イギリスの俳優、イアン・マッケラン(76)は「X-MEN」シリーズのマグニートーや「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのガンダルフなど、個性的な役を数多く演じてきた。1988年にゲイ(男性の同性愛)であることを公言して以来、LGBT(性的少数者)の権利拡大運動にも参加している。
2016年のアメリカ・アカデミー賞のノミネートが白人で占められたことが問題となった。過去2回、ノミネートされたが受賞を逃したマッケランは、1月25日のガーディアン紙に、こう述べた。
ゲイを公言している俳優もオスカーを受賞したことはない。偏見なのか機会の問題か分からないけどね。
「ゲイを公言した俳優として、初めてオスカーの栄誉に預かれることを誇りに思う」とスピーチしようと思ったけど、その原稿はお蔵入りになった。
マッケランが伝説の名探偵シャーロック・ホームズの晩年を演じた『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』が3月18日から日本公開されるのを前に、ハフポスト日本版などとの電話インタビューで、ホームズを演じた感想や、LGBTを公言して生きてきた半生を振り返った。
――今回はシャーロック・ホームズという強いインパクトの役を演じました。
実在しない人物だけどイギリスの国民的英雄だし、ベーカー街には像まで建っている。この映画では、ホームズを実在の人物として描いているので、人間性を掘り下げて演じられたことはよかったと思う。うれしかったのは、幅広い方々に支持していただいたこと。ホームズファンからホームズをまったく知らなかった人まで、年齢にも関係なく響いているのはうれしいことだ。
――真田広之さんとの共演はどうでしたか?
とてもよい友人になれた。礼儀正しくて、英語もとても上手だったよ。原爆で焼け野原になった広島で、山椒を見つけて掘り起こす場面があるんだが、ヒロは山椒を採る前に礼をしたんだ。さりげない演技ではあるけど、もしかしたら日本人の役者だからできる演技かもしれないと思ったね。
――晩年の「孤独」が大きなテーマでした。さすがに人生経験豊かなマッケランさんならではの演技でした。
人間誰しも、一人でいることの「孤独」は知っている。最初出てきたホームズは一人でいることで十分幸せだし、他人を分析する仕事に問題はなかった。だけどこの映画のストーリーの魅力は、私情を排して他人を分析する仕事のホームズが初めて、自分自身の内面を見つめなければいけなくなることだ。
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――もしかして、ゲイであることを公表して芸能界で長いこと生きてきた経験が、今回の大きな助けになったのではないでしょうか。
面白い質問だけど、答えは難しいね。ゲイだから孤独だと思ったことはない。むしろ、カミングアウトすることで、多くのLGBTの友人たちとつながり、そこに喜びを感じてきた。
――イギリスでは同性婚も認められましたが、日本はまだそこまで至っていません。あからさまな暴力や偏見を当事者にぶつける人は少なくなったものの、社会的な合意や法的な基盤は欧米に比べればまだ整っていないのが実情です。
日本のLGBTについて具体的なことを知っているわけではないけれど、世界中で、LGBTの社会的権利について議論が盛んに行われるようになったことはうれしいことだ。イギリスも同性婚を認めたことで、長いことLGBTの社会的運動があって権利を拡大してきたアメリカ、もともと進歩的だったカナダやニュージーランドといった国々に追いついたことがうれしい。
あるがままの自分としての性的指向を表現することを、社会が抑圧するのは不公平だ。LGBTが正直に性的指向を公言できないと、その人は社会に十分貢献できないことになる。カミングアウトできれば、人生はよりよいものになり、家族や友人の人生もよくなって、社会をよりよくすることにつながる。だから日本がLGBTを受け入れ、自己表現することで彼らが貢献できるような社会になることを願っています。
――ご自身の果たした役割も大きかったのではないですか?
カミングアウトして、自分に対して誠実、正直になれた。兄弟や友人にも「よりよい存在」になれた。人によっては「いい役者になった」と言った。自分自身に自信が持てるようになったからだと思う。カミングアウトすると、LGBTは自分だけを心配することがなくなり、他人に目が行くようになる。他のLGBTとつながったことで、僕自身が出来ることは何なのかを考えた。それは、公の場で議論することだったんだ。「状況はよくなるんだ」と、つながったLGBTに励ますことは、私にとって喜びだった。
ただ、この運動にはたくさんのヒーローがいる。僕は自分が出来ることを、楽しみながらやっただけだよ。
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