知らないでは済まされない福島第一原子力発電所 「民間としての視察を終えて」

2015年2月16日、福島県内で起業されている方々、復興事業に取り組む方々といった、民間の方々をお連れして、福島第一原子力発電所を視察しました。
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2015年2月16日、福島県内で起業されている方々、復興事業に取り組む方々といった、民間の方々をお連れして、福島第一原子力発電所を視察しました。

視察者全員が民間人としての立場で視察を行うことは、震災後初の取り組みになります。その取り組みについての詳細は「【3.11】「福島第一原発の本当の状況、地元にも伝わっていない住民目線の視察とは」 」にて語られていますのでご参照ください。

今視察の発端は、これまで視察を行ってきた団体、企業の中で情報が留まってしまったが故に、福島県で起きている情報被害を起因とする風評被害を改善するためのものでした。

例えば、県外から訪れた方は心の中にある疑問「福島第一原子力発電所はどうなっているのだろう」を福島県内の方に問いかけます。その時「よく知らない、分からない」といった答えをされた時、疑問を投げかけた方はどう思うか、時にそれは不安の増幅に繋がり、実害として残ります。

発電所の状況説明責任は東京電力にあるものですが、放射能汚染という問題を抱えた社会に暮らす福島県の方々は、本人が望む望まないは別として説明義務を社会から求められている状況です。

■伝わっていない現実

福島第一原発の状況は、震災当時に比べ激変しています。事故当時、どうにか冷却水を入れることだけを模索していました。それも水素爆発を起こした中でです。

現在は安定して冷却出来る環境に変り、再臨界を防げる状況に改善しました。それと同時に廃炉に取り組むにあたり、現場環境改善に力が入れられ、現在では放射線防護を必要としないエリアも拡大しつつあります。

大型休憩施設も建設が進み、昨年11月からは女性の職員も働ける環境へと変りました。

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写るのは帰りのバスを待つ作業員の方々)

事故当時の状況と比較することで伝わってくるのは、現状は作り上げられたイメージを超える状況にあるということです。

この事実は福島県で暮らし生きていく方々、そして避難生活を送られる方々にとっては希望と言えます。

私達が今回視察で目撃したのは「希望への歩み」です。これらは福島県内に暮らしていても伝わらない現実でした。

バス車内から視察を行うのであれば、サージカルマスク、靴カバー、綿手袋といった簡易な防護措置で問題ない状況。自身がそれを実感された参加された方々が皆口を揃えたのは「ここまで改善されているとは思わなかった」という言葉です。

建屋が露出し、放射能が大気中へ飛散されているとはいえ、発電所内で軽微でいられることは、その影響は構内においても限定されている事実があります。

構内視察におよそ1時間ほどになりましたが、参加者の被曝線量は積算で10マイクロシーベルトでした。この数値自体も短時間の滞在であれば問題がないほど改善されている事実と言えます。

■同時に将来への不安も

整然と整理された現場環境は、時に大丈夫だといった安心感を受けます。ですがそれが錯覚であることに気づきます。

毎日300トンに上る地下水は、一部は汚染され海に流れでている状況。増え続ける汚染水は、貯留するために1000トン容量タンクを2日に1基作り貯め続けている状況。凍土壁対策により地下水を減らす対策を行っているが、汚染水その物を減らすことが出来ていない。

4号機の燃料取り出しは安全に全数終わったが、1~3号機の燃料デブリ取り出しについては、技術革新がないと対応できない。

1~3号機については高線量により、人が作業できる環境になく、遠隔での重機操作やロボットでの除染、状況確認が遅々として進んでいる状況。

毎日、およそ8000人に渡る作業員、社員の方々の労働環境は依然厳しく、大型休憩施設が完成するまでは温かい食事を取ることも出来ない、夏の暑さ冬の寒さに対して抜本的対策が行えない(ほぼ全ての作業が屋外作業であるため)、人身事故も絶てない状況、これらは地域産業として根付きつつある「廃炉産業」への不安となっている。

発電所構内で対策を打たれた設備が構築されつつも、トラブルを伝えるニュースは後を絶ちません。

抱えている問題は現時点において、明確な抜本的解決策が確立されてはいません。40年という途方もない年月も先行きを暗くします。そして廃炉が長期化することは確定しており、起きている様々な問題について、福島県で生きる私達は共存していかなくてはなりません。

■視察の意義と課題

原発事故の影響は県内で収まらず、将来へと続く問題です。私達は将来に渡り「事故が起きた原子力発電所」と共存していかなくてはなりません。その共存の中で、ただ福島県というくくりの中に「ある」とだけ捉えることは問題です。遅々であるとしても、抜本的解決策が今は見出せなくても、様々な現状は良い状態へと変化していきます。

その変化を捉えることは、現在の情報共有環境(TV、SNS、新聞)などでは補完されていません。自らが知ることが出来る視察というものは、その変化を正しく捉える意味で意義があります。その変化は現場で働く方々のご苦労や努力を知ることにも繋がります。

しかし視察自体への課題もあります。今回の視察でも東京電力並びに協力企業の方々へ格別の配慮を頂きました。それは視察者が「絶対に危険な状況にならない」配慮です。視察中、作業は場所によっては中断され、案内役として視察者20人に対し5名の東京電力担当者の方が付きました。要人案内の体を成すものです。視察自体が現場に対しインパクトを与えるものでした。

現場は整然とし放射線量も落ち着いたとはいえ、いまだ構内は視察者を安易に受け入れる環境にはありませんでした。それ故に民間、一般の方を自由(ただ見てみたい方といった方も入れる)に受け入れることは困難と言わざる得ません。

視察者にある程度の事が求められます。見学ではなく視察として伺う気構えを持っていただく、視察したことを有益に使っていただく、それらを調整できることが出来、かつ東京電力と建設的に調整が出来ること(視察に際しての制限)等です。

■民間と東京電力が繋がることの必要性

震災から5年目を迎える現在においても、民間と東京電力を繋ぐ場所はありません。東京電力の広報から仕入れた情報を二次情報として伝える手段しかない状況です。

その困難さに拍車をかけているのは、民間と東京電力との間に出来た溝です。この溝は言うまでもなく原発事故により生み出されました。

今も続く「被害者」と「加害者」といった関係性が、情報を伝える側(東京電力)と情報を受け取りたい側(民間)とのすれ違いを生んでいます。

この福島県を今よりも良い状態にしていく、目指していくという点においては現在両者ともアプローチの仕方は違っても、ベクトルは同じ方向に向いていると言えます。言い換えれば「同じ目的意識を持った仲間」であると言えます。

二次情報に頼り情報が一部になってしまうのであれば、東京電力と手を繋ぎ、一次情報を民間が得られるようになることが、現在も続く情報被害にはどめをかけることになると言えます。

今回の視察のおいて、お連れした一般の方々が発電所に対する意識が大きく変ったことは喜ばしいことでした。しかしそれと共に得たのは大きな危機感です。

福島県内の方でさえ、これまで「事実を知っていなかった、得ることが出来なかった」が実感したことは、これからの大きな課題と言えます。

今後、現在の避難区域は縮小の一途をたどります。距離的なことでも「福島第一原子力発電所」身近な存在となる方々が増えていきます。

原発事故からの本当の復興を目指していくためには、民間に福島第一原発を知り共存していく場を作っていく必要性があると言えます。

視察の詳細、廃炉取り組みに関する詳細資料などはAppreciate FUKUSHIMA WorkersのWebサイトに掲載しております。合わせてご覧になってください。