インドネシアの煙害(ヘイズ)問題、乾季に多発する泥炭火災について

野焼きをなくすことも重要ですが、背景にあるプランテーションの造成も忘れてはいけません。

東南アジアのスマトラ島やボルネオ島で多発し、今や国際的な問題となっている泥炭地での森林火災。実は、地球の陸地面積のわずか3%にすぎない泥炭地には、世界中の森林を合わせたよりも多くの炭素が貯えられています。2018年も5月ごろに始まった乾季とともに火災が再度各地で頻発しました。なぜ泥炭地での火災が止まらなかったのか。現地の状況をご報告します。

紙、パーム油...グローバルな需要を支える生産の現場で

東南アジアのスマトラ島やボルネオ島には、かつて手つかずの美しい熱帯林が広がり、オランウータンや、スマトラトラ、スマトラサイ、またアジアゾウなど、多様性豊かな野生生物の命をはぐくんできました。

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しかし、スマトラ島の森林面積は過去30年間で半減。ボルネオ島も森の3分の1が失われ、多くの野生生物が絶滅危惧種として指定されています。

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森林減少の主な原因は、プランテーションの開発です。 紙の原料となるパルプを生産するため、熱帯林を伐り払って植林したアカシアやユーカリのプランテーションが、またはパーム油(植物油)を生産するためのアブラヤシのプランテーションへの土地の転換などが、その主因として指摘されています。 そして、こうしたプランテーションで生産される、紙製品やパーム油(植物油)は、日本をはじめ世界中に輸出されています。

熱帯林を農地などの他の用途で使おうとする場合、木を伐採するだけでなく、「野焼き」も行なわれています。 野焼きは、法律で禁止されていますが、安価に手ばやく土地を整地できることから、乾季になると各地で放火が相次ぎ、大きな問題となってきました。

この野焼きにおいて、特に問題視されているのが、泥炭地の森を焼き払う際に生じる火災です。 泥炭地とは、枯死した植物が水中で炭化し、蓄積した地層のことで、他の土壌よりも多くの炭素を含んでいます。 この泥炭地は、地球の陸地面積のわずか3%(約400万km2)にしか分布していませんが、全土壌に含まれる炭素の約3分の1が蓄積されているといわれています。

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こうした泥炭地は、多くが樹木に覆われ、熱帯の森の一角をなしていますが、土中の水分が多く、湿地のような環境であるため、プランテーションへの転換には向かない場所でした。 しかし、スマトラなどの島々では、平地での熱帯林の伐採と消失が進むにつれ、泥炭地を覆う森も開発されてきました。

【図解】森林・泥炭火災が起こり、煙害(ヘイズ)を引き起こすまでの過程

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1 材木の切り出しや、農地の開墾のために、人が湿地林に入り込み、排水路が掘られる。

2 排水にともなって地下水位が下がり、湿地林が乾燥する。

3 水に浸っていた泥炭が空気に触れることで、泥炭の分解が進む。

4 分解と同時に二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスが放出される。

5 開墾のための火入れや、失火によって、乾季に火災が発生する。

6 地上部にある樹木だけでなく、地中の泥炭も燃える。

7 火災により、さらに大量の温室効果ガスが放出される。

8 粒子状物質も放出され、煙害を引き起こす。

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困難な消火活動と「煙害」の問題

こうした泥炭地への放火が、各地で違法に繰り返されるのは、雨が少なく、火が燃えやすい乾季(5月~10月)です。

各地域でピークとなる時期は少しずつ異なりますが、乾季の消火活動は、雨が降らない分、困難を極めます。

火災現場へのアクセスが容易ではないため、発見が遅れたり、見つかっても現場で消火するための十分な水が不足するケースがあります。

泥炭火災の消火は、ホースを直接地面に差し入れ、水を入れる形で行なわれたりしますが、泥炭層の厚さは少なくとも50cm、最大では20メートルにも及ぶことがあり、地中での完全に消火は容易ではありません。

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地中の火が消火しきれず、くすぶり続けている場合、晴れた風の強い日などに、予想もしないような場所から火が突然地表に現れ、火災が再発生することもあります。

こうした火災によってもたらされる、有害な物質を含んだ大量の煙霧は、排気ガスなどと交じり、周辺の市街、時に隣国にまで、深刻な「煙害(ヘイズ)」を引き起こします。 この煙に含まれるのは、CO2だけではありません。

他にも、二酸化硫黄、二酸化窒素、PM2.5などの有害物質も、放出されます。 煙害は、大気を汚染し、呼吸器障害などを引き起こすのみならず、視界を低下させ、飛行機や自動車などの利用を著しく制限してしまうなど、経済損失にもつながっています。

また、煙は大気の流れに乗り、海を越えた隣国にも害を及ぼしていることから、国際的にも問題となってきました。

消費国の企業による責任と取り組み

この問題を解消するためには、火災発生の直接の原因である野焼きをなくすことが、何よりも重要ですが、その背景にあるプランテーションの造成も忘れてはならない事実です。

野焼きはアブラヤシ農園を手掛ける人たちが、自ら火入れをする場合もあれば、パーム油を扱う企業が地域の貧しい人たちを雇い、森に火入れをさせる例もあります。 リアウ州では実際に、パーム油企業がこうした行為を理由に、州の高等裁判所から有罪判決を受けています。

インドネシアの環境林業省も、こうした犯罪に関与している518社に対して、現在行政処分を課していますが、これだけでは問題は解決できません。

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何より大きな力となるのは、パーム油や紙を購入し、輸入している消費国の企業と、それを利用している消費者たちの姿勢です。 日本でも企業が取り扱うパーム油や紙について、生産にあたりこうした火災や煙害、森林破壊に関与していないか確認するために、各社が「責任ある調達方針」を策定・運用することが求められています。

これは、環境破壊に寄与する形での原料や製品の輸入、それを使ったビジネス等をしないことを、社の姿勢として明かにするものです。 また企業だけでなく、紙やパーム油の入った製品を購入し、毎日の生活で利用している一般の消費者も、製品の原材料がどこで生産され、その現場で何が起きているのか、関心を持つと共に、その情報の開示を企業に対して求めることが重要です。

環境に配慮した製品が見つからない場合は、メーカーに対し、そうした「持続可能な形で生産された製品が買いたい」とリクエストすることで、企業活動を変えていく、一助となすことができます。

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WWFではこれまで、環境や社会に配慮して生産された製品を認証する、FSC®やRSPOの認証製品を推進してきました。 FSCでは紙製品や木材製品に、またRSPOではパーム油を含む製品に、それぞれが持続可能に生産されたことを証明するラベルが付されます。

信頼のできる国際的な認証を使い、消費者が自らの目で確認することで、煙害の発生する国々から遠く離れた消費国からも、森林の保全と地球温暖化の防止、そして、そこにすむ野生生物の保全に貢献することができるのです。

WWFは、今後もインドネシアの現場で森林と絶滅危惧種の保全に取り組むと同時に、日本の企業や消費者に対して、環境に配慮して生産された原材料の購買と調達を行なうよう、働きかけていきます。

【参考情報】「煙害」による例年の被害状況など、詳細はこちら