東京医科大入試の女性差別問題がきっかけで、医学部入試での男女比の偏りが指摘されている。東京医科大を受けた受験生の合格率を男女別にみると、実際どの程度の開きが出ていたのだろうか。そして、ほかの大学の男女別の合格率はどうだったのか。
ハフポスト日本版は、医学部のある81大学(共学)に、2018年度の医学科一般入試の男女別の受験者数と合格者数を請求、回答のあった76大学のデータを元に、男女別の「合格率」(合格者数/受験者数)を割り出し、さらに男子の合格率を「1」とした場合の女子の合格率を比べた。医学部でも、保健学科や看護学科など、医師養成以外の学科は外している。
すると、最も女子の合格率が高かった島根大(1.64)から、女性差別入試で揺れている東京医科大(0.33)まで、同じ医学部でも、女子の合格率に大きな差が生じていることが分かった=下グラフに76大学の一覧。
男女の合格率が同じか、女子が男子を上回っていることを示す「1」以上の大学は、76校中18校あった。
女子の合格率が最高だったのは、島根大学の1.68。男女が同数受けたとして、男性は女性の6割しか受からなかったことを意味する。国公立で「1」以上の大学は、島根のほか福井、大分など、地方を中心に12あった。私立も杏林、自治医科、関西医科、東京慈恵会医科など1以上のところが6校あった。平均は、0.86。
今回、女子の点数を一律減点していた東京医科大は、76校中最下位の0.33だった。2番目に低い聖マリアンナ医科はそれまで15人前後いた、2浪以上の女子合格者が2018年と2017年はゼロになったことが、同大の公式サイトで分かっている。
ほかに、山梨、日本、岐阜をあわせた5校が、0.5を下回った。男女が同数受けたとしても、女性は男性の半分以下しか受からなかったことを意味する。
次の5校は比較対象に含めなかった。
受験者数の男女内訳を非公表=東京大、富山大、福島県立医科大
すべてのデータを非公表=帝京大
夏季休暇で電話がつながらなかった=近畿大
■医学部予備校の代表はこう見る
医学部予備校「エースアカデミー」の代表で、医師の高梨裕介さんは、これまで女子学生の指導を続けてきたなかで、医学部の男女の合格率の格差が大きいことは、予想していたという。感じていることを語ってもらった。
医学部の受験界では、女子受験生を差別しているという噂も当然のようにありました。今回問題になった東京医科大以外の大学でも、その女子受験生の模試の成績と合否の結果を比べると、明らかに疑問を感じました。
東京医科大に次いで、女子の合格率が低かった聖マリアンナ医科が公表している入試データを見ると、学力を競う1次試験では、男女の合格率にそれほど差はないのに、面接や小論文の2次試験の合格率は男女で2倍以上の差があります=下表参照。2次試験は小論文や面接で、どのようにも点数がつけられてしまい、ブラックボックスのような状態です。
そのうえ2017年度から、なぜか女性だけ2浪以上の合格者がいない。この差について、大学は受験生に説明が必要なのではないでしょうか。
エースアカデミーでも、2018年度に聖マリアンナ医科大学を受けた女子受験生は、2浪生が2人、他学部からの再受験生が1人いました。1次試験は合格しましたが、2次試験は、200番台の非常に低い補欠順位がつき、結果として不合格になってしまいました。
面接では、特に圧迫やおかしな質問を受けたわけではなかったので、受験生は「変なことを言ってしまったのではないか」と不安を覚えていました。
結果、2浪生の2人はほか大学医学部へ進みましたが、再受験生は聖マリアンナしか受けていなかったので、医学部生にはなれませんでした。
日本大も、受かる程度の学力がある女子でも入りにくかったと感じています。面接では結婚や妊娠などの考えを聞かれるようなことはなかったようですが、圧迫面接を受けたという学生も数人いました。
昭和大は、2017、2018年度でエースアカデミーの女子生徒(浪人生)で1次試験を8人が通過しましたが、面接のある2次試験は誰も合格しませんでした。この中には、横浜市立大や順天堂大、東京慈恵会医科大といった「難関校」に合格した女子もいるのに、です。 2年間で男子は、7人が1次試験を通過し、5人が合格しました。
こうした男女で合格率に差が開くのはなぜなのか、それぞれの大学に、試験の採点基準と男女別の得点リストの開示を求めたいです。
女性差別は「必要悪」か
この事件が起きてから、東京医科大の関係者が、入試での女性差別は「必要悪」と言っていると報道されました。正直、「女性は子どもを産んだら、辞めるからやむをえない」と考える医師は多いです。そんな考えだから、入試での女子差別は「やったらダメ」という感覚がなかったのではないでしょうか。
こうした考えが根強い一因として、医療界は、ほかの社会の「常識」が入りにくいという面があると思います。
医師の過労死が問題になった時、日本医師会が「過労死ラインが上限なら『救える患者も救えない』」とした考えを示し、「医師は過労死もやむを得ないのか」などと批判されたことがあります。
普通の感覚では理解できないことが、「特別」な事情で許されている、閉鎖された環境。外部が入っていけない空気感がある。医師たち自体が「特殊な職業」と思っている節もあります。それが、時代に取り残される要因になっていくのではないでしょうか。
入試制度の透明化を
医学部入試の2次試験の面接では、男女ともに体力面を聞かれたり、「女性医師は出産などで離職につながっている現状をどう思うか」と質問されたりします。こうしたときのやりとりで点数が付くのですが、採点基準が外からは分からない。
最近はあまり聞かれなくなりましたが、結婚や出産についての質問も確かにあります。予備校でも、過去問題集などをまとめ、質問に対する「答え」をある程度用意はしますが、同時に「嘘をつく必要はない」とも伝えています。「結婚はしません」などと意思に反して答えるのではなく、「医療の現場に長く貢献したい」という考えを示せばいいのではないか、と話しています。
今回は事件をきっかけに入試での差別が明るみに出ましたが、男女別の人数だけでなく、合格最低点も出さない大学は多い。 入試制度を透明化することが早急な課題ではないでしょうか。
人手不足の診療科に進む女性医師も多い
テレビ番組で、女性医師が「女性は皮膚科や眼科ばかりに行き、外科は圧倒的に男性が多い。男性にしかできないことがある」と、東京医科大の対応に一定の理解を示していましたが、あまりに一面的なものの見方です。
確かに、皮膚科や眼科の女性医師の割合は多い方ですが、外科同様に医師が不足している小児科や産婦人科、麻酔科にも進む女性医師は多いです=下グラフ参照。
なぜ、東京医科大が女性を一律に不利な状況に追いやったのか。この理由については、実にあいまいなイメージで語られるばかりで、まじめに検証したデータはありません。OECDの中では医師の女性比率は日本が一番低く、日本以外では、女性医師が男性より多くても医療が成り立っています。
「女性は年齢を重ねると医師としてのアクティビティが下がる」というのも印象論にすぎません。きちんとした検証をもとに労働環境が整えられていたら、まず入学の時点で女性の数を抑制すべきだという判断にはならないと思います。