夜明けはいつも気付く前に訪れます――。
第46代アメリカ大統領ジョー・バイデン氏の就任式で、1人の詩人が詩を朗読した。
彼女の名前はアマンダ・ゴーマン。1998年にロサンゼルスで生まれ、 2017年には最初の全米青少年桂冠詩人に選ばれた注目の若手詩人だ。
ゴーマン氏が朗読した「The Hill We Climb(私たちが登る丘)」は、分断したアメリカに結束を呼びかけ、新しい時代へ進むための希望を描いている。
冒頭でゴーマン氏は、次のように苦しみと希望を語った。
「決して終わらないように思えるこの暗がりのどこで、私たちは光を見つけられるのでしょう。私たちは喪失感を切り抜け、勇敢に窮地に立ち向かわなければなりません」
「ただ黙っていても平和は訪れません。公正だと思われていることが、必ずしも正義だとは限らないのです」
「しかし夜明けはいつも、気付く前にやってきます。壊れているのではなくまだ未完成のこの国で、私たちは困難を乗り越えてきました」
「奴隷の子孫でシングルマザーに育てられた痩せっぽっちな黒人の女の子が、大統領になるのを夢見ることができるようになったのです」
想像して欲しかったこと
ビル・クリントン大統領就任式のマヤ・アンジェロウ氏、ジョン・F. ケネディ大統領就任式のロバート・フロスト氏。
大統領選就任式ではこれまで、アメリカを代表する詩人が詩を朗読してきた。22歳のゴーマン氏はその中で最も若い詩人になった。
就任式で詩の朗読という大役について「自分のキャリアの中で最も重要なもの」とゴーマン氏はニューヨークタイムズに語っている。
書きかけだった詩を一気に完成させたのは1月6日、連邦議会議事堂でトランプ支持者による暴動が起きた日の夜だという。
「この詩を通して、私の言葉を通して国がまだ一つになれる、癒すことができると想像してもらえるのを目指した」とゴーマン氏は語っている。
そうやって完成した詩でゴーマン氏は、民主主義にも触れている。
「国を共有するのではなく粉々にしてしまう力を、私たちは見てきました。それが民主主義の前進を遅らせるものならば、私たちの国は破壊されてしまう。そうなってしまうところでした」
「しかし、民主主義は時に歩みを止めることがあるものの、永遠に打ち負かされることはありません」
言語障害がきっかけで手に入れた武器
新大統領に就任したバイデン氏は、子どもの時に吃音に苦しみ克服したことで知られる。
ゴーマン氏も子どもの頃に言語障害があり、Rなどのいくつかのアルファベットの発音が難しかったという。
「記憶のある限り幼い頃、おそらく4歳か5歳の時から詩を書いています。必ずしも良いものではなかったけれど大好きでした。そして詩への情熱は、言語障害があることで強まりました。考えを表現できる場所があることに大きな自由を感じ、夢中になりました」とNPRに語っている。
さらにCBSの取材でゴーマン氏は「詩は社会を変えるための道具であり、最も政治的なアートの一つです。なぜなら詩は言葉を爆発させ、不安定にするから。そうやって現状維持しようとする力を押し戻すのです。詩は私にとって、本当のことを伝えるものなのです」と語っている。
その言葉通り、ゴーマン氏は就任式に朗読した詩でも前に進もうと呼びかけている。
「私たちは過去に戻るのではなく、自分たちが目指す姿に向かって進んでいきます。私たちの国は大きく傷ついています。しかし寛大で勇敢、激しく自由です。私たちは、脅迫されて来た道を戻ったり、歩みを止めたりはしません。なぜなら行動を起こさないことが、次の世代に受け継がれると知っているから」
「私たちが行動しないことは次の世代の負担になる。しかし1つ確かなことがあります。私たちが思いやりと力を一つにし、力を正しさと一つにすれば、愛が私たちの遺産となり、子どもたちの生まれながらの権利になります。
「だから私たちの国を、過去より良いものにしていきましょう」