者から構成され、多数の制度や保険者が存在する複雑な制度となっています。

また、「国民皆保険」ということで、国民の誰もが、いつでも、またどこでも、必要な時に必要な治療を受けることができる制度となっています。

3|医療保険制度は、民間医療保険とは異なる特徴を有している

医療保険制度は、社会保険の1つを構成しています。社会保険は、民間の保険会社等が提供している保険とは異なり、基本的には以下の特徴を有しています。

① 任意加入ではなく、強制加入である。

② 加入資格がある人は、その人がどのような健康状態にあっても、加入が認められる。即ち、保険者は、危険選択ができない。

③ 加入者の性・年齢・健康状態等のリスクの状況に関わらずに平均保険料を適用する。

④ 給付内容は画一(法定給付)

⑤ 財源には、加入者の支払う保険料だけでなく、税金を財源とする公費が使用される。

(*1) 「医療制度・ヘルスケア早分かり」では、「医療保険制度」といった場合、特に断わりのない限り、日本における公的な医療保険制度のことを指し、そのうちの健康保険法が定める企業の従業員等を対象にした被用者保険について、「健康保険」と呼ぶこととしています。

(*2) 保険者とは、医療保険制度の運営者として、医療保険事業を自己の事業として行い、自己の計算において保険料を徴収して、保険給付を行い、その他事業に付随する業務を行うものをいいます。

2―医療保険制度への加入義務はどうなっているのか

1|国民全員に対して加入義務がある

「国民皆保険」ということで、生活保護の受給者などの一部を除く日本国内に住所を有する全国民、および1年以上の在留資格がある日本の外国人は何らかの形で公的な医療保険制度に加入することが義務付けられています。

生活保護者については、医療扶助制度から、原則として現物支給(投薬、処置、手術、入院等の直接給付)が行われる形になっています(*3)。

2|それでは国民はどの医療保険制度に加入したらよいのか

これについては、法令に定められており、年齢・職業・扶養関係を要件にして、どの医療保険制度が適用され、どの保険者に属するのかが決定されます。一旦、本人の選択等により、職業や扶養関係が定まれば、本人の意思に関係なく、当該本人が加入する医療保険制度や保険者が決定されることになります(*4)。

具体的には、基本的には以下のルールに従って、本人が加入すべき医療保険制度及び保険者が決定されます。

1.75歳未満の被用者及びその扶養者は、その使用される事業者に適用される被用者保険に加入する。

2.被用者保険の中で、大企業等の健康保険組合がある適用事業所に使用される者は当該健康保険組合に加入し、公務員、私立学校教職員、船員はそれぞれに適用される共済組合又は船員保険に加入し、それ以外の被用者は協会けんぽに加入する。

3.75歳以上の者は、居住している都道府県広域連合の後期高齢者医療制度に加入する(*5)。

4.以上の各制度の対象にならない者は居住している市区町村の国民健康保険又は国民健康保険組合の国民健康保険に加入する。

3|加入義務があるのは何故か

それでは、なぜ1-3①で述べたように、強制加入ということで、国民に対する加入義務があるのでしょうか。

もちろん、「国民皆保険」制度ということで、国民の誰もが、いつでも、またどこでも、必要な時に必要な治療を受けることができるように、無保険者がいない状況を作り出すためには、国民全員が何らかの医療保険制度に加入することを義務付けることが望まれるということがあります。

ただし、一方で、1-3で述べた公的な医療保険制度の特徴の②に大きく関係しています。

もし加入資格のある人に加入の選択権を与えてしまうと、健康状態の良くない人は加入インセンティブが高いが、健康状態が良い人は加入インセンティブが働かないという、いわゆる加入者による「逆選択」が働く状況になってしまいます。

さらには、健康状態が悪くなった時にだけ、加入するということもできることになってしまいます。こうしたことでは、医療保険制度を健全に運営することができなくなってしまいます。

従って、健康状態等に関わらず全員が加入することを認めるかわりに、健康状態等に関わらず全員に加入を義務付ける制度となっています。

現在健康な人もいつ何時、思わぬ事故や病気で医療機関にお世話になることも考えられます。こうした万が一の時に備えるためにも、国民全員が何らかの医療保険制度に加入しておくことを義務付けておくことが大変重要なことであると考えられます。

なお、全ての加入対象者に加入義務を課すことで、加入に伴う選択を行う必要がなくなり、また加入者数の増加も図られることから、スケールメリットが働き、事務コスト負担の軽減が図られるというメリットも期待できることになります。

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(*3) 加入義務を課すことで、保険料負担義務が発生することになりますが、保険料負担能力のない人に対しては、例えば、生活保護者の場合のように、保険制度の枠から外して医療扶助という別の公助の枠組みで対応したり、さらには医療保険制度という共助の枠組みの中で保険料を減免したりすることで対応しています。

(*4) ただし、被用者保険における任意継続被保険者制度及び国民健康保険組合への加入については、本人の選択権があります。

(*5) 後期高齢者医療広域連合が認定した65歳以上の障害者も対象となります。

3―従業員やその家族はどの医療保険制度に加入することになるのか

ここでは、いわゆるパートやアルバイト等の非正規雇用の社員の取扱いを含めて、企業の従業員やその家族がその就業状況等に応じて、具体的にどの医療保険制度に加入することになるのかについて説明します。

非正規雇用の社員等が、自分が勤める企業等の健康保険の加入義務者なのか、あるいはそうではなくて、自らが居住する地域の地域保険に加入しなければならないのかは、大変関心の高い事柄です。

健康保険法では、健康保険の被保険者は、「適用事業所に使用される者及び任意継続被保険者(*6)」と定められています(*7)。その具体的内容は、以下の通りとなっています。

1|まずは勤めている企業等から判断される-健康保険の適用事業所か否か-

まずは、自分の勤めている企業等が「適用事業所」か否かが重要になってきます。

適用事業所は、法律によって加入が義務付けられている「強制適用事業所」と、任意で加入する「任意適用事業所」の2種類があります。その具体的要件は以下の通りです。

強制適用事業所」とは、①国、地方公共団体または法人の事業所であって、常時従業員を使用するもの、②国、地方公共団体または法人でない事業所で、強制適用事業を行っている常時5人以上の従業員を使用するもの。強制適用事業所の従業員は、事業主や従業員の意思に関係なく、健康保険への加入が義務付けられる。

強制適用事業」の範囲は、健康保険法第3条第3項第1号に規定(*8)されており、逐次拡大されてきている、現在でも、農林業、水産業、畜産業、料理飲食業、自由業等は適用対象となっていない。

 「任意適用事業所」は、強制適用事業所とならない事業所で、厚生労働大臣の認可を受けて健康保険の適用となる事業所のこと。従業員の半数以上が適用事業所となることに同意し、事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受けることで適用事業所になることができる。この場合、従業員全員が加入することになる。

(*6) 退職後の任意継続被保険者制度については、別途の基礎研レターで詳しく説明します。

(*7) 臨時に使用される者(日々雇い入れられる者や2月以内の期間を定めて使用される者)、季節的業務に使用される者、臨時的事業の事業所に使用される者、後期高齢者医療の被保険者(75歳以上の者)、船員保険の被保険者等は、対象外となります。

(*8) 製造業、土木建築業、鉱業、電気ガス事業、運送業、清掃業、物品販売業、金融保険業、保管賃貸業、媒介周旋業、集金案内広告業、教育研究調査業、医療保険業、通信報道業など

2|パート等の短時間労働者等の取扱はどうなるのか

 次に、健康保険法が定める「使用される者」の意味するところが問題になってきます。

「使用される者」については、「常用的使用関係にある者」と解され、基本的には、通常の労働者の4分の3以上、概ね週30時間程度以上働く者が対象となっています。ただし、2016年10月以降、以下のような改定が行われ、その対象が拡大されてきています。

2016年10月から、被保険者数501人以上の企業の従業員で、1週間(1月間)の労働時間が同一の事業所に使用される通常の労働者の1週間(1月間)の所定労働時間の4分の3未満であるもののうち、①1週間の所定労働時間が20時間以上であること、②当該事業所に継続して1年以上使用されることが見込まれること、③標準報酬月額が8万8000円以上であること、④学生等でないこと、の条件を全て満たす方は、健康保険の被保険者となることになった。

さらに、2017年4月からは、被保険者数500人以下の企業の従業員でも、加入について労使合意が取れた場合には加入対象になった。

このように、パートやアルバイト等の非正規雇用の社員については、その労働時間や報酬水準等に基づいて、健康保険への加入義務要件が定められています。

3|臨時的な雇用関係者でも健康保険に加入するケースがある

臨時に使用される者(日々雇い入れられる者や2月以内の期間を定めて使用される者)、季節的業務に使用される者、臨時的事業の事業所に使用される者は、基本的には健康保険に加入しません。ただし、ケースによっては加入する場合もあり、具体的には以下のように取り扱われます。

日々雇い入れられる者について、1ヶ月を超えて引き続き使用される場合には、その時から加入

臨時に使用される者で、2ヶ月以内の期間を定めて使用される者が、2ヶ月以内の所定の期間を超えて引き続き使用される場合には、その時から加入

③ 酒造の醸造、製茶等の季節的業務に従事する者が、継続して4ヶ月を超えて使用される場合には当初から加入

④ 博覧会等の臨時的事業の事業所に使用される者については、継続して6ヶ月を超えて使用される場合は当初から加入

⑤ サーカスや地方巡業を行う劇団等の各種の興行等を行う所在地が一定しない事業所に使用される者は、例外なく加入対象外

4|被保険者の被扶養者の取扱はどうなるのか

被保険者の被扶養者は、被保険者と同じ医療保険制度に加入することになります。

ここで、「被保険者の被扶養者」とは、以下の通りです。

① 被保険者の直系尊属、配偶者(事実婚を含む)、子、孫及び兄弟姉妹であって、主としてその被保険者により生計を維持するもの

② 被保険者の三親等以内の親族で同一の世帯に属し、主としてその被保険者により生計を維持するもの

③被保険者の事実婚の配偶者の父母または子であって、同一の世帯に属し主としてその被保険者により生計を維持するもの(当該配偶者の死亡後引き継ぐ場合も含む)、のいずれかに該当するもの

ここで、「主としてその被保険者により生計を維持するもの」とは、被保険者の収入により、その人の暮らしが成り立っていることをいい、必ずしも被保険者と一緒に生活をしていなくてもよい。

なお、75歳に達した者は、後期高齢者医療制度の被保険者となるため、健康保険法の被扶養者にはなりません。

以上、医療保険制度の加入については、国民の義務として、自らが加入すべき制度を十分に認識しておくことが大事です。これにより、保険料の負担等の義務も発生してきますが、国民としての責務をしっかり果たすことで、万が一の時の保障を適切に受けることができるようにしておくことが大変重要なことです。

関連レポート

(2018年3月1日「基礎研レター」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

取締役 保険研究部 研究理事