多様化する社会に対応する「柔軟な働きかた」とは? P&Gの「ピークパフォーマンス」が導き出すダイバーシティ

ハフィントンポスト(ハフポスト)日本版の開設2周年を記念したイベント「未来のつくりかた――ダイバーシティの先へ」が5月16日、東京・六本木の泉ガーデンギャラリーで行われた。
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The HuffingtonPost
ハフポスト2周年イベントで開かれた特別鼎談「未来のつくりかたーーP&Gの柔軟な働きかた」

ハフィントンポスト(ハフポスト)日本版の開設2周年を記念したイベント「未来のつくりかた――ダイバーシティの先へ」が5月16日、東京・六本木の泉ガーデンギャラリーで行われた。

イベントでは、P&Gジャパン執行役員の石谷桂子さんと同社ダイバーシティ担当マネージャーの丸谷奈都子さんを招き、特別鼎談「未来のつくりかたーーP&Gの柔軟な働きかた」を開催。個人のライフスタイルが多様化する中、一人ひとりに最適化された働き方の整備に取り組んできたP&Gで、石谷さんと丸谷さんがどのように働いていらっしゃるのか、また、なぜP&Gは「柔軟な働き方」を実践しているのかなどを聞いた。モデレーターはハフポストの猪谷千香レポーターが務めた(文中敬称略)。

■アメリカ本社へ子連れで赴任 キャリア形成には上司や家族の支え

猪谷:それではさっそくご紹介していきたいと思います。まずは、P&G執行役員でブランドオペレーション・ブランドマネジメントをしていらっしゃる石谷桂子さんです。

石谷さんは、1990年にP&G宣伝本部に入社。洗濯関連製品、ヘルスケア製品、ファブリーズ日本導入等を担当後、2001年にマーケティングディレクターに就任。2006年から2013年までアメリカシンシナティ本社に赴任された経歴をお持ちです。プライベートでは、2人のお子さんを育てながら働いていらっしゃるワーキングマザーで、旦那様は日本で暮らし、石谷さんはお子さんたちを連れてアメリカへ転勤、キャリアを積まれました。

それから、同じく人材開発・採用兼ダイバーシティ担当マネージャーの丸谷奈都子(まるたに・なつこ)さんです。丸谷さんは、2001年にP&Gのヒューマンリソーシズ部門に入社。2004年からフェミニンケア事業部付人事担当となり、2005年には、第一子をご出産。育児休業から復帰後、ビューティー事業部付人事担当。2008年に第二子をご出産されて、復帰後に研究開発本部付人事担当と人材開発のキャリアを積まれ、2013年からはダイバーシティ担当マネージャーに就任されていらっしゃいます。

まず、お二人からはP&Gの現場でどのような働き方をされていらっしゃるのか、そのご経験を通じて、どのあたりが「柔軟」なのかをご紹介していただければと思います。

石谷:ご紹介にあずかりました通り、私は2006年からアメリカシンシナティ本社に7年間、赴任していました。それ以前は東京の事業部におりまして、主人も東京で勤めていたので、一緒に住んでいました。しかし、弊社の本社は神戸にありまして、立場がディレクターになってまいりますと東京でのポジションがかなり限られてくるということで、次のアサインメントをどうするか上司と相談をしました。

その時に、普通に考えれば神戸の本社へという話になり、主人は東京、私は子供2人を連れて神戸と、離れて暮らさなければいけないということになりました。そこで、どうせスプリットファミリー(離れて暮らす家族)になるのであれば、自分としてはやはりアメリカの本社で経験を積みたい気持ちが強くありまして、チャレンジできるのではないかと思いました。

主人もそういう機会があるのであれば、ぜひ挑戦してみた方がいいのではないかと言ってくれました。私はP&Gに入るまで、海外で暮らしたことはありませんでしたが、子供たちにとっても視野を広げる意味で良いのではないかということも大きな背景としてありました。

実を言うと、最初から離れて暮らそうと思っていたわけではなくて、主人も自分のキャリアを合わせて、一緒にアメリカに行こうという話もしていたのですけど、ちょうど主人も転職をしたところでしたので、いろいろ考えた末にお互いのキャリアを重視するためには一度ちょっと離れてみてもいいのではという決断に至りました。

7年間の赴任を終えて、2年前に日本に戻ってきたのですが、その時にも上司からは、東京への赴任でも良いのではという話を受けました。弊社は大体8割くらいが神戸で、2割くらいが東京なのですが、やはり7年間も日本を離れていて、その間に入社した社員もおりますし、組織の長として働く時に、やはり信頼関係が得られないのではないかなということもありました。そこで、赴任するからにはきちんと神戸の本社にということを申し上げました。

子供も一緒に神戸へ連れて行こうか考えたのですけれど、私が出張する時など、アメリカのように即座にベビーシッターが利用できるわけではありません。ですから、今度は主人と一緒に東京で暮らしてもらい、私が単身赴任という形をとることを家族で話し合って決めました。今は、大体、週4日間は神戸におりまして、週末を含めた残り週3日は、できるだけ東京で働いたり、家族と過ごしたりということをしております。

ですので、非常にユニークには聞こえるのですけど、会社の方も固定観念がなく、私がこういう働き方をしたいと言った時に認めてくれたというのもありますし、その時の私のキャリア、主人のキャリア、それから家族でそれが可能かどうかを話し合って、ここまで続けてこられたと思っています。

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子連れでアメリカ本社へ赴任したという石谷さん

猪谷:ありがとうございます。石谷さんのキャリア形成の背景には、会社の方やご家族とのコミュニケーションをとられ、一つ一つ築かれてきたことがよくわかりました。続いて、丸谷さんお願いします。

■ある日は早く帰って子供のお稽古事、別の日は残業というフレックスワーク

丸谷:私の部署は人材開発、採用や研修を担当する部門で、日本と韓国のリーダーをしています。ダイバーシティ担当マネージャーでもありまして、そのアジアの担当をしております。

今日のテーマは「柔軟な働きかた」ということですので、私からはどういうふうに柔軟な働き方をしているのか、自己紹介をさせていただきたいと思います。ご紹介していただいた中にもありましたように、私には小学校5年生と、今年の4月から小学校1年生になった子供がおりまして、主人も違う企業で働いています。今、主人は単身赴任ということで、週末だけ一緒に時間を過ごすという形をとっております。

その中で、「小学1年生の壁」という言葉もありますが、やはり4月に下の子が小学校に入り、いろいろな意味で子供の中でも変化がありました。そういうところをケアしつつ、職責としては、4月は新入社員研修ですとか、そういった山場が重なる時期でもありましたので、「フレックスワーク」の制度を使いながら仕事を回しています。

通常「フレックスワーク」と言われた時に、皆さんどういったことをイメージされるでしょうか。それぞれ企業さんによって制度が違うと思うのですけど、弊社の場合は、総労働時間が1日単位で決められているのではなく、月の単位で決められています。例えば、今日は勤務時間が4、5時間かもしれないけれども、他の日には8、9時間というような形で働くということです。私の場合は、ある曜日は子供のお稽古事の送り迎えがあるので、16時に帰ります。その代わり、他の日には通常18時までに終わるところを、19時まで働いて月の時間を合わせていく。自分の仕事を回していくと同時に、子供のニーズもどう応えるか、上司と話しながら決めるという働き方です。

猪谷:ありがとうございます。1カ月単位で労働時間を見ていくというのは、会社の制度としてなかなかユニークだと思いました。

■最初に制度ありきではなく、一番良い状態で働くための制度活用

猪谷:お二人にご経験をお伺いすると、やはり日本の普通の企業に比べて、非常に柔軟な働き方を実践していらっしゃるのだなと分かったのですが、お二人が特殊なケースというわけではないのですね?

石谷:そうですね、特に女性だから、私たち二人だから、ということではなく、男性社員も、管理職でも、本当に個人のニーズに合わせて上司と話をして決められるということです。特に、制度の部分がユニークだと思われがちなのですが、実を言えば、私が一番、P&Gがユニークで、他の日本の会社にはまだ浸透しきっていないかもしれないのが、キャリアに対する考え方と評価制度だと思うのですね。

個人個人がキャリアを積むためにどのように考えているのかということは、本当に入社した時から上司と話し合っていきます。それから、やはり会社ですので業績を上げなければいけませんから、業績に対してどういう貢献をすることによってキャリアを形成していくのか、個人個人のプランの中に落としていきます。毎年、その評価の基準というものは明確に決められるのですね。

基本的にはきちんとそうした結果を出していく。あとは、「ピークパフォーマンス」と私たちは呼んでいるのですけど、自分が一番良い状態で働こうとした時、ライフステージの変化や家族の状況によってそれを阻害するものがあるとすれば、制度を活用して解決するという考え方なのです。

制度だけを振りかざすとか、活用することを振りかざすというより、結果を出すためにどういう働き方をするのが一番良いのかを考えるというところが、非常にユニークなのかなと思います。

■固定観念を振り払って一歩を踏み出すことが大事

猪谷:なるほど。それは企業にとって、今日明日、すぐに真似しようと思ってもなかなか難しいと思うのですけど、その実現に向かって一歩、踏み出すためには何が必要でしょうか?

石谷:やってみることかな、と思います。例えば、私が入社した時にも、私の部署には女性のマネージャーがたくさんいました。外資系ですので、女性を活用することに関しては25年前から定着していた部分はあったのですけれど、なかなか結婚して、子供まで産んでいる人は少なかった。まだ若い会社で、今ほど知られていなかったですし、大きくもなかった頃です。ですので、宣伝やマーケティングの部署では、「女性が結婚したら続けられないのでは」という固定観念が、実際にありました。

でも、私は結婚しましたし、子供もできましたので、当然、出産後は会社に戻ってこようと考えていました。P&Gにダイバーシティがあったからこそ、外国人のマネージャーたちが「当然、戻ってくるよね。どうやってサポートしたらいいか?」と聞いてくださった。それで、実践してみたわけですが、一人のケースが出てくると、続く人が現れますから、今では皆、当然のように職場へ戻ってきます。

ですから、固定観念を取り払うための第一歩を踏み出すというのは、非常に大事だと思います。執行役員の立場としては、そういう人を応援していくような、それを力ずくでやらせるわけではなくて、個人がやりたいことなのであれば、それを実現するためにどういうサポートができるのか、考えることが必要なのかなと思います。

■なぜ企業にダイバーシティが必要なのかを考える

猪谷:さきほど、「ピークパフォーマンス」という言葉が出てきたのですが、その人の能力が引き出せる、その人に最適化された働き方という意味なのですね。多くの企業で、多様な働き方を導入したいと考えたり、制度を整えたりしているところは増えてきていると思います。ただ、皆さん努力はされているのですが、なかなか現場に浸透しない。

例えば、ワーキングマザーの方たちが残業せずに、保育園の迎えで早く帰るのを快く思わない同僚がいたり、イクメンの方が育児休暇を取ろうとした時に取りづらい雰囲気があったり、なかなか同僚の理解が得られない、制度があっても利用できないというところがまだまだあると思うのですね。これに対して、社内で共通認識を持ったり、意識を高めたりするためには、どうしていらっしゃるのか、丸谷さんにお伺いしたいと思います。

丸谷:皆様がダイバーシティと言った時に、日本ではワーキングマザーの話ととらえられることが多いと思うのですけど、ダイバーシティとは多様性ということなんですよね。ですから、ワーキングマザーだけの話ではなくて、個人は一人一人が違うととらえ、その中で、色々な違いがある人たちがどうすれば活躍できるのか、という話なのです。

弊社の場合、なぜダイバーシティが必要なのかというと、違う考えを持ち、バックグラウンドも違う人たちがいることによって、新しいイノベーションが出てくると考えているからです。これは、ビジネスストラテジーの中で必要なものであると位置づけられているのですね。ですから、まずは自分たちのビジネスにとって、ダイバーシティがどういう意味をなしているのかということを明確に持つということが、大切なことではないかなと思います。

弊社の場合も、例えば、男性社員が介護などの理由で早く帰ることもあるかもしれないですし、別の社員がキャリアステップのためにダブルスクール、大学院に行きたいかもしれません。一人で家で集中した方がより生産性が上がるということだったら、在宅勤務をした方がいいのでは、という話もします。色々なニーズがあるわけです。

それが、ある特定のワーキングマザーのものだけになると、どうしてこの人たちだけ特別な支援を受けているのだろうと考えてしまうかもしれません。ですから、本当のダイバーシティということを考えていだければ、そういった職場での対立は起こりにくくなってくるのではないでしょうか。

もう一点、弊社は柔軟な働き方を導入するのが目的なのではなく、一個人が最大限の力、結果が出せるというところを達成していきたいということなんです。それを考えた時に、結果をマネージするという人事評価制度を作っていくことが、ベースとして本当に必要なのではないかなと思います。どうしたらその人が一番良い形で結果を出せるのか。その解決方法として、柔軟な働き方があるということです。

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「柔軟な働き方を導入するのが目的ではなく、一個人が結果を出せることを達成するのが目的」と語る丸谷さん

■柔軟な働き方をすることで、より家族やキャリアに良い影響

猪谷:これまで、お仕事を中心にお伺いしてきたのですけれど、とはいえ人生は仕事だけではなく、当然プライベートもあっての人生だと思います。こうした柔軟な働き方が、ご自身の人生にとってどのような影響があったのか教えていただけたらと思います。

丸谷:仕事も含めて、自分らしい生き方ができていると思います。例えば、朝8時に出ようと準備をしていたら、子供が「ママ、トイレ」と言ってきたり、「この服を着たくない」と泣いたり。もしも、8時半までに保育園に到着しなければ仕事に間に合わないというプレッシャーがある職場だったら、それがストレスになって子供を叱ったり、子供に向き合えなかったりするかもしれません。一日のスタートが、子供にとっても私にとっても、不快なスタートになってしまう。

でも、いつもフレックスワークで、「今日は会議がないから9時に到着しても大丈夫だろう」ということになれば、余裕ができて朝の10分でも子供と向き合えますし、私も子供もお互いにポジティブな一日が過ごせます。それが本当に私にとってはプラスになっていて、だからこそ、もっといろいろ良い結果を出したい、こういう風に良くしてくれる会社だからもっと頑張りたい、という気持ちになりながら前向きなキャリアの形成につながっています。

石谷:私の場合は、家族が離れて暮らすという働き方をしているので、夫婦仲が悪いのではないかとか、いろいろ思われるかもしれないのですけど、実は非常に仲が良くて、本当に色々と話しながら決めてきました。ここまでくるのに家族の理解は大きかったなというふうに思います。

特に日本に帰ってきてからこの2年間は、私が神戸に行っていない間は主人と子供たちとで協力してご飯を作ったり、主人も夜型人間だったのが朝7時に子供たちと一緒に出ていったり。家族全員、皆がコンフォタブルになるよう、できる範囲でやってくれようとしてくれている。すごくありがたいなと家族に感謝していますね。

猪谷:お伺いすればするほど、ダイバーシティがいかに大事かということが、非常に実感できるお話だったと思います。今後、多様性の社会を実現していくためには、やはりそれに対応した働き方というのが大事になってきます。そうしたものを考える上で示唆に富んだ、素晴らしいヒントがたくさん詰まったお話だったのではないかなと思います。今日はありがとうございました。

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