「9・11テロはホワイトハウスの仕業」「ボストンマラソン爆弾テロはFBIが計画」など、荒唐無稽なフェイクニュースの発信源として知られ、「ネット陰謀論の王」とも呼ばれるネット右派のアレックス・ジョーンズ氏が6日、ついにツイッターからもアカウントを永久停止(凍結)された。
By Jelger (CC BY 2.0)
フェイスクニュースを拡散する過激な発言と合わせて、「男性ホルモン増進」をうたうサプリメントなどのネット販売で年間2000万ドル以上の売り上げを得ていたジョーンズ氏。
そのヘイトスピーチがメディアなどで指摘され、フェイスブックやユーチューブなどが相次いでページ削除やアカウント停止を実施。残った大手ソーシャルメディアが、ツイッターだった。
ジョーンズ氏はトランプ大統領の支持者としても知られ、米大統領選期間中には、ジョーンズ氏のサイト「インフォウオーズ」にトランプ氏が出演もしていた。
ソーシャルメディアによる相次ぐジョーンズ氏の排除に、トランプ氏は「ソーシャルメディア対共和党/保守派」との構図で批判。
その緊張が高まる中、5日には連邦議会の「ロシア疑惑」とフェイクニュース対策をめぐる公聴会に、ツイッターCEOのジャック・ドーシー氏が出席した。
ドーシー氏は公聴会で、「保守派言論へのバイアス」批判を受けながら、フェイクニュース排除への取り組みをアピール。その翌日に、ジョーンズ氏のアカウント永久停止の発表となった。
米中間選挙を前に、「ネット陰謀論の王」の扱いに注目が集まっている。
●ツイッターによる永久停止
本日、@realalexjonesと@infowarsを、ツイッターとペリスコープから永久凍結しました。この処置は昨日投稿されたツイートと動画に関する新たな報告によるものです。これらは、2つのアカウントによるこれまでのポリシー違反に加えて、罵倒行為禁止のポリシーに違反しています。
Today, we permanently suspended @realalexjones and @infowars from Twitter and Periscope. We took this action based on new reports of Tweets and videos posted yesterday that violate our abusive behavior policy, in addition to the accounts' past violations. https://t.co/gckzUAV8GL
— Twitter Safety (@TwitterSafety) 2018年9月6日
ツイッターは6日午後、公式アカウントで、ジョーンズ氏と同氏が運営するサイト「インフォウオーズ」のアカウントを永久停止した、と発表した。
ジョーンズ氏のアカウントのフォロワーは89万8000人、「インフォウオーズ」のフォロワーは43万1000人。
ジョーンズ氏は、この停止で合わせて130万人を超すユーザーへのリーチを失った。
ツイッターによるアカウント永久停止で、ジョーンズ氏は主だったソーシャルメディアからほぼ排除されたことになる。
●「ネット陰謀論の王」
アレックス・ジョーンズ氏は、荒唐無稽な陰謀論をネットやラジオで拡散することで知られる右派のラジオパーソナリティーで、「ネット陰謀論の王」などとも呼ばれる。
ジョーンズ氏は自身が運営するサイト「インフォウオーズ」で、「9.11の米同時多発テロはホワイトハウスの仕業だった」といった主張や、2012年にコネチカット州で起きた「サンディフック小学校銃乱射事件は捏造だった」、「ボストンマラソン爆弾テロはFBIが計画」といった主張を繰り返している。
米大統領選後の2016年12月に、首都ワシントンのピザ店が児童虐待の地下組織の拠点だとする陰謀論「ピザゲート」を信じた男性が、同店に押し入り、自動小銃を発射するという事件が起きている。
4年の刑に服しているこの男性が、犯行前に見ていたのが、「インフォウオーズ」の「ピザゲート」に関する動画だった。
ジョーンズ氏は、その陰謀論をめぐって、「サンディフック小学校銃乱射事件」の被害者らによる訴訟も起こされている。
ジョーンズ氏は、陰謀論の拡散によって信奉者を集め、サプリメントなどのネット販売につなげている。
「インフォウオーズ」にはオンラインストアのコーナーがあり、「男性ホルモン増進」をうたうサプリメント「スーパー・メイル・バイタリティ」(定価69.95ドル)や、「認知機能をスーパーチャージ」するサプリメント「ブレイン・フォース・プラス」(定価39.95ドル)などを販売。
ニューヨーク・タイムズによれば、これらサプリメント販売などで、年間2000万ドル(22億円)を超す売り上げがある、という。
●フェイスブック、ユーチューブの相次ぐ停止
ジョーンズ氏への相次ぐ排除への先駆けとなったのは、アップルが8月6日、ジョーンズ氏のポッドキャストを「ヘイトスピーチ」だとして、アイチューンズとポッドキャストアプリから削除したことだった。
アップルはヘイトスピーチを容認しない。(中略)ガイドラインに違反したポッドキャストはディレクトリーから削除され、検索不能となり、ダウンロードやストリーミングができなくなります。
また、スポティファイも同日、ジョーンズ氏のポッドキャストを削除。声明でこう述べる。
スポティファイが禁じるコンテンツのポリシー違反が繰り返し行われたことにより、「アレックス・ジョーンズ・ショー」はスポティファイのプラットフォームへのアクセスを失いました。
これに続いて同日、フェイスブックもジョーンズ氏と「インフォウオーズ」のあわせて4つのフェイスブックページを削除したことを発表する。
フェイスブックはリリースの中で、こう述べている。
審査の結果、暴力賛美については露骨な暴力表現禁止のポリシーに違反し、トランスジェンダー、イスラム教徒、移民の人々に対して、非人間的な表現を使ったことについては、ヘイトスピーチ禁止のポリシーに違反しているため、削除しました。
さらに、ユーチューブも同日、ジョーンズ氏のチャンネルを削除している。
同チャンネルは240万人という巨大なユーザーを抱えていた。
ユーチューブは削除について、声明でこう説明している。
ユーザーが、ヘイトスピーチやハラスメントに関するポリシー違反、あるいは強制措置逃れを禁じている利用規約違反などを繰り返した場合、我々はアカウントを停止することになります。
●コンテンツ規制の可否判断の重圧
2016年の米大統領選で、フェイクニュース拡散の舞台となったフェイスブック、グーグル、ツイッターなどの各社は、今年11月の米中間選挙を控え、その排除対策への重圧が高まっている。
フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏は7月、「リコード」共同創設者、カーラ・スウィッシャー氏によるインタビューの中で、なぜ「インフォウオーズ」を削除しないのか、と問われ、ナチスによるユダヤ人大量虐殺「ホロコースト」を例に挙げて、こう述べた。
ホロコーストが起きたことを否定する人々のグループも存在する。私にとってそれは極めて不快なことだ。だが結局のところ、私たちのプラットフォームがその主張を削除すべきだとは思えないのだ。人々が思い違いをしている、ということもあるのだから。
これが「ホロコースト」否定論者擁護ととられ、ザッカーバーグ氏は大きな批判を浴びる。
フェイスブックは7月末、この騒動の中で、アレックス・ジョーンズ氏の個人アカウントの30日間停止措置を取る。そして、上記のように8月6日、フェイスブックページの削除に至る。
その一方で、コンテンツの掲載可否の判断に踏み込むことでの批判もまた、強い。
フェイスブックは8月末、NPO「アンネ・フランク・センター」が掲載したホロコーストの教育に関する投稿に、当時の裸の子どもたちの写真が含まれていたことが、「コミュニティスタンダード違反」だとして削除。批判を浴びて、謝罪する騒動があった。
フェイスブックは2016年にも、ピュリツアー賞を受賞したベトナム戦争の報道写真「ナパーム弾の少女」を、「裸」を理由に削除し、国際的な批判を浴びた経緯もある。
●残ったツイッター
8月6日のアップル、スポティファイ、フェイスブック、ユーチューブの相次ぐアカウント停止を受けて、アレックス・ジョーンズ氏は「インフォウオーズ」のネット放送で、こう述べたという。
迫害を受けるほど、私は強くなる。(アカウント停止は)逆効果だ。
だがニューヨーク・タイムズの調査によると、実態はそうはいかなかったようだ。
8月6日の相次ぐアカウント停止以前の3週間で、「インフォウオーズ」への訪問数や動画の視聴数は1日平均140万件。それが、アカウント停止後の3週間では71万5000件とほぼ半減していた、という。
そしてこのアカウント停止に、ツイッターは同調しなかった。
8月7日、ツイッターCEOのジャック・ドーシー氏は、その理由を投稿でこう説明している。
我々は昨日、アレックス・ジョーンズとインフォウオーズのアカウントを停止しなかった。それが多くの人々にとって受け入れがたいことだとわかっているが、その理由はシンプルだ:彼は我々のルールに違反していないからだ。
そのツイッターも翌週の14日、いったんジョーンズ氏の個人アカウントを停止する。
ただ、これは7日間限定の措置だ。過去のツイートはそのまま表示され、ジョーンズ氏による新規の投稿のみが停止されるというものだった。
アカウント停止の理由は、ジョーンズ氏が投稿した「メディアに対し、戦闘用ライフルの準備を」との内容が、暴力扇動を禁じたツイッターのポリシーに違反したため、という。
だが、期限を過ぎると、ジョーンズ氏のアカウントは復活した。
●トランプ氏の攻撃と議会公聴会
この動きの中で、トランプ大統領がツイッターで、批判の火の手を上げる。
8月18日付けのツイートで、トランプ氏はこう述べた。
ソーシャルメディアは共和党/保守派の意見を完全に差別している。トランプ政権について声を大にしてはっきり言っておくが、我々はそんなことはしない。彼らは右派の多くの人々の意見を閉鎖し、だが同時に、その他の意見に関して何もしない......
Social Media is totally discriminating against Republican/Conservative voices. Speaking loudly and clearly for the Trump Administration, we won't let that happen. They are closing down the opinions of many people on the RIGHT, while at the same time doing nothing to others.......
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) 2018年8月18日
ジョーンズ氏は大統領選でトランプを熱心に支持。2015年12月には、まだ候補者だったトランプ氏のインタビュー動画が「インフォウオーズ」で公開されている。
トランプ氏は、「ソーシャルメディア対共和党/保守派」の構図を掲げ、ソーシャルメディア攻撃を強めていく。
そして、9月5日午前に上院情報特別委員会、午後には下院エネルギー商業委員会の公聴会が開かれる。
上院情報特別委員会にはツイッターのドーシー氏、フェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグ氏が出席、アルファベットCEOのラリー・ペイジ氏は欠席。そして下院エネルギー商業委員会にはドーシー氏のみが出席した。
公聴会の傍聴席には、アレックス・ジョーンズ氏本人も姿を見せ、議会内でのマルコ・ルビオ上院議員へのメディアのインタビューに介入する騒動も起こしていたようだ。
この日の公聴会では、上院は「ロシア疑惑」がメインだったものの、下院では共和党議員から「保守派への差別」に関する質問が相次ぎ、それを民主党議員がさらに批判するといった政治色の強いものだった、という。
ドーシー氏は、「ツイッター上の扱いに差別はない」と述べるにとどまったようだ。
その下院公聴会開始から24時間後、ツイッターはアレックス・ジョーンズ氏のアカウントの永久停止を発表する。
●ソーシャルメディアと政治
フェイスブックのザッカーバーグ氏も、ツイッターのドーシー氏も、当初はアレックス・ジョーンズ氏の問題に慎重な姿勢を表明していた。
それが「表現の自由」をめぐる問題であることに加え、特にメディアとしての立ち位置を嫌うIT企業として、そこへ踏み込むことによる経営上のコストも意識していただろう。
それが、状況に押されるような形で、フェイスブックはページの削除、ツイッターはアカウント永久停止にいたっている。
一方では、トランプ大統領と共和党による「保守派差別」とのソーシャルメディア批判が高まる。
米中間選挙に向けて、「ネット陰謀論の王」の扱いをめぐって、かなり混沌とした状況が広がっているように見える。
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■新刊『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』(朝日新書)
(2018年9月8日「新聞紙学的」より転載)