パキスタン:人権侵害を行う警察の精査を

拘禁下の拷問方法には、警棒やlittars(革紐)での殴打、roola(金属棒)での開脚及び粉砕、性暴力、長時間の睡眠妨害、精神的拷問などがある。
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A police officer is framed by the architecture of Lahore's Badshahi Mosque while standing guard during a prayer session on Eid al-Adha November 7, 2011.

© 2011 Reuters

(ニューヨーク)- パキスタン政府は深刻な人権侵害を許容・助長している現在の警察制度を抜本的に見直すべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。歴代のパキスタン政府は何十年も、警察の人員・装備不足の改善や、警察による違法行為の責任追及にむけた改革に失敗してきた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは、「パキスタンは重大な治安危機に直面しており、これに対応する最善の策は、警察が権利を尊重し責任追及を行うことだ」と指摘する。

「それなのに法執行は、不満だらけで腐敗かつ疲弊した警察高官らの手にゆだねられている。これら警察官による人権侵害が罰せられないでいる限り、パキスタンがより安全な国になることは決してない。」

The Pakistani government should overhaul its police system that enables and even encourages serious human rights violations.

報告書「『ねじ曲がった制度』:パキスタン警察の人権侵害と改革」(全102ページ)では、恣意的逮捕および拘禁、拷問、超法規的殺害を含む警察による広範囲に及ぶ人権侵害について調査・検証した。また、地方警察が、政治家や地元有力者による不当な圧力、倫理的かつ専門的な基準の不足、および仕事量と期待の増大に直面していることも明らかになった。

本報告書は、様々な階級の警察官30人超、警察による人権侵害の被害者とその家族や目撃者50人への聞き取り調査、ならびに多数の警察活動専門家および市民社会活動家との議論を基にしたもの。調査はパキスタン4州のうちシンド州、パンジャブ州、およびバロチスタン州の3州に焦点を当てた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、全3州で警察が身柄を拘束した人びとに対し、刑事事件の尋問中などに、拷問ほかの虐待行為を頻繁に行っており、被疑者が死亡するケースも起きていることを明らかにした。難民や貧困層、宗教的少数派、土地を持たぬ人びとといった社会の隅に追いやられた集団は、警察による暴力的な人権侵害のリスクが特に高い。

拘禁下の拷問方法には、警棒やlittars(革紐)での殴打、roola(金属棒)での開脚及び粉砕、性暴力、長時間の睡眠妨害、精神的拷問(被拘禁者仲間の拷問を見せるなど)などがある。政府高官たちはヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、警察官は専門的な捜査や犯罪学分析の訓練を受けていないため、物理的な強制力をしばしば用い、結果として、違法な情報収集及び自白の強制につながっていると説明した。

数人の警察官は公然と、誤り又は捏造の「エンカウンター・キリング (encounter killing)」の習わしを認めた。これは警察が交戦を仕立て上げて、拘禁している個人を殺害する行為を指す。

証言した警察官らによると、このような殺人は、上層部や地元有力者からの圧力や、警察が有罪判決を確実にする証拠を集められなかったことなどを理由に行われるという。

警察がこの手の殺人の責任を問われることはほぼないに等しく、遺族も警察による嫌がらせや報復として事件をでっちあげられて逮捕されることを恐れ、苦情申し立てを躊躇してしまう。

2015年11月にカラチ警察署の留置場で殺害されたサイード・アラム氏の父親は、「警察が[息子を]殺したことに疑いの余地はありません」と話す。

「私が彼ら[警察]に対し腐敗に反対する申立てを行っていたから、息子は殺されたのです。こんなにねじ曲がった制度では、法の裁きを実現するなどという希望はみじんも持てません。」

植民地時代にできた警察法の下では、地元政治家が日常的に警察活動へ介入することが可能だ。時には政治的なコネを持つ被疑者(名の知れた犯罪者も含む)に対する捜査の中止や、政敵に対する嫌がらせや冤罪を着せることを警察官に指示することさえある。

警察官の劣悪な労働条件も、人権侵害を容認または助長する風潮につながっている。階級の低い警察官は毎日24時間の待機状態を義務づけられている。時間の決まったシフト制ではない長時間勤務を強いられ、警察署内に設置された粗末なトタン小屋で寝泊まりせざるを得ない警察官もおり、多くが長期間家族と離れて暮らす。車両や捜査に必要な道具といった必需品も支給されず、申立てを記録したり、メモを取る紙さえ十分にないことも多い。

前出のアダムズ局長は、「警察官の労働条件や、仕事へのインセンティブの改善が必要だ」と述べる。「パキスタンの人びとが法の裁きを求める際に、好意や賄賂に依存しないですむよう、警察はプロとしての行動を奨励すべきだ。そのために、訓練・人員・装備も必要だ。」

恣意的拘禁や拷問ほか、証拠・自白収集のための強制的手段などの人権侵害について、パキスタンの連邦政府および州政府は、これを速やかに捜査したうえで、加害者である警察官の適切な懲戒や訴追を行うべきだ。そして、許される捜査方法は何かについて、警察規定やマニュアル内で明確に定義しなければならない。

アダムズ局長は、「法を守らせることを任務とする法執行機関が法に従わない限り、パキスタンにおいて法の支配が現実のものとなることはない」と指摘する。「そのためには、政府が制度改革を行うとともに、外部からの不適切な圧力の問題を解決する必要がある。」

(2016年9月26日「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)