「パワーカップル」世帯の動向(2):基礎研レター

以前のイメージとは違った、パワーカップル妻の姿が伺える

1――はじめに

前稿では「パワーカップル」世帯数や、夫が高年収の世帯における妻の就業状況を確認した。夫婦ともに年収700万円超のパワーカップルは共働き世帯のわずか1.8%だが、じわりと増加傾向にある。

また、高年収の妻ほど夫も高年収であること、そして、近年、夫が高年収の世帯でも働く妻が増えていることから、共働き世帯が増える中で夫婦世帯間の経済格差が、さらに広がる可能性を指摘した。

さて、本稿や次稿では、弊社実施の調査データ(*1)を用いて、パワーカップル世帯の実態をより詳しく見ていく。

ただし、パワーカップル世帯は全体のごく一部であるため、共働き世帯全体を分析対象とし、妻の収入から見た違いという視点で捉えていきたい。

まず、本稿では、共働き世帯の妻の収入から見た働き方の違いとして、年代やライフステージ、雇用形態の状況を確認する。

(*1) 生命保険加入実態等に関する調査。調査対象は20~69 歳の男女、インターネット調査、2016 /12実施、調査機関:株式会社日経リサーチ、有効回答6,296、うち今回の分析対象は810(配偶者のいる女性で本人と配偶者の職業が民間企業・団体の正社員・正職員、経営者・役員、嘱託・派遣・契約社員、公務員、パート・アルバイト、自営業・自由業のいずれか)。

2――妻の収入から見た働き方の違い

1年代別に見た収入分布~パワーカップル妻は共働き妻の5.3%、30代や50代で多い

まず、共働き世帯の妻全体について、年収階級の分布を見ると、「300万円未満」(66.5%)が圧倒的に多く、次いで「300~700万円未満」(26.4%)で、年収700万円未満が92.9%を占める(図表1)。 

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一方、パワーカップル妻と見られる(*2)年収700万円以上は5.3%で、内訳は「700~1,000万円未満」が3.2%、「1,000万円以上」が2.1%である。

次に、年代別に共働き妻の年収階級分布を見ると、いずれの年代でも「300万円未満」が最も多く、次いで「300~700万円未満」が多い。

「300万円未満」は40歳代以上で約7割を占めて多く、「300~700万円未満」は20歳代(40.4%)や30歳代(33.2%)で多い。

一方、年収700万円以上は、いずれの年代でも1割に満たないが、30歳代(7.4%)や50歳代(6.5%)で比較的多い。

サンプル数の少なさを考慮する必要はあるが、年齢が高いほど年収700万円以上に占める年収1,000万円以上の割合は高く、30歳代では3割弱、50歳代では半数弱を占める。

なお、年収700万円以上の共働き妻に注目して、年代の分布を見ると(図表省略)、多い順に30歳代(32.6%)、50歳代(30.2%)、40歳代(27.9%)で、それぞれ3割前後で並ぶ。

(*2) 本稿のデータでは夫の年収は把握していないが、前稿にて妻が高年収ほど夫も高年収で、年収700万円以上の妻の約7割が夫も年収700万円超(700~1,000万円未満は60.7%、1,000~1,500万円未満は100.0%、1,500万円以上は100.0%)。

2雇用形態別に見た収入分布~パワーカップル妻は正規雇用者の10.4%、非正規や自営では3%程度

雇用形態別に共働き妻の年収階級分布を見ると、正規雇用者では「300~700万円未満」(58.7%)が最も多く、次いで「300万円未満」(29.0%)、「700~1,000万円」(7.4%)と続く(図表2)。

正規雇用者では年収700万円以上は10.4%で、共働き妻全体と比べて約2倍存在する。一方、非正規雇用者や自営業・自由業では「300万円未満」が圧倒的に多く、年収700万円以上は3%前後である。

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なお、年収700万円以上の共働き妻に注目して、雇用形態の分布を見ると(図表略)、正規雇用者(65.1%)が圧倒的に多く、非正規雇用者(27.9%)、自営業・自由業(7.0%)の順である。

ところで、年代別に雇用形態の分布を見ると、年齢とともに正規雇用者の割合が低下し、非正規雇用者の割合が上昇する(図表3)。

20歳代や30歳代では正規雇用者が過半数を占めるが、40歳代以上では非正規雇用者が6割を超える。

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以上より、20歳代より30歳代で年収700万円以上の高年収層がやや増えること、また、30歳代より40歳代で高年収層が減り年収300万円未満層が増えるとともに、非正規雇用者率が高まることから、M字カーブ問題で言われるように、出産頃までは順調にキャリアを積むものの、出産・子育てを機に離職し、子育てが落ち着いてから家庭を重視した働き方で復職している様子が窺える。

3ライフステージ別に見た収入分布~パワーカップル妻はDINKSのほか、第一子出産前後の30歳代と子育て中もキャリアを積み続けた50歳代のDEWKSで多い

ライフステージ別に共働き妻の年収階級分布を見ると、いずれも「300万円未満」が最も多く、特に、第一子小学校入学~第一子高校入学、第一子独立~孫誕生では7割を超える(図表4)。

次いで、いずれも「300~700万円未満」が多く、結婚と第一子誕生、第一子大学入学で3割を超える。

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一方、年収700万円以上は、多い順に、第一子中学校入学(9.6%)、第一子大学入学(8.4%)、第一子誕生(7.1%)、末子独立(6.6%)、結婚(5.9%)で比較的高い

サンプル数の少なさを考慮する必要はあるが、第一子大学入学や末子独立では、半数以上が年収1,000万円を超える。

なお、年収700万円以上の共働き妻に注目して、ライフステージの分布を見ると(図表略)、最も多いのは結婚(27.9%)で、次いで第一子誕生と第一子大学入学、孫誕生(いずれも14.0%)が並ぶ。

図表4にて、結婚より第一子誕生で年収700万円以上の高年収層がやや増えること、また、第一子誕生より第一子小学校入学で高年収層が減り年収300万円未満層が増えること、さらに、年収300万円未満が7割を超える状態は第一子高校入学まで続くことから、前項と同様、第一子出産頃までは順調にキャリアを積むものの、子育て期は家庭を重視した働き方に変える様子が窺える。

ただし、高年収層は第一子大学入学や末子独立でも比較的多く、当該層では年収1千万円超の割合も比較的高いため、子育て期もキャリアを積み続ける女性もわずかながら存在し、それがパワーカップル妻に、また、年収1千万円超につながっているようだ。

一方でパワーカップル妻のライフステージでは結婚が3割弱を占めて最も多く、子供を持たないDINKS(Double Income No Kids)も多い

一昔前は高年収妻というと優雅なDINKSの印象が強かったかもしれないが、最近のパワーカップル妻はDINKSだけでなく、むしろ第一子出産前後の30歳代のキャリア形成初期と子育て中もキャリアを積み続けた50歳代のキャリア形成後期のDEWKS(Double Employed With Kids)でも多くなっている

3――おわりに~キャリアコースの多様化で不本意な子育て期の離職を防ぐことで、消費活性化の期待も

パワーカップル妻は30歳代や50歳代で比較的多い一方、子育て真っ盛りの40歳代ではキャリアを中断する女性も少なくない。

本来、家庭と仕事のバランスをどうするか、子育て中はキャリア形成を休むのか、ペースを落とすのか、あるいはペースを変えないのかという選択は、個人の自由であるべきだ。

しかし、女性のキャリア形成は、夫の長時間労働や社会的風潮など外的要因の影響が大きい。

また、妊娠・出産を経て育児休業や時間短縮勤務などを利用すると、昇進・昇格とは縁遠い「マミートラック」に固定されがちな状況もある。

現在のところ、女性が働き続けるには「マミートラック」か、管理職コースを目指すかという二択になりかねず、これが少なからず子育て期の離職にもつながる。

不本意な理由による子育て期の離職は、労働者個人にとっても社会全体にとっても不利益だ(*3)。

「働き方改革」等、働き方の多様化に向けた政策が進められているが、キャリアコースが多様化し、働き方を自由に選べるようになれば、生涯に渡って収入を得やすくなり、消費活性化にもつながるだろう。

(*3) 大学卒女性の働き方別生涯所得の推計-標準労働者は育休・時短でも2億円超、出産退職は△2億円。」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2016/11/16)

関連レポート

(2017年9月12日「基礎研レター」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

生活研究部 主任研究員