IBMの低価格ハード部門は中国企業へ売却。富士通でなかったのはかえって好都合?
中国のパソコン・メーカーであるレノボ・グループ(聯想集団)は2014年1月23日、米IBMからPCサーバー部門を買収すると発表した。買収価格は23億ドル。IBMは収益率が低いハードウェア部門の売却によって、高収益のクラウド事業に注力する。
IBMは世界最大の総合コンピュータ・メーカーとして、ハードウェアからソフトウェアまですべてのラインナップを揃えていた。
だが同社は高収益体質を維持するため、儲けの少ない事業を次々に売却し、付加価値の高い事業にシフトしてきた歴史がある。低収益事業の売却先は、主に中国と日本であり、IBMの部門売却の歴史は、グローバルな付加価値のシフトそのものといってよい。
同社は2002年、プライスウォーターハウスから企業コンサルティング部門を買収するとともに、ハードディスク部門を日立製作所に売却した。
ハードディスクは世界で初めてIBMが開発したものだったが、パソコンの普及でコモディティ化し利益率が下がっていた。日立は20億5000万ドル(当時の為替レートで約2600億円)もの金額でこれを引き受けたが業績が回復せず、結局、米ウェスタン・デジタルに売却してしまった。IBMは高値で売り抜けることに成功したのである(日立の売却価格は買収価格を上回っているが、リストラに投じた費用を考慮すると利益は出ていない)。
続いて同社は2004年、ノートパソコン部門を中国のレノボ・グループに6億ドルで売却した。ノートパソコンはデスクトップ・パソコンに比べれば収益率が高かったが、それでも価格低下の影響が大きくIBMが目標とする利益率にはほど遠い状況となっていた。
このM&Aはうまくいった。当時の中国はパソコンがあまり普及しておらず、国内の人件費も安かった。IBMのブランドが手に入ることは大きなメリットであり、レノボはこの買収をきっかけに世界トップクラスのパソコン・メーカーに成長したのである。このほか2006年にプリンタ事業をリコーに売却したり、POS部門を東芝テックに売却するなど、儲からない事業を次々に日本と中国に売却してきた。
今回、レノボがPCサーバー部門を買収したことで、IBMからレノボへの大型部門売却は2度目ということになる。この案件には富士通も売却先の候補になっていたといわれるが、実現しなかった。
IBMによる一連の事業売却を見てみると、付加価値の低くなった事業を、コスト競争力で勝負する企業に売却するという大きな流れが見て取れる。その意味で、米国を代表する企業であるIBMから、新興国である中国の企業に低付加価値部門がシフトしていくのは自然なことといえるだろう。
やはり違和感を感じるのは、中国企業のライバルという形で日本メーカーの名前が出てくることである。本来、日本メーカーはIBMのライバルとして高付加価値の製品やサービスを生み出していく立場なはずだった。日本メーカーは、本来、買う側ではなく、売る側にいるべきなのである。
だが日本メーカーは、儲からなくなった先進国の事業を、中国と一緒に買う側に回っている。低賃金を背景とした単純なコスト競争で中国に勝てるわけがないという現実を考えれば、一連の買収で成功事例となるのは中国企業であるのは当然のことだ。
富士通もかつてはIBMと争うことができた会社だったが、長期間にわたって業績が低迷している。今回、IBMから低価格サーバー部門を買収したとしても、全体の業績回復には寄与しなかった可能性が高い。
日本は国内市場が縮小しており、企業の業績を伸ばすには海外企業の買収を積極的に行う必要がある。だが何でもいいから買収すればよいというものではない。継続的に利益成長できる事業でなければ、貴重なキャッシュを失うだけである。IBMのサーバー部門がレノボに渡ったことは、富士通の株主にとっては、かえって好都合だったといえるだろう。
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