岩手放送のステマ疑惑BPOが調査

IBC岩手放送としてはステマなどなかった、という主張を押し通す姿勢だという。これはどうしたことか?
Open Image Modal

岩手放送が番組内で効能を強調した明治のR-1乳酸菌ヨーグルト

民放連、日本民間放送連盟の信頼できる関係者によると、明治の「R-1乳酸菌ヨーグルト」のステマ疑惑で、テレビ局の自律的なお目付機関であるBPO「放送倫理・番組向上機構」の放送倫理検証委員会が問題の番組を放送したIBC岩手放送に対して「調査」を開始したという。

関係者によると、同委員会はすでにIBC岩手放送から「報告書」を提出させているという。

ただし、この報告書でIBC岩手放送は「明治との間には金銭の授受はいっさいない」としているという。

つまり、IBC岩手放送としてはステマなどなかった、という主張を押し通す姿勢だという。

これはどうしたことか?

そもそも問題の番組は週刊新潮のスクープ記事によって初めて世に知られることになった。

記事が出るタイミングで私自身も「視聴者への裏切りでは?」という強い表現を用いて問題提起した。

記事によると、問題の番組はTBS系列のIBC岩手放送が制作し、15年9月に岩手県を含む東北6県で放送した『宮下・谷澤の東北すごい人探し旅~外国人の健康法教えちゃいます!?』。宮下純一、谷澤英里香のタレント2人が岩手県内に住む外国人のところを訪ねて歩き、健康法を聞いていく、というもので実際に地元ではそれなりに知られた外国人を紹介する。だが、その中で誰が見ても唐突で不自然な場面が目につく。

実際に岩手で撮影した映像ばかりが流れていたと思ったら、唐突に東京の順天堂大学免疫学講座の奥村康・特任教授が登場し、「温泉は免疫力を上げます」などと語り出す。

さらにナレーションで「忙しい現代社会でも手軽に免疫力を高める食べ物がある」として「それがR-1と名前がついている乳酸菌です」と強引にこの食品についてのPRめいた説明が登場する。

しかも佐賀県有田町などでR-1が入ったヨーグルトを住民に飲んでもらったら風邪やインフルエンザの罹患率が下がったなどの実験データがグラフで紹介される。「R-1乳酸菌を取っておくと免疫の下りが少ない」と奥村特任教授が専門家としてお墨付きを与える場面も出てくる。

このあたりの場面が、いかにも「ショッピング番組」風で宣伝臭がとても強いのだ。

「R-1の入ったヨーグルト」と言えば、株式会社・明治の「R-1乳酸菌」の赤いパッケージを思い浮かべる人は少なくないだろう。

実際、日本国内で商品化されているものは明治の製品しか存在しない。

この番組では商品名は伏せていたものの、事実上、明治の商品を露骨に宣伝する場面が不自然な形で挿入された。

出典:ヤフーニュース個人「テレビが『ステマ手法』! 視聴者への裏切りでは?」

週刊新潮によると、この番組は同局の番組審議会で問題視され、明治とのタイアップであることを同局の幹部たちが番組審議会で告白した、という。

番組審議会、通称「番審」は、それぞれの放送局に設置された外部有識者によるお目付機関であり、放送法で設置が義務づけられている。

ただ実態はかなり形骸化していて、どの局でも「番審」は通常月に1度、局の側が指定した番組を視聴してもらって「ご意見」を拝聴するというスタイルだ。ところが、この番組については番組審議委員の一人がたまたま放送を見ていてこの番組が対象になった。15年11月のことだ。

審議会の議事録を読むと、委員たちが「あざとい」「視聴者をバカにしている」などと次々に違和感を表明している。通常は「ガス抜き」で終わることが多い番組審議会の中ではきわめてまれな出来事でこれほど紛糾した番審の議事録は読んだことがない。

番組審議会では、外部の委員の意見に対しては局の責任者が出席して説明することになっている。

その中で、IBC岩手放送は以下のように説明した。

「番組はR-1乳酸菌の情報を取り込み、(明治から)タイアップ料金をいただくことで成り立ちました」

「しかし、(明治の)スポンサー提供表示はしない。それを(明治も)理解しています」

「(番組で用いられた)素材も、メーカー(=明治)から提供いただいたそのものです」

つまりIBC岩手放送は、明治から「タイアップ料金」を受け取りながら、番組提供などとは表示せず、しかも映像素材も明治からもらって番組の中に使用していた。

番組内のR-1に関連する部分は事実上、明治の広告なのに、それを視聴者に隠して放送していたことになる。

視聴者を裏切る、許されない行為であることは明確だ。

出典:ヤフーニュース個人 「テレビが『ステマ手法』! 視聴者への裏切りでは?」

こうした疑惑に対して、IBC岩手放送は番組審議会で一度は委員に説明していた「タイアップ料金」などについての幹部の発言が「間違っていた」と言葉を翻し、会社のホームページで訂正した。

この訂正は週刊新潮の記事が出ることが確実になった昨年(2016年)12月14日に公表されている。もともとこの番組が番組審議会で審議されたのは2015年の11月18日だから、1年以上もの間、訂正しなかった発言を週刊誌が出るとなって慌てて訂正したように思える。

番組審議会で幹部が行った説明は事実誤認で、その場しのぎのものであり、事実ではなかった、というのだ

放送法で設置が定められている「番組審議会」に対して、岩手放送の幹部たちは1年以上もの間ウソをついていたことになる。

そのことに番組審議会のメンバーたちは怒らないのだろうか。

訂正した時の岩手放送のコメントを以下、引用する。

(事実誤認による具体的な発言例)「R-1乳酸菌の扱いについては、ノンクレジットタイアップという方式です。」「それはまさにインフォマーシャル、単純に商品だけでなく商品に付随する情報も伝えたい。」→この番組はタイアップにより制作されたものではなく、したがってクレジットが入ることはありません。また、この番組は情報番組であり乳酸菌の研究成果を紹介したものでインフォマーシャルとは異なるものです。

出典:岩手放送ホームページ/番組審議会の議事録に事実誤認による発言が掲載されておりました

今回、BPOの放送倫理検証委員会に対して、IBC岩手放送が提出した「報告書」はこのホームページ上でのコメントと同じ姿勢らしい。

「明治との間に金銭の授受はいっさいない」

金銭の授受がなかったとしたら、あそこまで明治の「R-1乳酸菌ヨーグルト」を宣伝するような番組構成は非常に不可解だ。そもそも番組は岩手県内に住む外国人を取材して「健康法」を教えてもらう、というコンセプトである。そこにスポンサーでない明治が提供したコマーシャルのようなVTRが挿入されているのだ。

BPO側はこの岩手放送側の不可解な説明を受けて、調査を打ち切るのだろうか。

放送法にはこう書かれている。

(広告放送の識別のための措置)

第十二条  放送事業者は、対価を得て広告放送を行う場合には、その放送を受信する者がその放送が広告放送であることを明らかに識別することができるようにしなければならない。

対価をもらっていて実態は広告放送でありながら、広告放送であることを明示しない放送は放送法違反なのだ。

放送局にとって放送法違反は重大な問題だ。

実際に岩手放送そのものが金銭を受け取っていなかったとしても、制作会社が「制作協力費」という名目で金銭を受け取ることはままあるのがテレビ業界の実態だ、あるいは直接の金銭を受け取らずともとりあえず「貸し」を作っておけば、別の機会にスポットCMなどを買ってもらうなど「借りを返してくれる」というのもこの業界ではあることだ。そうしたことも放送法12条の「対価」にあたるだろう。 

あくまで自律的に放送倫理を遵守させる機関であるため、警察のように強制的な調査まではできないBPO。

そうしたなかで調査に動き出したのは前進といえるが、このまま不問の形で終わらせてしまってはテレビの業界で続くステマ問題にはメスを入れられないままだろう。 

BPOの今後の動きに注目したい。

(2016年1月17日 「Yahoo!ニュース個人(水島宏明)」より転載)