スティーブン・オブライアン 前人道問題担当国連事務次長
マルゴット・ヴァルストローム スウェーデン外務大臣
ディディエ・ブルカルテール スイス連邦外務大臣
生後4カ月のサレハちゃんは重症の急性栄養失調に陥り、フダイダの病院で生死の境をさまよっています。
国内全土で紛争が激化する中で、22歳の母親ノラさんは、6人の子どもたちの健康を守るために十分な食料もきれいな水も手に入れることができません。
現在、イエメンでは紛争、コレラ、飢饉のリスクという三重の脅威が、2,100万人の生活を破壊しています。イエメンは、世界最大の飢餓の危機に直面しているだけでなく、最悪のコレラ流行にも見舞われ、感染の疑いがある人々は50万人を超えています。
イエメン危機は人為的なものです。この紛争では、民間人に苦痛を強いた上、生活に不可欠な組織を破壊するという戦術が用いられています。
コレラは現在までに、国内の全県に蔓延し、すでに2,000人の命を奪っていますが、少なくともその40%が子どもです。医療システムが機能不全に陥っているためコレラ蔓延に十分対応できず、診療所や病院では人員、医薬品、設備がいずれも不足しています。
多くの紛争と同じく、イエメンでも暴力の矢面に立たされているのは民間人です。
国連人権高等弁務官事務所は2015年3月以来、1万3,829人の民間人死傷者を把握していますが、その内訳は死者が5,110人、負傷者が8,719人となっています。実際の数はおそらく、これよりはるかに多いはずです。
数百万人が爆撃によって家や学校、市場、町全体を破壊され、多くの家族が命からがら、まったく将来の見通しが立たない中で避難を強いられているのです。
イエメンでは、病院と診療所の半数が破壊または閉鎖されています。
様々な商品や人道援助物資の国内への搬入が不当な制約を受けていることで、イエメンの経済には甚大な被害が及んでいます。
物資の輸送に欠かせないインフラが損傷を受け、企業の7割は操業停止に追い込まれています。中央銀行から資金が供給されているにもかかわらず、100万人の公務員は10カ月以上も給与の支払いを受けていません。
200万人の子どもが学校に通えなくなり、失われた世代となるおそれが出てきました。性的暴力やジェンダーに基づく暴力も劇的に増大しています。
こうした計り知れない課題に直面しながら、122の人道援助団体(その3分の2は国内NGO)は、その活動をイエメン全県に拡大し、毎月430万人に食料援助を届けるなどしています。
しかし、それだけでは不十分です。私たちはイエメンに対する支援を強化し、必要な人々が支援を受けられるようにし、その苦痛に終止符を打つために、4つの優先的対策を求めます。
第1に、人命を守り、救い、尊厳を取り戻すためには、人道団体が支障なく、脆弱な立場にある人々に手を差し伸べられるようにする必要があります。
国連安全保障理事会は2017年6月15日の議長声明で、イエメン紛争の全当事者に対し改めて、安全かつ持続的な人道アクセスを提供し、国際人道法を守るよう呼びかけました。
7月12日にも安全保障理事会の全理事国が強調しているとおり、すべての当事者がいま、この言葉を実行に移す義務を負っています。
暴力が横行する中で援助を届け、人命を救い、人々を守ろうと努める勇敢なボランティアや援助・医療要員を、戦闘当事者による攻撃の対象としてはなりません。
戦争にもルールがあり、戦闘当事者のリーダーやその利益代弁者たちは、このルールを守らせるよう、もっと真剣に取り組まねばなりません。
第2に、国際ドナーは、その資金拠出の約束を果たさなければなりません。
2017年4月、スイスとスウェーデンの政府が国連人道問題調整事務所(UNOCHA)とともに開催したイエメン危機人道支援会合では、アントニオ・グテーレス国連事務総長が開会の辞を述べ、ドナーが11億米ドルという、寛大な資金拠出を誓約しました。
そのうち4分の3はすでに拠出されていますが、コレラの流行を受け、対応所要資金が23億米ドルに跳ね上がってしまったため、ほぼ60%の資金が未だ不足している計算になります。
この資金不足は人々の生死を左右します。さらなる資金供与が得られなければ、飢餓に苦しむ700万人への食料配給を目指す世界食糧計画(国連WFP)は、あと1カ月で食料を届けられなくなってしまいます。
援助機関は現在、貴重な資金をコレラ危機への対処に充てることを余儀なくされているため、飢饉予防への取り組みに支障を来たすおそれもあります。
そこには人の命がかかっているのです。待つ余裕はありません。
第3に、すべての紛争当事者は、救命のための食料や栄養治療、医薬品など、必要不可欠な物資のイエメンへの搬入に制約を設けないようにせねばなりません。
フダイダ港の治安を確保しその機能を維持することは特に重要です。イエメンの輸入品と人道援助物資の大半が、主としてこの港から搬入されているからです。
また、サヌア国際空港とイエメンの空域を直ちに開放するなどして、援助を求める民間人の自由な移動に対する制限も解除しなければなりません。空港閉鎖により、必要な援助がイエメン国内で得られないというだけの理由で、命を失う人々が出ているからです。
最後に、当然のことですが、紛争が止まない限り、イエメンの苦難が終わることはありません。国連事務総長も安全保障理事会の全理事国も、和平の必要性を繰り返し強調しています。
私たちはすべての利害関係者に対し、包摂的かつ平和的な解決に向けた歩みを進めるよう、強く訴えます。その際、女性が和平プロセス全体に参加できるようにしなければなりません。
イエメンの人々の苦痛はすでに限界に達しています。
私たちは、イエメン国民の4分の3を超える2,100万人の生命を救い、こうした人々を保護するための努力を惜しんではなりません。
この苦難に終止符を打つため、あらゆる手を尽くすことは、私たち全員にとっての道徳的責務だからです。