子育てしやすい国へ――小室淑恵さん、田中俊之さん、中野円佳さんと考えた、これからの働きかた

日本が子育てしやすい国になるには、何が必要なのか――。
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日本が子育てしやすい国になるには、何が必要なのか――。

ハフィントンポスト日本版は5月16日、ダイバーシティに焦点を当てた2周年イベント「未来のつくりかた」を都内で開催。有識者によるパネルディスカッション「子育てしやすい国へ――これからの働きかた」を行った。

登壇したのは、株式会社ワーク・ライフバランス株式会社社長の小室淑恵さん、武蔵大学助教の田中俊之さん、女性活用ジャーナリストの中野円佳さん、ハフィントンポスト編集者の久世和彦の4人。経済キャスターの谷本有香さんをモデレータに、これからのワーク・ライフバランスや、男性の働きかた、女性の活躍推進などについて、活発な議論を交わした。当日の様子をレポートする。

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「子育てしやすい国へ――これからの働きかた」登壇者のみなさん

■小室淑恵さん「人口オーナス期の働きかたに」

最初に、2006年の創業以来、900社以上の企業に働きかた見直しコンサルティングを行い、社員の「残業ゼロ」で増収増益を達成してきた株式会社ワーク・ライフバランスの小室さんが、これからの時代に必要な働きかたを紹介した。

安倍内閣の産業競争力会議でも、ワーク・ライフバランスに関する提言を求められる機会が増えたという小室さん。政府にも、ハーバード大学のデービッド・ブルーム氏が提唱した、国の「人口ボーナス期」「人口オーナス期」について説明しているという。

「人口ボーナス期は、その国の経済が発展して当たり前の時期。若者がたくさんいて、人件費が安くて、早く安く大量に物を作って提供すれば、世界の市場を凌駕できる時期です。高齢者も少ないので非常に財政負担が少ない。年金のような社会保障負担が少ないので身軽。儲かったお金が、そのまま国の投資に使えるんですね。これが今の中国、韓国、シンガポールやタイ、人口ボーナス期の国です」

「日本は、90年代の半ばに人口ボーナス期がもう終わりました。人口オーナス期は、高齢者がたっぷりいて、若者が少ない時期なので、様々な社会保障費がかさみます。経済発展した国なので、親が教育投資をして、子供が高学歴化します。そうすると、子供の晩婚化が進み、出産時期が後ろ倒しになって少子化が起きるんですね」

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人口ボーナス期、人口オーナス期について(株式会社ワーク・ライフバランス)

人口ボーナス期は1度終わると2度と来くることはないが、日本は人口オーナス期に入り20年経った今も、人口ボーナス期の働きかたを引きずっているという。小室さんは、「これからの時代には、「早く、安く、大量に」モデルが通用した人口ボーナス期とは、真逆の短時間で効率的に働くような働きかたが必要になる」と語った。

「人口オーナス期は、人口が少なくなって労働力が減るので、男女をフル活用した組織しか勝てないんですね。時給が上がるので、短時間で効率的に働かなければ勝てない。3つ目が一番大事なんですが、高い付加価値を生み出さなければ勝てないビジネスに変換するので、多様な人が異なるアイデアをぶつけ合って、思いも寄らないイノベーションを起こしていかないと生き抜けないんです」

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株式会社ワーク・ライフバランスの小室淑恵さん

■田中俊之さん、「男性の働きかたの見直しが必要」

続いて、「男性学」を研究する武蔵大学助教の田中俊之さんは、男性が男性だからこそ抱えてしまう問題を紹介した。家庭環境や学校教育などによって培われた男性の「働かなきゃ」「家族を守らなきゃ」という価値観によって、男性も生きづらさを抱えており、この価値観が女性の働きかたにも影響しているという。

「男性は、学校を卒業したら、正社員として就職して、結婚して、妻と子を養うということが、人口ボーナス期に形成された男性像ですね。これとセットで、結婚あるいは出産を機に辞めて、子育てをする女性像が形成されていったんだと思います。女性の生きかたが性別で決まるのと同じように、男性の生きかたも性別で一通りしか許されないのは、おかしいんじゃないかと考えています」

「製造業や建築業など、かつて男性が大量に雇われていた職場が、縮小してしまっている。男性の平均賃金も下がっている。かつての男性像、つまり男の人は、正社員として就職して、結婚して妻子を養うというのは、現状では普通じゃないんですね。ただ、それを普通だと思っているから、“普通のことも実現できない自分”を責めてしまう男性が多いのです」

田中さんは、そんな男性の働きかたを見直すことは、「社会を大きく変える、伸びしろがある」と展望を語った。

「男性の育児休業は、今非常に少ないですけども、これは逆にいえば、伸びしろが、滅茶苦茶あるということなんですね。女性の育児休業を推進することや、もっと取りやすい環境を作っていくことも大事かもしれませんけれど、(男性の育児休業取得率の)1%とか2%を、5%とか10%にしていくことは可能なはずなんです」

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武蔵大学の田中俊之さん

■中野円佳さん「子供を産んだ女性は、出産後に二極化する」

続いて、新聞記者を経て女性活用ジャーナリストとして活躍する中野円佳さんは、2014年に出版した『「育休世代」のジレンマ』をもとに、2000年前後、女性の総合職採用数が増えてから企業に入社した育休世代が、育休などの制度は整ったのに、なぜか苦しい現状を紹介した。

「詳しいことは本を読んでいただきたいんですけど、サブタイトルである「女性活用はなぜ失敗するのか?」の理由を、非常に単純化していうと「出産後に、総合職の女性が、二極化する」からなんですね。コントラストがはっきりした動きとして、入社したときやる気満々でバリバリ働こうと思っていた女性ほど、出産後に結局辞めてしまう現状があります」

「理由は、複合的に絡んでいますが、ひとつは就職活動のときに、男性と同等に働きたいと考えて会社を選ぶ。福利厚生や働きやすさで会社を選ぶことは甘えなんじゃないの? と、やりがい重視でハードワークの仕事を選ぶんですね。その価値観で結婚するので、自分と同等以上にハードワークの夫を選んでしまう。一方で、子育てを親に丸投げすることには抵抗があって、自分たちでやらないといけない、と思っています」

自分の仕事もハードワークで、夫は忙しく働いていて、子育てを親に頼ろうとしない。こういったマッチョ志向の価値観が、自分の首を絞めることにつながっている。家事育児をしながら、時間制約のあるなかで働くと責任ある仕事を任せてもらえず、正当に能力を評価されないと感じて、会社を辞めてしまうのだという。

一方で、そういった労働意欲や競争意識を、就職や産後などのタイミングで、調整したり諦めたりした女性のほうが、会社に残りやすい現状があるという。

そういった育休世代の現状を踏まえ、中野さんは、今後は「長時間労働で働ける人と、そうでない人の二極化ではなく、短い時間でも、正当に生産性を評価される仕組みと、やりがいが得られる働きかたが必要」などと語った。

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女性活用ジャーナリストの中野円佳さん

■結婚、出産、起業……有識者が働きかたを見直したきっかけ

次に、モデレータの谷本さんが、登壇者のみなさんが働きかたを見直すきっかけとなったエピソードについて質問。それぞれが、結婚や出産、上司との出会いなど、様々なターニングポイントを紹介した。

——田中先生のターニングポイントは?

田中さん:僕、まだ結婚したばかりなんですね。去年、39歳で結婚しましたので、それまでずっと1人で暮らしていました。1人で暮らしているときというのは、自由に時間を使えばいいでしょうし、夜中まで家で仕事したいんだったらすればいいし、夜ご飯は外食すれば済んだわけなんですけど、一緒に暮らす人がいるとそうはいかないんですね。

家事分担という話が、なぜ夫婦の間でよく議論になるかよくわかりました。僕の認識では、明らかに僕のほうが家事をやっているんですけども、相手はそう思っていないということがわかったんです。やっぱり人間は、主観でしかものごとを見ていないということですね。お互い自分はやっていると認識しているんですね。

■妊娠をきっかけに、職場での扱われかたが変わった

——中野さんは、やはり『「育休世代」のジレンマ』を書かざるをえなかった状況があったのでしょうか。

中野さん:新聞記者を5年ぐらいやって妊娠するまでは、結婚後も含めて、朝も夜もなく働いて、女だからといって苦労したこともあまりありませんでした。。転機になったのは、夫婦間の分担というよりは、仕事上での職場での扱われかたが変わったことです。

瑣末(さまつ)なことなんですけど、結婚したら今まで呼ばれていた会食に呼ばれなくなったんです。仕事を頑張っているから呼んでくれていたと思っていたのに、結婚したら呼ばれなくなるということは、今まで独身女子というカテゴリーとして呼ばれていたのだろうか、と。

さらに、妊娠するといろいろな人に「仕事は、降りたのね」といわれたり、異動したら「楽な部署に行ってよかったね」と同期の男性にいわれたり、何かもう一人前じゃないというようなカテゴリーで見られることに、違和感を覚えました。その変化が、この問題を分析したいというふうに思ったきっかけです。

■上司の命令「19時に帰れ」で働きかたが変化

——小室さんは、ワーク・ライフバランスの第一人者ですが、何がきっかけだったのでしょうか。

私にも残業するのが大好きだった独身時代がありました。あるとき上司が変わって、その上司は毎日、定時に終わったら飲みに行っちゃう人だったんですけど、カバンを忘れちゃったといって、飲み終わった後に職場に戻って来たことがあったんです。

私の中では、ついに頑張っている私を発見してもらった高揚感で、「いつもこうやって頑張っていたんですよ」という話をしようと思った瞬間、「こら!」ってものすごく怒られたんですよね。

翌日から、私の顔を見たら「19時に帰れ」としかいわなくなったんです。私は腹を立てました。「こんなに頑張っている私を認めないなんて」と当時は思っていましたから。でも、「もう帰れ」としかいわれないので、パソコンなど一式持って、外のカフェで仕事をするようになったんですね。

そのうち外に出ると、友だちと夕飯食べようかという気持ちが湧いてきたんです。当時、私が立ち上げていた育児休業者の復帰支援をするプログラムを営業する企業を探していて、いつもは午前中に50件ぐらい電話して、1件アポが取れるか取れないかだったんですけど、友人とご飯を食べていると「人事部長の名前、これだよ。女性活用がどうのっていってたから、多分アポ取れるよ」といわれてですね。それで翌朝、1件目でアポが取れるんです。「何だこれは」と。

ライフのインプットこそが、いろんな仕事のアウトプットにつながるんですね。それがないから、今まで机の上で、ひたすら数をこなしていたんだなということに気づいたのが最初のきっかけです。

■出産後の起業、時間の制約によるモチベーションが低下を実感

また、長男を出産して3週間後に今の会社を起業して、私自身が時間制約を持ったときに、他の人が残業をしている中で、自分だけ先に帰るのが、こんなに肩身の狭いものだとわかったんですね。役に立たないんじゃないかと思い始めたらモチベーションが下がって、実際に仕事の成果も出なくなったんです。肩身が狭いことと仕事の成果が、連動性があるんだということに気づきました。

日本はあと2年したら、団塊世代が全員70代に入ります。団塊ジュニア世代は、晩産化して出産年齢が遅いですから、育児している間に介護も始まります。育児と介護が重なる世代が、日本の労働力を支えている状況です。長時間労働ができなくても、モチベーションを落とさずに働いてくれる会社にする。これを経営者がやっていくことが大事なんだというのを、身をもって体感したことも大きいですね。

■ワーカホリックな3児の父、妻の復職で働きかたを見直し

——そして、ハフィントンポストの久世さんは、私がいつメールをお送りしても返信が来る人でした。いつも「いつ寝てるんだろう?」と思っていましたが、良いパパになったんですね。

この会社に入るまで出版社で週刊誌や書籍の仕事をしていたんですけども、深夜残業をするのが当たり前のように思えて、毎日のように会社に泊まり込んで徹夜をして……という生活をしていました。2人の子供が生まれても、仕事の仕方が切り替えられなくて、妻に本当に迷惑をかけたかなという感じです。

今の職場でも、上司からも同僚からも頼まれてもいないのに、遅くまで仕事をしていました。「早く帰れ」といわれたりすることもあったんですけど、大きな転機になったのが、3人目の子供を産んだ妻が、4月から復職をしたことです。

それまでは2人の子供のお迎えは、ほぼ妻に任せっきりだったんですけども「それじゃいかんな」と思いまして、最近は朝方勤務を取り入れて、労働時間を調整しながら、週3回(保育園の)お迎えに行くと決めて実践しているところです。子供3人の面倒を見ながら夕食の支度をしたりも。(料理も)やり続けることでスピードアップしてきているところです。

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ハフィントンポスト日本版の久世和彦

■子育てしやすい国へ――本当に大切なことは?

ディスカッションでは、今回のテーマである「子育てしやすい国にするためにはどうしたらいいのか」に話が及んだ。個人でできること、企業や国が取り組まなければならないことなど、活発な意見が交わされた。

——小室さんは、企業のコンサルティングのほか、政府にも提言をされていますが、子育てしやすい国にするために、どのようなことが大切でしょうか。

小室さん:子育てしやすいのはもちろんですが、子供を産みたくなる国にならなければ、この国の未来はないわけです。団塊ジュニア世代が、あと1人、2人子供を産むのか、産まないのかで、今後20年、30年後の日本の人口はすごく変わります。ですが、団塊ジュニア世代の女性の出産適齢期は、あと数年で終わるんですね。最近は、政府も本気でこの問題に取り組んでいると思います。

内閣府の調査によれば、1人目(の子供)を持った夫婦が、その後2人目を持ったかどうかに一番影響していた項目は、「1人目を出産したときの夫の帰宅時間と家事育児への参画時間」だったんですね。「2人以上産もうを思える」社会を作るには、男性側の労働時間のほうを変えないと意味がない。じゃあ、日本ってどうしてこんな状況になっているのかというと、明らかなことは法整備に問題があるということです。

アメリカは、時間外労働をやると、平日で1.5倍から1.75倍の給料を払わなきゃいけないんです。日本は1.25倍。これはフィリピンと同じ(低い)レベル。先進国にこんな国はないです。ヨーロッパはどうかというと、徹底的な上限規制があります。(労働時間は)週40時間とか週35時間、1日7時間しか働いちゃいけないという法律があるんですね。また、前日に帰宅した時間から11時間は連続休息を取らないと、翌日に業務をしてはならないことも決まっています。

日本はどうかというと、厳密にいうと週40時間の上限はあるんです。ただ、36協定を労使と結んでいると、事実上200時間でも300時間でも残業OKなんですね。つまりアメリカ型でもヨーロッパ型でもどちらでもない、何もない型、欠陥だらけの法制度なんですね。これが日本の現状なので、よく今日まで人間が仕事できていたなと私は思っています。

政府が本気で変えなかったら、子供を育てられる国にはならないし、大手企業も人材の奪い合いが始まる時代において、ここのところ(労働時間)で差を出していかなければ、人を惹きつける企業経営はできないと思っています。

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■「男性の20代、30代は、週50時間働いている」現実を変える

——ありがとうございます。田中先生は、どんなお考えをお持ちですか?

僕は、男性個人の話をしていきたいと思います。基本的に、今すぐ劇的に労働環境がよくなるとは思えないんですね。週50時間働いている男性が20代、30代の4割ぐらいいる現状は、現実としてある。多くの子育て期の男性は、働くしかない、ということでもあります。ここを変えていかなければいけないんですけど、現状はこうだという認識は持っておく必要はあると思います。

じゃあ何もできないか、ということですが、やはり男性の意識の問題は、大きいと思います。働くしかない現実があることと、働けばいいという意識を持つことは別だということです。父親世代の価値観とか、受けてきた教育の影響もあるので、男性一個人のせいとは思いませんけども、多くの男性の場合は、働いて一家の大黒柱としての責任を果たしている以上、家族の役割は十分果たしているという意識があると思うんです。

この、男性の「働いてさえいればいい」という意識が変わっていくとき、必然的に現実も変わっていくだろう、と考えます。さっきもいいましたが、やっぱり男性が意識を変えることは、伸びしろがあるんです。働きかたを変えるという意味では、非常に大きな影響があるだろうと考えています。

■女性個人ができる2つのこと「見限る」「発信する」

——続いて、中野さんのご意見をお聞かせください。

中野さん:女性個人にできることを2つ挙げたいと思います。最近は転職市場も活性化してきたので敢えていいますが、ひとつは「さっさと見限る」ということ。優秀な人材が、働く環境が整っていない企業をどんどん見限っていけば、人材獲得競争で圧倒的に負けてしまうという危機感が、マクロ的に企業を変えるのではないかと期待しています。

もうひとつは、今の会社で働きながら女性ができること。今まで、特に子供のいる女性は、どちらかというと子持ちであることが目立たないようにしてきたと思います。家庭が大変なことになっていたとしても、会社でいわないようにして、専業主婦がいる男性と同じように働けることをアピールして来ざるを得なかったと思います。

これからは、「子供がいるからこそ、これだけ私は生産性高く働けています」とか、「子供がいるから、こういう価値を発揮できています」と、もっと発信していってもいいんじゃないかなと思います。子供がいる方だけではなくて、介護している人もそうですし、様々なマイノリティの方が発揮できる価値を発信することは、企業側に「ダイバーシティは、こういうことだ」ということを納得してもらう、ひとつのきっかけになると思います。

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モデレータの谷本有香さん

■女性の活躍推進は、国が働きかたの文化を変えることから

——ありがとうございます。最後に、政府の掲げる、女性の活躍推進についても伺います。小室さんは、どんなところに重要なポイントがあると思いますか?

小室さん:もちろん女性自身への管理職研修も、それなりに大事なんですが、やっぱり労働時間です。画期的な動きは出ていて、今年の7月・8月に、霞が関で働く役人に勤務時間を1時間前倒しにする「サマータイム」を導入すると決めたんです。だけど今のままだと、「早く出社して遅く帰るだけ」という議論がありました。私も政府や各委員会で「本気で働きかたのムーブメントを起こしたいなら、どのレベルの人からやるのか発信してください」とずっといい続けていました。

そしたらですね、内閣官房が「ゆう活」をやります、と発表しました。「ゆう活」の「ゆう」は、夕方の「夕」とか、友だちの「友」とか、遊ぶ「遊」。早く来たら早く帰って、夕方に飲食店に行ったり、若者なら勉強会に行ったり、早く帰って家族で外食したり、そういうことに時間を使う活動です。

「夕方に活動をすることが大事なんだ」と総理レベルで発信していく。政府の政策は、予算を使えばうまくいくわけじゃないですね。考えかたや文化を変えることを伝えるのは、大してお金がかからないので、そこの部分をメディアが大きく伝えていくことも大事なんだと思います。

■ホワイト企業を優遇、ブラック企業化しない仕組みに

税制の話でいえば、労働時間にきちんと配慮をしている企業には、法人税の減税をするとか、ホワイト企業として起業したベンチャー企業には、何か優遇やサポートをするとか新しい価値を作っていくことも大切です。1つひとつの企業がブラック化しない仕組みにすることが大事なのかなと思います。

企業が長時間労働をやると、(子育て中の親は)延長保育をしなきゃいけなくなるので、自治体の赤字になります。介護のデイサービスは午後4時半に終わるので、親が5時ぐらいに家に帰って来るんですね。ケアする家族が長時間労働をしていると、「介護できないから24時間型施設を増やしてくれ」という話になります。

ケア型介護できるような家族のライフスタイルを作らなければ、この国は介護で財政を使い果たして終わっちゃうんです。企業の労働時間と国の財政は、密接に関わっているので、そういったところをもっと明らかにして、国も企業にコミットさせていく流れをつくらなきゃいけない。

そうしなければ、女性が限られた時間の中で働ける環境や、(正当な評価を)勝ち取っていくことにはならないと思っています。

■イクボスが鍵、「人は変わる」個人の多様性にも理解を

——女性の活躍推進で、いろんな企業の社長からも、男性の働きかたや意識を変えなければ進まないんじゃないか、という話を聞きます。田中先生は、何を変えるべきと思っていますか?

田中さん:今、実際にNPO法人ファザーリングジャパンの安藤哲也さんやや川島高之さんなども熱心に活動されていますが、「イクボス」(部下の仕事と家庭の両立を支援する上司)が鍵になると僕は思うんですね。世代交替を待つという消極的な議論もありますが、圧倒的に時間がかかり過ぎます。

僕らが「上の世代の理解がないから」といってしまうのは、可能性を自ら閉じていると思うですね。短期的には、上の世代を批判して非常に気分がスッキリします。でも、そういう人に対して、相手が譲歩するとは思えないですよね。社会を動かすことを視点に据えるならば、育児・家事に理解がない上の世代の上司に、その価値や重要性を伝えていくかということを真剣に考えなければいけないと思います。

もう一点は、「人は変わる」という多様性を認めていくことも、非常に重要だと僕は思います。上の世代の男性は、家事も育児もやってこなかった人が多いと思いますが、その人たちが孫を可愛がっているときに、「あの人は、自分の子供のときは何もやらなかったのに、孫になったら可愛がって」と後ろ指を指す人がいるんですよね。これがよくないんです。

これからの社会は、多様性を認めていくべきだって、みんないいますけども、ひとりの人の内部における多様性を、僕らがどれくらい認められるかということも非常に重要です。

ある時期、非常に仕事中毒だった人が、今、家事・育児を頑張っているのであれば、それはそれでいいわけです。「人が変わる」ということ、あるいは「自分の中にも、他人の中にも、多様性がある」ことを認めることも重要なんじゃないかと私は考えています。

■なぜ女性の意識改革が必要なのか、広い視点で考えることが必要

——中野さんは、女性が活躍していくために、大切な視点というのは、どんなふうにお考えていますか?

中野さん:女性活躍推進というと、必ずといっていいほど「女性自身の意識改革も必要だね」という話が出てきます。「女性自身が望んでいない」とか「女性自身が専業主婦やりたくてやってるんだから」とか、そういう声もよく聞きます。

確かにそうかもしれませんが、「なぜ女性がそう思ってしまうのか」というところから考えないといけないと思います。男性でも働きたくない人、専業主夫をやりたい人がいるでしょう。でもものすごく男女差が出てしまうのは、なぜなのか。働きかたの問題や評価制度の話もそうですし、もう少し広い文脈でいうと、女性がどういう教育を受けてきたか、という問題もあると思います。

子供の教育環境に課題がある場合もあります。たとえば子供にいい教育を与えようと思ったら、状況によっては、幼稚園に行かせたいと思う親が多くなることもあります。そこで母親が関わることを前提にした仕組みがあると、女性が「働かなくていいです、活躍しなくていいです」と思ってしまう1つの要因になる。このように女性の意識の阻害要因を考えて、1つひとつ取り払っていくことが重要かなと思います。

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