ママ友とは違う、働く女性の相談相手って?  揺れる本音を話せる人を探す方法

「働きやすさ」と「働きがい」は両立できる?

出産・育児などのライフイベントと、仕事のキャリアをどう両立していくかは、多くの働く女性にとって悩みの種だ。

株式会社MANABICIA代表の池原真佐子さんが2017年に立ち上げた「育キャリカレッジ」は、ちょっと先のキャリアを歩む女性の先輩(メンター)と、キャリアに悩む女性や企業をマッチングするキャリア支援サービスだ。

「働きやすさ」と「働きがい」を両立するキャリア形成のヒントとは? 11月からドイツにも拠点を移した池原さんに、キャリアのあり方や家族のかたちについて話を聞いた。

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株式会社MANABICIA代表の池原真佐子さん
Kaori Sasagawa / HUFFPOST JAPAN

ママ友とは違う、働く女性のためのメンターを

――前回の記事では、ワンオペ育児を通じて「みんな」の力を借りる仕事と子育て」についてお話していただきましたが、池原さんが2017年に立ち上げた「育キャリカレッジ」も近いものを感じます。

「育キャリカレッジ」もまさにネットワーク、縁というものとすごくつながっていますね。女性は出産や育児等のライフイベントが「働く」に大きく影響してくると思うんですが、ライフイベントを含めて「どう働くか」を考えたときに、それを相談できる相手があまりいない気がします。

男性に相談することも出来るのですが、多くの男性はまだまだ、育児や家事の多くを妻が担っていることが多い。だからこそ、女性特有の「ライフイベントとキャリアをどう両立するか」の悩みを深く理解してもらえないと感じることがありました。

会社員ではない私もちょっと変わった働き方をしているので、「こんなときは誰に相談すればいいんだろう?」と思うことが多々あったんです。誰かと話をして「これでいいんだ」と覚悟を持てたり、「ここを乗り越えたら楽になるよ」と示唆をもらったりすることで、道が開けてくることもあると思います。

一方で、経験を持っていて誰かの役に立ちたいと思っている女性もたくさんいます。そういった女性たちをメンターとして育成し、キャリアに悩む女性にマッチングしたり、企業に派遣したりということを育キャリカレッジでは行っています。

――企業側はどのような関心を持っているのでしょう。

女性の社員を管理職に育成したいけれども先輩がいない、と悩む企業は今とても多いですよね。出産や育児といったライフイベント込みでキャリアを導いてあげる人が社内にいない。だからこそ外部メンターを使って社員を育成し、ゆくゆくは社内にまた還元していけるようにサポートしてほしい、というご依頼が多いです。

育キャリカレッジのメンターをその企業の女性に派遣して、自信を持って管理職やリーダーに挑戦できるよう、心の揺らぎや悩みに寄り添い伴走しながらサポートしています。同時に、社内に、女性のキャリアをサポートできるメンターを増やすべく、「メンター養成講座」の研修なども提供しています。

女性の働き方においては、仕事における「働きやすさ」と「働きがい」を両立できるといいな、と私は思っていて。時短制度や育休制度のような「働きやすさ」の充実も大切ですが、一方で、過剰な配慮によって「働きがい」が失われてしまうケースもある。

「そんなにがんばらなくてもいいよ」と配慮されることによって、成長の機会が少なくなり、自信を失ったり、能力が活かされなくなった事例をいくつも見てきました。そして女性自身も、仕事を続けることで、子供に対する罪悪感で苦しんだりしています。

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Kaori Sasagawa / HUFFPOST JAPAN

「働きがい」って、自分の仕事を自分なりにポジティブに意味づけすることで感じるものだと思います。でもその意味付けは、自分一人だけだと難しい。とくに、ライフイベントとの両立の壁で苦しんでいたり、女性であるというだけでやりがいのある仕事から外されたときは、「何のために働いているんだろう」と、意味が見えなくなってくる。

でも、様々な経験をして困難を乗り越えてきたメンター的な存在と話をして、俯瞰した視点からアドバイスをもらうだけで、「私が今やっていることには、こういう意味があるんだ」と実感できる。

女性が働き続ける上で、管理職になる・ならないは関係なく、「仕事も育児も頑張りたい」「自分の人生もちゃんと生きたい」というところを包括的に実現できている女性の数が、まだ足りないんだろうなと思います。だからこそ、それを実現している、少し先をいくメンターの経験を、次の世代の女性たちに繋いでいけたらと。

徐々に企業側の視点も変わってきているのを感じます。以前はサポートするための制度や仕組みといった、多くの人を一斉に "面"でサポートすることが重視されていましたが、最近はもっと個々人の内面に寄り添っていこうと、"点"で人を支えていくソフト面に目が向けられています。個の働きがいや幸せを組織がサポートすることで、より生産性が高まる、というニーズが出てきているんだと思います。

ドイツへ移住。次のステージへ

――一方で、池原さん自身は、11月から夫が暮らすドイツに拠点を移して家族3人での暮らしが始まったそうですが、移住を決めたきっかけは?

以前から「1年ごとに家族の在り方を相談しよう」という話は夫婦でしていたんですね。どういう生き方をしたいか、どういう仕事の仕方をしたいか。息子が1歳になったとき、2歳になったときと、節目には「じゃあ次の半期は、次の1年はどうする?」って。

そんなときに、夫が以前にいた国からドイツの職場が移ることが決まったんです。ドイツなら直行便があるし、もう2年半ワンオペ育児をしてきたので、そろそろ次のステージでもいいかなと思って、私と息子がドイツに移る形になりました。

――東京に拠点を持つ企業の経営者として、ドイツに拠点を移すという決断は高いハードルだったのでは。

これも自分にとっての人生の節目、必要なタイミングなんだろう、と心を整えるまでの時間が必要でしたね。正直、複雑な思いは今もあって。「ドイツで暮らす」ってそれだけ聞くと格好はいいんですけど、さまざまなチャンスとの引き換えでもあるわけですから。

ただ2年半、海外で単身赴任をしていた夫は一度も「こっちに来て欲しい」と私に言わなかったんですね。私のプレッシャーになることがわかっているので、一切言わないでいてくれた。

夫としても2年半はつらかったと思うんです。「なんで奥さんは仕事を辞めて子どもはこっちに来ないの?」と言われることも多かったみたいですし。「男たるもの」みたいな苦しさも男性にはあるんだろうなと。

私も大変だったけど、彼も寂しかっただろうし、子どもにももっと会いたかっただろうし。お互いが、大変さや寂しさや、いろいろな思いを持った上で、それでも、大切な家族としてのあり方やキャリアを、納得がいく形で模索してきた気がします。

彼の「今年からドイツに赴任することが決まった」という報告を受けて、「考えてみるね」としばらく考えてから、「じゃあ私たちがそっちに行こう」と話を切り出しました。多分、しょっちゅう(東京とドイツを)行ったり来たりになると思います。

不思議なことに「11月からドイツに引っ越して一緒に住む」と話すと、いろんな人から「その方がいいよ!」って言われたんです。そう言われると「じゃあ私の2年半はなんだったの?」みたいな、ちょっと引っかかる気持ちになりますね。その家族ごとに、いろんなかたちがあっていいと思うので。

「(パパと離れることは)子どもにとって良くない」と言われたこともありますが、もちろんともに過ごすのがベストだとしても、子どもにとっての幸せは、離れていてもパパとママが信頼しあって協力して、笑顔で過ごすことだと、私たちは信じています。

――ドイツでの暮らしを通じて、これまで以上にいろんな価値観に触れられそうですね。

ドイツでの経験を、女性の働き方への提言や、育キャリの事業に還元することで、新しい空気を入れ込むことができたらと思っています。

創業当時から「楽しく働く人を増やしたい」という思いがずっとあるんですね。「働く」ことを楽しいと思えるようになる。「母とはこうあるべし」という社会的規範が強い日本において、特に、産後は「働くことが楽しい」と思うのは本当に難しい。

多くの女性が、産後はやりがいの薄いポジションになり、日々髪を振り乱して育児と両立し、子どもへも罪悪感を持ち、家事も負担して疲弊している。

だからこそ、揺れる本音を話せる人がいて、困った時にそっと経験者ならではのアドバイスをくれたら、少しは肩の力が抜けて、「働くのって楽しいかも」「楽しく働くために何を変えればいいだろう」と思ってもらえるのではないかと信じています。

そういう人を増やすことをミッションとして、個人としても組織としてもこれからもアップデートしていければと思っています。

(取材・文:阿部花恵 編集:笹川かおり)