ハフィントンポスト日本版は5月27日、女性の働き方や子育てに焦点を当てたトークイベント「未来のつくりかた」を都内で開催。イベントでは、北欧と日本のイクメンを集めたパネルディスカッション「イクメン先進国に学ぶ」が開かれ、海外と国内の育児の違いや、父親が育児に参加できる環境作りには何が必要かなどが話し合われた。
「イクメン先進国」で登壇したのは、『フィンランド流 イクメンMIKKOの世界一しあわせな子育て』の著者で、フィンランド大使館参事官のミッコ・コイヴマーさん、デンマーク出身で日本コロニヘーヴ協会・代表理事のイェンス・イェンセンさん、NPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事の吉田大樹さん。モデレータには、コピーライター・メディア戦略家で、「赤ちゃんにきびしい国で、赤ちゃんが増えるはずがない。」のエントリーが16万4000の「いいね!」がつく反響を呼んだハフポストブロガーでもある境治さんが務めた。
■家族全員でご飯を食べる北欧と育児に関われない日本の父親
冒頭、コイヴマーさんが「イクメン」という言葉について、「フィンランドでこういう育児に参加する父親は特別の言葉はありません。ただのお父さんです」と解説。「フィンランドではここ20〜30年、お父さんたちが本当にお母さんと同じように家庭で家事や育児に参加しています。均等に家庭のいろいろな仕事、責任を分担します。私も、朝から子どものご飯や洋服の着替え、歯磨きを手伝い、いつもパパチャリで保育園に連れて行きます。そして、夕方5時半までには家に帰るように頑張ります」とフィンランドのイクメン事情を語った。
男女問わない育児が実現している背景については、「フィンランドは福祉社会です。そして国からいろいろ支援やサポートがあり、共働きできます。そして女性も男性も、家庭でも会社でも大体、同じように責任を持って働いています。もちろん、父親とっては子どもと時間を過ごせる方法ですからうれしいです。母親にとっても育児や家事だけではなくて、自分のキャリアも達成できる。ワークライフバランスとして、とてもいいと思います」と解説。こうしたワークライフバランスが、出生率にも良い影響を与え、仕事の成果にもつながって会社や社会にとって利益があると話した。
続いて、デンマークのイェンス・イェンセンさんは、働きながら「自分の時間をもっと欲しいな」と思い、現在はフリーランスとして活動していると報告。自身の生い立ちについて、「僕はデンマークのすごく田舎で育っていて、両親が2人とも教師だったので、ほんとに毎晩、両親と3人兄弟、家族5人全員で食卓を囲んで夕飯を食べました。それは家族との時間であり、学校で何が起きたか親子で話したりする貴重な時間でした」と語った。
「日本には日本のやり方があると思いますので、フィンランドやデンマークなどを参考にしながら、独自にこれからどうやっていくかを探さないといけないと思います。僕は日本に住んでますが投票はできません。にも関わらず、日本の方は投票率がすごく低い。でも、投票して、政治に興味を持たないと、社会は変わりません」
続いて、シングルファーザーとして3人の子どもを育てている吉田さんが登壇、日本の現状を訴えた。吉田さんは「あくまで仕事は人生の一部であって、果たして残業ばっかりしていていいのかっていうことに気づけるかどうか。意識を変えていく一歩、例えば、いきなり週5日は難しいと思いますので、週1回でもいいからご飯を一緒に家族で囲むとか、何かしら家庭に関わっていけると、少しずつそのスキルもアップできる。イクメンて何かなと考えた時に、ママの負担を軽くしてあげることじゃないかと思います」と父親の意識変革の必要性を指摘した。
また、日本の男性が育児や家事に関わっている時間が世界的にも少ないことを説明。「30代、40代のパパたちは本当に残業をいっぱいしています。これではやっぱり子育てに関わるのは難しい。よく女性の社会進出と言いますが、男性の社会進出とは聞いたことないと思います(笑)。男性社会の中に女性を飛び込ませようとしてしまってんじゃないか。そうじゃなくて、やはり男性の働き方もやっぱり変えていかなければいけないっていうことになると思います」と話した。
(左から松浦茂樹編集長、吉田大樹さん、ミッコ・コイヴマーさん、イェンス・イェンセンさん、境治さん、長野智子編集主幹)
■北欧と日本の父親はどのように育児に関わっている?
3人のイクメンたちのプレゼンテーションの後、境さんを司会にディスカッションが行われた。境さんは、「フィンランドやデンマークでは非常に男性の子育て参加が進んでいます。具体的にはどういうふうに子育てに関わるのでしょうか?」と質問。コイヴマーさんは「家事や子育ての中で、何が女性の分担で、何が男性の分担という分け方はあまりないです。フィンランドでは基本的に男性と女性は同じように働いていますから、家庭の中の義務も同じようにシェアします。子どもも小さい頃から家事をしているので、難しくはないです。私も洗濯が得意ですし、妻の方が実は運転が上手です。料理も掃除も、そんなに怖いものではありません」とフィンランド流の男性の子育てについて紹介した。
イェンセンさんも、「僕の父親はあんまり料理は作れなかったけれど、子どもとはよく遊んでくれたし、家にいる時間が多かったです。ただ、ミッコ(コイヴマー)さんもおっしゃったように、洗濯は女性がやるとか、そういう概念があまりデンマークにもありません」と話した。
コイヴマーさんは、「北欧と日本とではちょっと違っていて、20歳になるとフィンランドでは普通、家を出て一人暮らしを始めます。そして結婚するまで1人で生活して家事を学びます」と日本との違いを語った。これに対し、イェンセンさんも、「デンマークでは18歳になると全員が奨学金もらえるので、一応は一人暮らしできます。大学も学費が無料なので、18歳になると家を出て1人で暮らすようになりますね」と同調した。
一方、「日本でもイクメンという言葉ができたぐらいなので、イクメンで進んでる人たちもいるのではないかと思います。事例をご存じですか?」という境さんの質問に、吉田さんは、「男性の意識は高まってきているのは事実と思います。ただ、会社にはまだまだ弊害があって、その中で戦ってなんとか育休を取ったりとか、勝ち取ってるパパも少なからずいます」と答えた。
いまだ、勝ち取らないと育休も取れない日本の父親たちの現状に対し、吉田さんは「本当は、これは労働者の権利なわけですから、きちんと取れなきゃいけない。今、実際の育休取得率は男性では1.89%しかいないんですね。それに対して希望する男性は3割もいる」と説明した。「育休中の育児休業給付金も半年間に限っては、今までの5割から3分の2に引き上げることが、雇用保険法が改正されて決まりました。制度はととのいつつあるし、そういう制度を周知していかないと」と話した。
■ワークライフバランスで子育てできる社会を
境さんは、3人の議論を受け、「日本のイクメンがもっと普通になるには、イクメンの問題だけじゃなくて、子育てを社会全体で引き受けるような、そういう風土が必要だと思います」と語り、そのためには何が必要かをあらためて聞いた。
コイヴマーさんは、「今の日本は男性がずっと朝9時から夜9時まで働いてあまり家にいなかったら、たぶん家族のことはわからないです。同じように奥さんの方も旦那さんのことがあまりわからない。離れた二つの世界になってしまい、ちょっとそれは危ないと思います。ですから、男性は女性の家事や育児をしてみてはどうでしょうか。例えば、週末は1人で子育てしてみる。私も妻が職場復帰したために、1歳の息子を2カ月間、1人で面倒をみたことがありました。思ったより大変でしたが、同時に最高の経験になりました。本当に息子のことがよくわかるようになった。そして、妻の大変さもわかるようになりました。自分の両親や子育てしている人たちをより尊敬するようになりました。相手の世界がわかったら、もっとよくなると思います」と語った。
吉田さんも「国の制度は充実してきてはいるのですが、まだまだ足りないところもあります。EUは今、労働時間指令ということで、仕事と仕事の間は11時間きちん休息しろというふうには決められているんです。インターバル休息というのですけが、そういった制度を入れていければ、もっと自由に働ける環境ができる。また、どんどんテレワークも進んでわざわざ東京に来なくても仕事ができる仕組みをどんどん構築していける。首都圏でしか仕事できないと、人口が集中して待機児童問題が起きる。そうじゃなくて、もっと視野を都市部から地方に目を向けて働ける仕組みも必要かと思います」と話した。
また、「ワークライフバランスが企業にとって、やっぱりプラスであるということを実感すること。実感していくことで、そういう会社を増やしていければ、競合の会社がそれを取り組んでいれば、やっぱり取り組まざるを得ないっていう雰囲気にどんどんなっていくと思います」と変革を促した。