ICT(情報通信技術)による地域活性化のために「ヒト」への投資を提言する「ネットと地域活性化を考える会」は2月、「なぜ街おこしにICTをクールに使えないのか?」をテーマとした座談会を開いた。出演者らは、地方経済振興や被災地復興にICTの力をどう使うのか、また国や地方自治体のICT政策のどこが問題なのかなどを語り、さらに「未来のつくりかた」を考えた。
討論会に出演したのは、東洋大学教授で情報通信政策について政策論争を行う民間組織「情報通信政策フォーラム」理事長の山田肇さん、ICT分野のコンファレンスやプライベートショーの事務局管理・当日運営をする「ウィズグループ」代表の奥田浩美さん、グーグル執行役員公共政策部長(討論会開催時)の藤井宏一郎さんの3人。ハフィントンポスト日本版編集長の松浦茂樹が司会を務めた。
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グーグルの藤井宏一郎さん(右)とハフィントンポストの松浦茂樹編集長
■中小ICTベンダーは疲弊
座談会の要旨は次の通り。
松浦茂樹編集長(以下、松浦):グーグルから見る日本の公共政策の問題点は何ですか。
藤井宏一郎さん(以下、藤井):国が地方のICT政策を支援することには二つの目的があります。一つは実証実験。新しいICT技術の先端産業を育成する目的で、農業や漁業、医療、防災、環境などの公共的分野に関するICT事業にお金をつけるというものです。しかし多くの場合、成果を上げていません。
もう一つは、公共事業としての電子政府化。(コンピューターシステムやネットワークシステムなどの提案・開発・コンサルティングを行う)ICTベンダーに自治体のシステム開発を任せます 。大手ベンダーが自治体から要件を聞いて、二重、三重の下請けがそれを実施します。公共事業として産業維持や雇用維持政策に近い面がありますが、実際は地元の中小ICTベンダーが育たず、問題だと思います。
解決としては、 前者については、先端産業育成には国が育成すべき分野を決めて支援するというターゲティングポリシー自体を見直し、むしろ規制緩和などベンチャーがリスクを取れる事業環境の整備から進めるべきです。後者については、地場のIT企業が直接かつ密接に自治体と密接に仕事をできるように調達の適切化を図るべきです。そのためには自治体のIT担当のリテラシーを高める必要があります。
奥田浩美さん(以下、奥田):たくさん事例があります。北海道のある町で、電話会議のシステムを使ってお年寄りの介護や医療情報を集める仕組みの実験がありました。1年が過ぎてみると、町から外のICTにはつながらない仕組みが出来ていました。つまり、ほかの仕組みに使えないんです。実証実験の先をきちんと計画して、お金を落とすべきです。うまくいった、いかないと言うよりも継続性が大切です。
松浦:中央からだと、ついお金の投下という点だけで見てしまいます。
山田肇さん(以下、山田):(税金の無駄遣いを外部の有識者が点検する)行政事業レビューに参加したことがあります。単年度主義が一番の弊害で、実施期間は実質2カ月だけです。これまでのシステムにちょっと改良を加えてごまかすことしかできません。
第二は。そうは言っても2カ月の実証実験で報告書を作らないといけない。それができる力のある自治体はとても限られます。ICTベンダーとがっちり手を組まないとできないことです。
松浦:奥田さん、徳島県での取り組みから見える特徴はなんですか。
奥田:私たちは、徳島と東京に拠点を置いて活動しています。最先端の技術は地方にはまったく落とし込まれていないと思っています。町づくりに役だっていないと感じました。
松浦:未来のために人材育成するとか問題解決をするために現場でお金を投下するのではないのが現状のようですね。
藤井:そのとおりです。ICTで地方を元気にするには、最先端技術の導入よりも、当たり前のテクノロジーを当たり前に使えるような、底上げとしてのキャパシティービルディングと、地元の具体的ニーズに密着したコミュニティーデザイン型の支援が必要です 。
ウィズグループ代表の奥田浩美さん
■ハッカソンを通じて地方にも自信持たせる
奥田:徳島県や 隣の愛媛県で、(ICT技術者らに新サービスのアイデアを競ってもらう)ハッカソンをやることで、それが東京や世界に通用するんだと自信を持ってもらう試みをしています。また、ハッカソンをやるときに行政の人たちをたくさん呼ぶようにしています。場がオープンだと、行政の人もエンジニアも会うことになります。そして、次の年に事業をやるというつながりができました。
山田:ICTを使うことによって、地域活性化した良い実例を、全国に伝えていくことが必要だと思います。そのためには成功事例をたくさんつくらないといけないのですが、その際には政治の力が欠かせません。ネットによる選挙運動が解禁されてネットに詳しい候補者が出てくる時代がようやく来たので、少しずつ変わるだろうと期待しています。
松浦:地方と言っても、北から南まで統一化してやるにはやはり行政の力が必要です。
山田:地方自治体の電子行政化のために支えない といけません。住民票の申請用紙は役所ごとに書式が違います。でも、一つのソフトを全国にばらまけばいい話です。ずっと安い費用で済む。政府がやることはたくさんあると思います。
情報通信政策フォーラム理事長の山田肇さん
■ICTで地方から世界に開かれるビジネスの窓
松浦:具体的な「未来のつくりかた」を提言して下さい。
奥田:離れた場所や離れた分野の人が、ネット上でクロスしてつながることが必要です。とにかく議論する場所が大切だと思います。人が集まれば、解決方法が生まれてくる。いまICTにおいて東京と地方の接点がほとんどありません。例えば、各自治体が、ICTを介護にどういかしているのか。全然集約されていない。行政も民間もNPOも、困っている老人たちも、一緒に何か話す場ができれば一気にその部分の解決が進むかもしれません。
山田:日本は高齢化が進んでいて、高齢者人口は増えるばかりです。その未来をどう作るのか。高齢者はなるべく人の手を借りずに生活をする必要があり、より社会に積極的に寄与すべきだと思います。若い人はそう言った世界を相手にしたビジネスを展開する。そんなときにICTはすごく活用できます。
加えて、ICTを使って若い人たちは世界中を相手にビジネスができるはずです。そのための支援、環境づくりが必要です。例えばネット販売の英語での約款や利用契約をきちんと作る。地方に住む人も世界を相手に商売が出来るんです。
松浦:地方から世界の扉を開けてあげれば、未来がつくれますね。
藤井:(サービスの基盤を提供する)プラットフォーマーであるネット企業としては、多くの人たちが活躍できる場をつくっていくのが貢献だと思っています 。さらに自治体と交流して人材や事業の育成支援も行いたいです。単にICT技術者ではなく、地方支援のためのマーケッター(マーケティング戦略立案者)であり、広報担当でありたいです。
松浦:東京でも地方でも、だれでもオープンなプラットフォームだから世界につながっていくことができ、未来がつくられていくということですね。
わたしたちもネットメディアとして、政治や経済を扱って中央に働きかけることができます。プラットフォーマーにも話しかけます。また、ブログを通じて発信する。そうやって、ネットと地域との振興を高め、未来をつくっていきます。