稲田朋美防衛相が、東京都議選に立候補している自民党候補の集会で法律違反の疑いがある発言をした問題が波紋を広げている。稲田氏は発言を撤回したものの、野党は稲田氏の罷免を要求するなど、攻勢を強めている。
都議選をめぐっては、自民党は小池百合子知事が代表を務める「都民ファーストの会」と激戦を繰り広げており、稲田氏の発言が選挙戦に影響する可能性もある。
問題となっているのは、稲田氏が6月27日、東京都板橋区であった自民党候補の集会で「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」と応援演説したことだ。
自衛隊法は61条で、自衛隊員が選挙権の行使以外に政治的行為をすることを禁じている。集会場所近くには陸上自衛隊練馬駐屯地があり、大臣自ら隊員に対し、法律違反となる行為を呼びかけたと受け取られかねない。
また、稲田氏は「防衛大臣」とも言っており、公務員が地位を利用して特定の候補者を応援する行為などを禁止する公職選挙法の136条の2にも抵触する恐れがある。
稲田氏はこの日の夜、発言を撤回したが、野党の攻勢は勢いを増している。
NHKニュースによると、民進党の蓮舫代表は28日、「選挙応援で自衛隊を組織的に利用するような発言で、防衛大臣の責務を理解していないとしか思えない。自衛隊法などに違反しており、撤回し、謝罪して終わりという話ではなく、完全にアウト」と話し、安倍晋三首相に対し、罷免を要求した。
共産党の小池晃書記長も28日、Twitterに「即刻罷免すべき。これまで大臣を続けさせてきた安倍首相の責任重大」などと投稿した。
だが、政府は稲田氏をかばう姿勢を示した。菅義偉官房長官は28日の会見で、「政府の機関は中立であって、特定の候補者を応援することはありえない」と述べたものの、「今後とも職務にあたっていただきたい」と更迭する考えはないとした。
その上で、「稲田大臣からは、練馬駐屯地などで自衛隊を受け入れておられる地元のみなさんに感謝する趣旨で演説を行った。その上で誤解を招きかねない発言であったと撤回をし、謝罪をされたと、ま、そういうことです」と、稲田氏の釈明や謝罪に理解を示した。
稲田氏の発言は、都議選(7月2日投開票)の最中に飛び出しただけに、選挙戦に影響する可能性がある。
菅氏は「選挙については東京都民の皆さんが直面している様々な地域の問題について、それぞれの候補者が具体的な政策を訴え、それに対して地元の皆さんが判断をされる。地方選挙はそういう選挙だと思っている。そういう中で、選挙に影響を与えるということはないと認識している」と否定した。
だが、政府は森友学園や加計学園をめぐる問題などで激しい批判にさらされ、報道各社による最新の世論調査でも内閣支持率が軒並み下落した。自民党にとっては逆風が続く。
時事ドットコムによると、自民党と激戦を繰り広げている「都民ファーストの会」率いる小池知事は稲田氏の発言について短く語った。「あり得ない。そこは(立場を)混同なさらない方がいい」。都議選の投開票日は7月2日に迫っている。