小規模農家によるパーム油生産の改善支援活動

パーム油の生産に伴い失われていくインドネシアの熱帯林
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This photo taken on August 6, 2017 shows a worker from the Leuser Conservation Forum or Forum Konservasi Leuser (FKL) replanting tree saplings as oil palm trees are seen in the background in the Aceh Tamiang area of Aceh province.FKL members cleared some 400 hectares of illegal palm oil trees within the Leuser Ecosystem area, home to endangered wildlife such as orangutans, Sumatran tigers and elephants. / AFP PHOTO / CHAIDEER MAHYUDDIN (Photo credit should read CHAIDEER MAHYUDDIN/AFP/Getty Images)
AFP Contributor via Getty Images

日常生活の中でさまざまな形で利用されているパーム油。その生産のためのアブラヤシ農園の開発が今、インドネシアの熱帯林を急激に減少させる大きな原因の一つになっています。この問題を解決するため、WWFは現在、熱帯林環境の保全と、地域の暮らしや産業を両立させる「持続可能」なパーム油の生産に取り組んでいます。2018年7月には新たに、ボルネオ島の西カリマンタンで、小規模な農家と協力した取り組みが始まります。インドネシアで起きている問題の現状、そして現地での森林保全に向けた最新の動きをご紹介します。

パーム油の生産に伴い失われていくインドネシアの熱帯林

世界でも最大規模の熱帯林を有するインドネシア。 トラやゾウ、オランウータンといった絶滅危惧種が多く生息するインドネシアの天然の森は現在、急速に失われつつあります。 森林減少の最大の要因の一つが、「パーム油」の生産のためのアブラヤシ農園の開発。農園を作るために、多くの森林が切り開かれ、そこに生きる多くの野生生物の命が失われているのです。 このパーム油は、食品・化粧品・洗剤など、さまざまな形で身近に利用されています。多くの製品の原材料として「植物油」「植物油脂」「ショートニング」といった名称で使われているのは、実はこのパーム油。 その生産をめぐり、遠く離れたインドネシアで起きている森林破壊は、日本の暮らしと切っても切り離せない問題なのです。

必要とされる小規模農家によるパーム油生産の改善

パーム油の生産は、企業や小規模な農家によって実施されており、その双方において、農園の新規開発による森林の減少が指摘されています。 この問題を解決していくために、WWFではRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)の取り組みを推進し、環境や社会に配慮したパーム油の生産と利用を目指してきました。 これは、森林破壊のみならず、同様に地域で問題になっている労働安全衛生、さらには人権の侵害といった課題の解決にも貢献するものです。 しかし、これらの取り組みは地域や参加する主体によって、進展にばらつきがあります。 大手のパーム油生産企業では、比較的RSPOの取り組みが進みつつある一方、インドネシア全体の生産量の約3割を占める小規模農家による生産に関しては取り組みが遅れているのです。 遅れの大きな要因の一つは、多くの小規模農家が、農法やRSPOの認証、また環境などへの配慮について、十分な情報や、対応のための資金を持っていないこと。 例えば、適切な農薬や肥料の利用法を知らないために収穫量が減ると、不足を補うために安易な農園開発を行ない、さらなる森林減少に繋がるといった事態が生じます。現地では、こうした負の連鎖が止められていません。 しかしこの問題を小規模農家だけで、独自に改善していくことは難しく、NGO(民間団体)や政府機関、企業などの支援が必要とされています。

地域の小規模農家と取り組むWWFの活動

インドネシアではWWFも、地域の小規模農家への支援と協力を通じて、問題の解決に取り組んできました。 その一例が、スマトラ島リアウ州のクアンシン県で、約80世帯の小規模農家に対して行なってきた取り組みです。 この活動では、農家の人々に森を守ることの大切さを知ってもらうレクチャーや、農薬の使用法や記録の付け方、資料管理などの適切な農園管理の方法に関するトレーニング、小規模農家組合設立の支援などを実施。環境配慮型の農法を実現する後押しを行ないました。 こうした取り組みを通して十分な知識と情報を得たこの地域の農家関係者グループは、2019年にはRSPO認証を取得できる見込みです。

広がっていく小規模農家支援の取り組み

WWFでは今、スマトラ島のいくつかの地域で成功してきた一連の取り組みを、限られた地域だけで終わらせずに、より多くの地域に広げていく計画を進めています。 この計画では、スマトラ島の隣に浮かぶボルネオ島に活動を拡大。 2018年7月にスタートする新たなプロジェクトでは、特にその活動の予定地域として、ボルネオ島西カリマンタン州のメラウィ県をフィールドに選びました。

ここは、ブキ・バカ・ブキ・ラヤ国立公園をはじめとした山間地域に残された天然の森が広がる地域。しかしそのそばまで、小規模農家によるアブラヤシ農園が拡大しつつあります。また、メラウィ県ではそれぞれの小規模農家がどこにどの程度の土地を所有し、どのような方法でアブラヤシを栽培しているのか、といった基礎的な情報も整備されておらず、これまで適切な支援が行き届いていませんでした。

この現状を改善し、これ以上の農園の拡大と森林減少を防ぎながら、小規模農家が収入を得られるように、森林保全と暮らしの両立を実現するためには、WWFだけでなく地元の政府機関などとも連携した活動が必要とされています。 WWFではまず、メラウィ県でのパーム油生産に関する基礎的な情報の収集から取り組みを開始。そこから地域の小規模農家との対話やトレーニングの実施を通した、パーム油生産の改善を目指していきます。

ボルネオやスマトラで展開されているこの一連の取り組みは、深刻化の度合いを増している、インドネシアの熱帯林消失の問題を、一気に解決できるものではありません。 しかし、貴重な森を未来にわたって長期的に守り、そこに生きる野生生物や生態系を保全していくためには、その現地で生活する人たちの意識の変革と、自主的な取り組みが何よりも重要なカギとなります。 WWFはこうした地域と一体となった取り組みを現地で推進しながら、ビジネスでパーム油を調達し、製品の生産を行なっている日本の企業にも働きかけ、RSPO認証の普及を通して持続可能なパーム油の生産と利用の拡大を、これからも推進してゆきます。

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