クロアチアのドブロブニクにて、2018年11月12日から8日間にわたり開催された大西洋マグロ類保存国際委員会(ICCAT)の第21回特別会合は、51の加盟国・地域による激しい交渉の結果、違法に流通する大量のクロマグロと、深刻な資源枯渇の危機にあるメバチについて、なんの対策も打てずに閉幕しました。回復傾向が指摘されたとはいえ、今も違法漁業の存在が懸念される大西洋クロマグロに対する今回のICCATの姿勢は、資源の回復よりも犯罪的行為にもつながる経済的関心のみを志向した無責任なものといえます。
骨抜きにされた資源管理
今回開催されたICCATの会合では、EUにより、大西洋東部のクロマグロ個体群(地中海を含む個体群)の新たな資源管理の提案がなされました。
この提案は、近年大西洋クロマグロの資源の回復傾向が報告された中にあって、当初、十分に厳しい内容でしたが、8日間のICCAT加盟国との交渉の結果、すっかり骨抜きにされてしまいました。 元々のEU提案は、科学委員会の勧告に従い、現行の回復計画を弱めることなく、より柔軟な措置を導入するとともに、監視体制を強める、というものでした。
しかし、最終的にこのEUの提案は、漁船や蓄養場の数を、各国が増やすことを可能にし、これまで定められていた漁期も延長。さらに監視体制についても大変に弱い内容に改悪されました。 一部の加盟国の間からは懸念の声があったものの、不幸にもこの最終案は全体会議で採択。
2018年10月には、EU内で15億円にも及ぶ可能性がある、違法なクロマグロ取引の問題が明らかになり、より厳格な監視措置の必要性を浮き彫りにしたにもかかわらず、その改善につながるような結果は得られませんでした。
メバチも危機に 後退と失敗の交渉
実際、今回採択された大西洋クロマグロの新たな管理措置は、以前の回復計画に比べ、大きく後退したと言わざるを得ません。 また、枯渇状態が深刻なメバチについても、ICCATが実効性ある管理計画の採択に失敗。資源回復計画に危険信号が灯っています。
メバチについては、2017年のICCAT加盟国・地域による漁獲実績が7,800トンと、科学的勧告に従って設定された総漁獲可能量の6,500トンを20%も上回っており、科学委員会からは、「メバチの資源回復の可能性がさらに低いものになった」と報告されました。
そうした現状にもかかわらず、ICCATの議論では、メバチの若齢魚漁獲を大きく削減し、また主要な漁業種類による漁獲のインパクトを減らすことが必要とした科学的勧告が全く無視され、2015年から課題となっているメバチの実効性ある資源管理措置の改定は、今回も合意できずに終わりました。
WWFはICCATの加盟国、加盟地域に対し、科学的勧告に従い、かつ予防原則に基づいた措置に合意できるよう、2019年11月に開催される次回の会合までに、これまで以上の努力することを強く求めました。
またその間、EUやその他の漁業国は、メバチ資源の過剰漁獲を解決するために、自発的な措置を導入すべきであるとWWFは考えています。
さらに、危機的な状況にあるサメ類についても、著しく枯渇しているアオザメの個体数を守るような管理措置が採択されなかったことは、大きな懸念です。
政治的意思の欠如、という危機
こうした課題だらけの議論と採択が続く会場で、この問題に取り組む、WWFスペインのラウル・ガルシアは発言を求め、ICCAT加盟国の政府代表たちに向かい、次のように述べました。
「皆さんが今、ここで意思決定しようとしている内容は、国際的に大きな影響があります。 それは、クロマグロやメバチの問題だけではなく、海洋生態系の保全、食糧安全保障、そして皆さんの国の経済や人々にまで影響するものです。 だからこそ、一年だけを見るのではなく、長期的視野に立つ必要があるのです。 また、ICCATの透明性と説明責任を高めることは、皆さんがしっかりと海洋生態系の保全を行い、共有の資源を保全することに努めていることを、世界の人々が学ぶ大きな機会なのです」
しかし、この訴えにもかかわらず、今回の会合の結果は、非常に残念なものとなりました。 WWF地中海オフィスの大西洋クロマグロマネジャー アレサンドロ ブッジは、これを受け、次のようにコメントをしました。 「EUとその他の大西洋クロマグロの漁業国は、犯罪行為や非持続可能な操業に対して、協力し、対策を打つことに失敗しました。これは大変遺憾なことです。
ICCATは、漁業や蓄養企業が大量の未報告クロマグロを密輸することを許し、犯罪的なネットワークによってこの種が枯渇に導かれるかもしれない危険を野放しにしてしまいました。これは同時に、消費者の食の安心を脅かす行為でもあります。
メバチやキハダなどの熱帯マグロ類についても、科学的勧告を無視し、過剰漁獲に対する策を講ずることを、さらに1年先延ばしにしました。 この結果は、大西洋に生息する重要なマグロの資源回復を著しく阻害するものです。 ICCATが管轄するマグロ漁業について、合法性と持続可能性を担保するための政治的意思が欠けていることは、大変残念と言わねばなりません」
今回の会議には、WWFジャパンのスタッフも参加しました。 日本は、漁業国としても、消費国としても大西洋のマグロ資源に大きく依存しており、極めて大きな責任を担っています。
日常的に漁業関係者から、流通関係者から、そして消費者から、ICCATが正しい選択を行なうよう、持続可能なマグロ漁業を支持する意思を示し、広く働きかけることが重要です。