東京電力福島第一原発の汚染水処理が三月末には終わらず、五月末まで延びることになった。
このことについて自民党の行革推進本部で内閣府・経産省からヒアリングをした。すると、どうも話が違う。
現在、原子炉に毎日320トンの冷却水が投入されている。
それに加えて地下水が毎日300トン流入してくる。
さらに、海岸のそばでくみ上げられている高濃度の汚染水が毎日100トン、合計して毎日720トンの汚染水が発生している。
この720トンはキュリオン、サリーと呼ばれるセシウム吸着装置を通り、まず、セシウムが取り除かれる。
その後、淡水化装置で塩分が抜かれ、真水320トンが再注水に回され、塩分が残ったままの400トンが貯水タンクに貯められる。
2月5日の時点で241,900トンが貯められている。
そしてこの汚染水がALPSと呼ばれる他核種除去設備を通されて、トリチウム以外の核種がかなり取り除かれた状態で貯水タンクに貯められる。(2月5日時点でALPSを通りトリチウム汚染のみになった水が297,000トン貯まっている。)
ALPSは一日の処理能力が750トン、平均稼働率が50.5%で毎日平均379トンを処理する。
増設ALPSは処理能力が750トン/日、平均稼働率73.6%で552トンを処理する。
国費150億円を補助金として投入した高性能ALPSは1日の処理能力が500トン、稼働率56.8%で処理能力は毎日284トン。
3系統のALPSを動かせば毎日1215トンを処理することができる。
これまでに241,900トン貯まった汚染水を1215トンずつ処理すれば、199日で処理することができる。
その199日間、毎日400トンの汚染水が出てくる。その79,600トンを1215トンずつ処理すれば66日。
その66日間に...
つまり、あと300日はかかる計算になる。
とても5月末には終わらない!
そこで東京電力は、「汚染水処理」の定義を変えたようだ。
当初、「汚染水処理」とは、ALPSで他核種を除去し、トリチウムのみが残った水にすることを指していた。
内閣府も経産省も、汚染水処理とはALPSを通した水にすることだという認識であったことを認めた。
ALPSを通してもトリチウムは告示限界が6万Bq/Lに対して、当初は420万Bq/L、最近でも40万Bq/Lが残っている。
だから厳密にはトリチウム汚染水とでもいうべきものにすることを「汚染水処理」と呼んでいた。
ところが東京電力が5月末までに終わらせると言っているのは、この当初の定義にすることではなさそうだ。
汚染水のうちサリー、キュリオンだけを通すか、サリー、キュリオンを通ってからモバイル型ストロンチウム除去設備またはRO濃縮水処理設備と呼ばれるものを通した汚染水についても「処理した」と扱うことに定義を変えた。
ALPSは62核種を除去するが、サリー、キュリオン、モバイル型ストロンチウム除去設備、RO濃縮水処理設備はストロンチウム等しか除去しない。
つまり当初の定義通りトリチウムのみに汚染された水にすることを「汚染水処理」と呼ぶのではなく、ストロンチウム等だけを除去することも「汚染水処理」と呼ぶことにしたのだ。
経産省に、いつ「汚染水処理」の定義を変更したのかとたずねると、「『東京電力は』それも汚染水処理とよんでいる」と答えるのが精いっぱい。
本来、3月末までに汚染水処理を終えるためにはALPSを増設する必要があった。しかし、東京電力はその投資をケチって処理の時期を遅らせ、さらに「汚染水処理」の定義を変えた。
内閣府・経産省の説明を聞く限り、そういうことになる。
内閣府・経産省に、当初の定義どおりの「汚染水処理」が終わるのはいつになるのか報告を求めた。
さらに、異なる定義で「汚染水処理」という言葉が使われるのは国民の間に混乱と誤解を生むので、「汚染水処理」とは当初の定義通りトリチウムのみの汚染水にすることに統一するように求めた。
政府は東京電力をきちんとアンダーコントロールの状況にしておかなければならない。
(2015年2月13日「河野太郎公式ブログ ごまめの歯ぎしり」より転載)