池上彰さんに聞くイスラム国 国際情勢の理解に「世界史を知らないといけない」

ジャーナリストの池上彰さんはハフポスト日本版のインタビューに応じ、北大の男子学生が過激派組織「イスラム国」に参加しようとしたニュースなどについて語った。
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Wataru Nakano

中東の過激派組織「イスラム国」、中国の海洋進出、地球温暖化……。めまぐるしく変化する国際情勢をどうとらえたらいいのか、ジャーナリストの池上彰さんはハフポスト日本版のインタビューに応じ、「本当の今を理解するには、その前の世界史を知らないといけない」と語った。

池上さんは、自身の著書「世界史で読み解く現代ニュース」 (ポプラ新書)が10月に刊行されたことを機に、共著者のジャーナリスト増田ユリヤさんとともに取材に応じた。池上さんは、先日の北海道大の男子学生がイスラム国に戦闘員として加わろうとしたニュースにも言及した。

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池上彰さん

――中東の過激派組織「イスラム国」が現在、国際ニュースの中でとりわけ注目されています。

池上さん(以下、池上) イスラム国は確かに残虐なことをやっています。その一方で、統治地域を広げてもいます。イスラム国の中では、平和に普通に暮らしている人がいっぱいいるんです。

世界史的に見れば、(第1次大戦後に崩壊した中東の)オスマン帝国が一つのモデルになっていると思われます。オスマン帝国のやり方を現代でやろうとしているのではないか、ということです。オスマン帝国がなぜあの地域で支持されているかというと、つまり(オスマン領分割についてイギリスとフランスが密約した)「サイクス・ピコ協定」体制の打破、これがある種の「錦の御旗」となって、あの地域の人たちの心を打つ、という話なんです。

増田さん(以下、増田) それは彼らが映像の中でも言っています。国境をイギリスやフランスが決めてしまい、現地の人々の思い通りにはならならず、それがほぼ今のままの国境線になってしまっている。それを打破することに共感する人がいる、ということです。

池上 国際ニュースを理解するときに、「すごく過激なものがいる」「訳の分からないいやつだ」と言うだけではダメなわけです。彼らには彼らの論理があり、それを知った上でどう対応するのかを考えなければいけない。通常のニュースだと時間も限られるため、「とんでもなく過激で極端な連中がいて、怖い」だけになっている。けれども、それではいけなんじゃないかなと思います。

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増田ユリヤさん

――イスラム国と言うと、先日、北海道大の男子学生が戦闘員として加わろうとしてニュースになりました。どう受け止めましたか。

池上 かつても、わざわざ中東までテロをしにいった日本人が大勢いたんです。それは日本赤軍で、彼らも同じようなことをやりました。あの時は、パレスチナのためでしたが、今回の北大生らもやはりパレスチナのため、そして反イスラエルなんです。それぞれの考え方や思想は違っています。ただし、かつて「世界革命のため」といって多くの日本人が向こうに渡り、テロリストとしての訓練を受け、多数のイスラエル人を殺しました。昔もそういうことがあった、という話です。

若者が、閉塞感を持ったり、今の世の中を何とかしたいと思ったりして、そういったことがいつの時代も起きるんだと思います。

――北大生も日本赤軍も、根底としては同じだということでしょうか。北大生に接触したフリージャーナリスト常岡浩介さんが「中2病」(中学2年生頃の思春期に見られる背伸びしがちな言動を自虐するネット用語)だと感じたと、先日、話していました

池上 ええ、同じです。あの日本赤軍だって、いまの言葉では「中2病」です。100人近くが(山梨県の)大菩薩峠で軍事訓練をやっていて一網打尽に捕まった。逮捕を逃れた連中が日本にいられなくなって、中東や北朝鮮にいったりしたのです。あるいは群馬県の山の中でさらなる武闘訓練をやり、その後、事件を起こしたりもしました。彼らは本当に真剣で、多数の人を殺しました。仲間も殺しました。いつの時代にもそういったことがあるんだと思います。

増田 イスラム国についてはメディアの影響が大きいと思っています。広報活動について、最初は英語だけかと思ったら、フランス語やロシア語、スペイン語など様々な言葉で行うようになった。閉塞感を持った若者たちがそれを見て飛びつくんだと思います。「いま自分が何をしたいかは分からない。しかし、そういう状況のときに、何かそこに希望を見いだせるんじゃないか」と。

欧米のイスラム教の人や移民たちなどは、その国で最低限の生活はなんとかできているかもしれないけれど、それ以上のものは何も見えないというような立場に置かれたりします。そういった人たちは、(イスラム国のような)こういうところに希望を見いだしたりするのかなと思います。

池上 世界中からイスラム国に大勢の若者が参加していますけれど、大半はイスラム教徒です。フランスからも、アメリカからも行っている。キリスト教社会の中で疎外感を味わった人が、中東に行ってイスラム教に目覚め、イスラム国に参加したりもしています。

――イスラム国について、今後どうなっていくと見通していますか。

池上 全然ダメですね。空爆だけではとても抑えきれません。地上部隊派遣ということになるのでしょうが、アメリカはそれをしたくない。地上部隊派遣を他の周辺の国にやらせたいのです。それでいま、一生懸命にイラク軍を立て直そうと養成しています。ただし、基本的に今のイラク軍は(イスラム教)シーア派主体ですから、(イスラム教)スンニ派の地域で真剣に仕事をする気がないわけです。だから今度は、スンニ派の民兵たちを養成してスンニ派自身にスンニ派を守らせるという戦略も持っています。オバマ大統領は、いまさらアメリカ軍をイラクに投入したくはないでしょう。

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イラク北部モスルで演説するイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の指導者バグダディ容疑者とみられる人物

――今回、「世界史で読み解く現代ニュース」が出版されました。イスラム国だけでなく、中国の海洋進出についても触れています

池上 南シナ海の領有権をめぐり、中国はフィリピン、ベトナムともめています。中国は、みな自分の海だと主張している。これに対して他国は「中国はけしからん」「とんでもない」と言っています。けれども、実は中国にとっては、昔(15世紀、明の提督)鄭和(ていわ)の時代に南シナ海を開拓し、その時代から南シナ海は中国のものだ、というのが言い分なんです。

中国は、いままさに中東の石油を持ってくるためにシーレーンを確保しようとしている。しかし、これは鄭和が切り開いた航路を現代に再現しようということに過ぎないんです。鄭和の航路といまの中国の海洋戦略の図を比べて見ると、同じなのが分かります。

――イスラム国にしても中国にしても、現在のニュースを理解するのに世界史の知識が役立つのですね。

増田 高校で世界史を教えていました。例えばニュースが起きたときに、このニュースはこういう内容で、これが起こったのはこういう国で、ということを授業の中で話すようにしました。すると、興味を持ってくれる生徒たちが出てきました。

池上 イスラム国にしても、中国が海洋大国になろうとしていることにしても、今のことを調べていくと、そこには前の歴史があるんです。「本当の今」を理解するにはその前の世界史を知らないといけないんですね。

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池上 彰(いけがみ・あきら) 1950年、長野県松本市生まれ。慶応義塾大学卒業後、NHKに記者として入局。1994年から2005年まで「週刊こどもニュース」に、ニュースに詳しいお父さん役として出演。2005年に独立。2012年より東京工業大学教授。『伝える力』(PHPビジネス新書)、『おとなの教養――私たちはどこから来て、どこへ行くのか?』(NHKブックス)など著書多数。

増田 ユリヤ(ますだ・ゆりや) 1964年、横浜市まれ。国学院大学卒業後、27年余りにわたり、高校で世界史・日本史・現代社会を教えながら、NHKラジオ・テレビのリポーターを務める。日本テレビ「世界一受けたい授業」にも出演。日本と世界の教育問題現場を幅広く取材・執筆している。主な著書に『新しい「教育格差」』(講談社現代新書)、『移民社会フランスで生きる子どもたち』(岩波書店)など。

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