近年、訪日外国人が急増している。2013年に1千万人の大台に乗るやいなや、2014年は3割増の1,341万人に達した。
インバウンド旋風の背景には、ビザ発給要件の緩和、LCC(格安航空会社)の拡大、訪日外国人の8割を占めるアジア諸国の経済成長などがある。政府は東京五輪・パラリンピックが開催される2020年までに訪日外国人2千万人の目標を掲げるが、その実現も視野に入ってきた。
外国人の買物をはじめとした宿泊費や交通費などインバウンド消費は、国内経済にも大きな影響を与えている。平成27年度版観光白書によると、平成26年の外国人の旅行消費額は、前年比約4割増の2兆278億円だ。
中国人観光客による"爆買い"は、高級ブランド品だけでなく日用品まで広がり、百貨店や家電量販店の売上げを伸ばし、インバウンド関連銘柄の株価は上昇しているという。
インバウンド旋風を更に確かなものにするため、国内では様々な取り組みが行われている。大都市のホテルのみならず地方の旅館や温泉などの外国人対応、Wifi環境の整備、免税店や両替所の増設、ムスリム旅行者のためのハラル認証を受けた飲食店や祈祷所の拡充など外国人観光客の受け入れ対応が進んでいる。
また、ハラル食や祈祷寺院をコースに組み込んだムスリム向けバスツアーや、訪日客と日本人が同乗して語学研修と相互交流を図る国内バスツアーなども企画・実施されている。
最近、LCCでは成田、羽田、中部、関西、福岡などの主要空港だけでなく、直接、海外とその他の地方空港を結ぶ路線が増え、訪日外国人の旅先が地方に拡大している。既に、地方には訪日外国人を誘致対象にした大型アウトレットモールも出現し、地方の消費拡大と雇用の増大が期待される。
外国人観光客を地方に呼び込む上で、大きな支障になるのが言葉の壁だ。日本語が全く分からない訪日外国人も多く、多言語による案内表示や通訳ガイドの養成が不可欠だ。案内表示板にQRコードを付記し、スマホで読み込んだデータを母国語に変換できれば、多くの外国人が安心して日本各地を訪れるだろう。また、地方を起点とする周遊性のある観光ルートを開発・整備することも有効だ。
昨年11月、地方の人口減少抑制を目指す『まち・ひと・しごと創生法』が施行され、地方自治体に2020年の達成目標を盛り込んだ総合戦略の策定を求めている。民間有識者でつくる日本創成会議も、「ストップ少子化・地方元気戦略」(2014年5月)を提言、地方の「人口急減・消滅」へ警鐘を鳴らしている。
今後、日本全体としても人口が減少するなか、日本社会が活力を維持し、「地方創生」を実現するためには、いかに"インバウンドの風"を地方に吹き込むことができるか、が重要なカギとなるだろう。
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(2015年6月30日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員