『いだてん』歌舞伎の隈取風の演出が生まれたわけ

NHK大河ドラマ「いだてん」の第1回で、中村勘九郎演じる金栗四三の顔が雨に濡れた帽子の赤い染料に染まるシーンがあった。演出の井上剛氏らに話を聞いた。

Open Image Modal

【いだてん】「天狗倶楽部」「血まみれ」ウソみたいなホントの話

 6日よりNHKで始まった大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)』(毎週日曜 後8:00 総合ほか)。本作には、「ウソのようなホントの話がたくさん出てきます」(制作統括の訓覇圭氏)。第1回でSNSを沸かせた「天狗倶楽部」も実在したもの。史実と創作の間を行き来して制作を進めている、制作統括の訓覇圭氏やチーフ演出の井上剛氏への取材をもとに、第1回をおさらいする。

 このドラマで描かれるのは、"日本で初めてオリンピックに参加した男"金栗四三(中村勘九郎)と、"日本にオリンピックを呼んだ男"田畑政治(阿部サダヲ)を中心に、初めてオリンピックに参加した1912年ストックホルム大会から1964年東京五輪までの約50年間。

 SNSで話題になった「天狗倶楽部」は、明治の終わり頃に、野球をこよなく愛する冒険・SF小説家の押川春浪(武井壮)が結成した"私的"な団体。いまでいうサークル。金栗とともに、日本初のオリンピック代表選手となった三島弥彦(生田斗真)や、バンカラな応援隊長として名高い吉岡信敬(満島真之介)、天狗倶楽部ナンバー2の中沢臨川(近藤公園)などが所属した。

 脚本を担当する宮藤官九郎が「ネタとして作ったみたいに見られそうで逆に悔しい」と言っていた、彼らのユニフォームのワッペン「TNG」も本当にあったデザイン。当時から言葉を省略してローマ字で表す文化があったとは驚きだ。

 「テング、テング、テンテング、テテンノグー、奮え、奮え、テング」の"天狗コール"も実在したもの。「映像は残っていないので、現在とは異なる応援方法を近藤良平さん(ダンス指導)に考えてもらいました」(井上氏)。上半身裸になっている写真も多数残されており、ドラマの中で彼らが"よく脱ぐ"というのも史実に沿ったものだ。

 実は、押川主筆の雑誌『冒険世界』で「痛快男子十傑」の人気投票が行われ、一般学生部門で吉岡、運動家部門で三島がそれぞれ1位を獲得し、「痛快男子」と呼ばれたそう。「○○男子」も当時からあったなんて。「今回のドラマで、天狗倶楽部は痛快性を担う存在。キャスト陣には振り切って演じてほしいと、お願いしています。暑苦しい、ウザい、と話題になったようですが、十分にほめ言葉です」(井上氏)。

 第1回のラストシーン、雨に濡れた帽子の赤い染料が金栗の顔に垂れてきた、というのも実際に記録に残っているエピソード。その顔が、歌舞伎の隈取に見えるようにしたのは、演出側のアイデアだ。「史実ですし、面白いエピソードなんですが、最後に主人公が出てきて、血だらけに見えるだけだったら、視聴者にドン引きされるじゃないかと思いました(笑)。そこで思いついたのが、歌舞伎の隈取(くまどり)。勘九郎くんに話したら『素顔じゃだめなんですか? 最初の登場から隈取ですか?』って、言われましたけど(笑)」。

 ほかにも、田畑が慌ててタバコを逆向きで吸ってしまうシーンも、いかにも宮藤のネタっぽいが、本当にあったこと。嘉納治五郎(役所広司)が短くなった鉛筆を使ってよくメモを書いていたこともドラマの中に取り入れられている。

 きょう13日放送の第2回からは、熊本で生まれ育った金栗四三の物語がはじまる。「宮藤官九郎さんの脚本の楽しさを大切にしながら、今とつながっている時代の空気感と、そこにいきた人々の熱い思いを感じ取っていただきたいと思います」(井上氏)。

【関連記事】